分からないことは1つに絞る――アポロ13号に学ぶ「思考の刺激法」プロ講師に学ぶ、達人の技術を教えるためのトーク術(2/3 ページ)

» 2010年01月20日 12時00分 公開
[開米瑞浩,Business Media 誠]
図1.アポロ13号問題の要求事項を展開したロジックツリー

 あっさり書いてありますが、こういった要求事項を整理するのは簡単なことではありません。特に、アポロ13号のように「タイムリミットの短い問題が起きてそれを解決しようとしている現場」はてんやわんやしているものですし、図1のように整理された形ではなく、末端レベルの要求事項が次から次へと出てきて対応に追われるのが普通です。

 この「要求事項の整理」をロジックツリーで行うのは「考える」課題としてはかなりハードルが高いので、わたしとしては、ある程度レベルの高い受講者が「ロジカルシンキング」などの研修に来たときに限定して行う方がよいと思っています。その条件が望めない場合は、トップレベルの要求事項(乗員の無事帰還)とその直下の大項目(軌道制御、電力確保、空気確保)のあたりまでは講師の側から最初に明示するか、少なくとも途中でヒントとして与えられるようにするべきでしょう。

その3:使える材料が明確だった

 3番目に、その要求事項を実現するために「使える材料」が明確だったことです。

 例えば図1を見ると、要求事項の末端に「着陸船内空気から二酸化炭素を除去する」というものがありますが、アポロ13号でそのために使える材料は当然、その時船内にある物資だけでした。個人的な経験から言っても、

  • 明確な要求事項を実現する方法を、限られた材料を使って考える

 というのは、考える上でのハードルが一番低く済みます。そのため、「考える」ことに慣れていない受講者を対象にするときは、要求事項と材料は明示してやるほうがいいでしょう。

「仕組み」を考えることは一番ハードルが低い

 ところで、要求事項が明確で、使える材料が明確だとしたら、明確でないもの、つまり「考えなければならないこと」とはいったい何でしょうか?

 それは、「要求事項を実現するための仕組み」です。

 アポロ13号の例でいうと、「着陸船内空気から二酸化炭素を除去する」ために彼らは、「船内に存在する物資」という「使える材料」で、「着陸船の空調系と司令船の二酸化炭素フィルターをつなぐアダプター」を作りました。これが、「要求事項を実現するための仕組み」です。

図2.分からないことが1点に絞れていると、考えやすい

 例えば「要求事項は分からないけれど仕組みは分かっている」というケースはありえませんよね。同様に、「使える材料は分からないけれど仕組みは分かっている」というケースもありえません。

 「仕組み」は、「要求事項と使える材料」がハッキリしないと決められないものです。そのためこれを考えるのが一番ハードルが低いので、「考えさせるワーク」をさせる場合はまずこのレベルをターゲットにするべきです。

分からないことを1つに絞って考える

 また、それを別な角度からいうと、「分からないことは1つに絞って考えさせるべきである」とも言えます。

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