実際に“全社員在宅勤務”を実施してみたらインフルエンザ特集(2/2 ページ)

» 2010年01月08日 08時00分 公開
[大津心,@IT]
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懸念だった電話の問題点は“生活音”程度

 まず、同社で在宅勤務を実施するに当たって課題となったのは、「電話」「FAX」「社内LANへのアクセス(ファイルサーバ・DB)」「電子メール」「インスタントメッセージング環境」だったという。これに対し、電話・FAXは同社が提供しているIPビジネスフォンシステム「BIZTEL」を利用した。

 BIZTELは、オープンソースIP-PBX「Asterisk」をベースに改良したIPビジネスフォンサービス。ビジネスフォンに欠かせない、内線やパーク/転送機能に加え、不在時の自動応答やボイスメール機能なども備える。具体的には、会社で使用するノートPCにBIZTELをインストールして自宅に持ち帰り、会社にかかってきた電話を持ち帰ったノートPCで受けた。通話はヘッドセットや専用電話端末をノートPCに接続して行った。

 会社にかかってきた電話を、ほかの在宅勤務者に転送することもできるほか、会社に届いたFAXは自動的にPDF化されたものをメールで受信したという。リンク BIZTELシステム開発 坂元剛氏は、「通話音質や転送機能、保留など、通常の業務で必要とされる機能に問題はなかった。ただし、自宅勤務であるため、テレビ音声や学校のチャイム、宅配業者が来たときなどの、いわゆる“生活音”は防ぎようがなかった。ただし、この点に関してクライアントや取引先などからクレームは来ていない」と説明した。

リンク BIZTELシステム開発 坂元剛氏

 社内ネットワークへのアクセスや、メールの送受信はVPN経由で実施した。在宅勤務時の懸念点として、「ネットワーク盗聴」が挙げられる。社内LANは閉じた環境であるため、盗聴の可能性は低いが、自宅から社内ネットワークへは、専用線でつながない限り、インターネットを経由して接続する。そのため、暗号化しないとインターネットを通過する際に盗聴される危険性がある。このことから、同社では仮想的に専用線接続の環境を作るVPNを利用して、セキュリティを担保したという。

 また、自宅勤務の問題として「実際に机の前に居るのか分かりづらい」という点が挙げられる。社内であれば、見渡したり、実際に席の前に行けば、在席しているかどうか分かる。しかし、自宅勤務では難しいため、「いま仕事中なのか、食事中か、トイレに入っているのか」などが分かりづらい。リンクではインスタントメッセンジャーの在席機能を利用。勤務時間も、メッセンジャーのステータスを「勤務中」「勤務終了」などとすることで、各自の状況を表示したという。

電話会議は「人数が多いと相づちが気になる」

通話時にはこのようなUSB電話機を接続して通話した

 社内の打ち合わせや社員同士のコミュニケーションは、電話会議室やメッセンジャーを利用した。電話会議室は、BIZTELの電話会議室機能を利用。この機能は、決まった電話番号に電話をかけると、同時に複数人と会話できるというものだ。ヘッドセットを使ってハンズフリーにし、PCを操作しながらの会議も可能だという。「ただし、あまり人数が多すぎると、顔が見えないせいもあり、相づちが多すぎて聞きづらいかもしれない。5人くらいが適当」(坂元氏)という思わぬ問題も出た。

 また、「PS3(PlayStation 3)」純正のビデオチャット機能も併用したという。PS3のビデオ会議機能は、PS3にUSBカメラを接続することで、ビデオ会議ができるというもの。最大6カ所と同時接続のビデオ会議ができるほか、業務用として十分利用可能なクオリティを実現している。必要機材もPS3とUSBカメラだけなので投資コストも安い。実際に筆者も体験したが、必要十分な画質を実現しており、コストパフォーマンスの高さに驚いた。

PS3を利用したビデオチャットの様子。大型テレビに接続しても問題ない程度の解像度と音質を実現していた

 印刷環境は、社員の自宅用にプリンタを支給。客先への訪問は、パンデミックを想定したため、公共交通機関以外に限定し、タクシーと自家用車だけにしたという。来客については、2日間だけだったのでアポイントは別の日にずらした。同社の場合、アポなし来社は飛び込み営業だけなので、張り紙で対応したという。

懸念点はほぼクリア。将来は育児休暇中などでの応用も

 リンク 広報宣伝ディレクター 内木場健太郎氏は、今回の演習結果について「電話や社内LANへのアクセスなど以外にも、『ほかの社員が在席しているかどうか見えない』といった不安があったが、メッセンジャーの機能を使うことでほぼ解決できた。また、電話会議室機能やビデオ会議を導入したことで、効率が良くなった。これらさまざまな機能やツールを組み合わせることで、かなり会社の環境に近い状態で業務を行うことができた」と説明。

 同社では、今回のような在宅勤務方法がパンデミックや大規模災害時以外にも活用できると考えている。例えば、「自宅で育児をしながら」や「けがや病気で自宅療養中」といった環境でも業務を行うことが可能だという。さらに、複数拠点における事業や海外勤務などにも応用可能だとした。

 岡田氏は、「今回の演習でかかったコストは、BIZTEL用のUSB接続電話機、ヘッドセット、プリンタなど、合計でも1人当たり3万円程度で済んでおり、大規模なバックアップセンターを構築するような莫大なコストはかかっていない。通常業務を継続する最低限の環境はこの程度のコストで実現できるので、中小企業でも十分導入可能だ。事業継続のためだけでなく、“新しいワークスタイルの提案”という意味で、このような取り組みを検討してもいいかもしれない」とコメントした。

要約

 BCPを策定したものの運用面を特に考慮していない企業は多い。今回はBCP演習のために実際に全従業員の在宅勤務を実施した株式会社リンクに話を聞いた。

 リンク社長の岡田元治氏は「BCPは計画しただけではなく、実際に試さなければ意味がない。また、復旧作業期間中の給与なども考慮して資金備蓄も行っておくべき」とコメント。同社では全従業員の給与半年分の現金が常時準備されているという。実際に在宅勤務を行ううえでの課題は「電話」「社内LANへのアクセス」「在席しているかどうか見えない」など。

 電話は同社のIP電話サービスを利用することで、ほぼ問題は起きなかったが、テレビや玄関のチャイムといった“生活音”は避けられなかったとした。社内LANへのアクセスではVPNを利用し、在席状態はインスタントメッセンジャーの機能を使用。そのほか、電話会議機能やPS3のビデオチャット機能も活用し、コミュニケーションを補完。その結果、当初予想していた懸念点はほぼ解決し、今後は育児休暇中や病気療養中などにおける在宅勤務時などで利用していきたいという。


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