こんな人なら節税できる(後編)個人事業主もサラリーマンも読める「税金の話」(3/3 ページ)

» 2010年02月22日 16時33分 公開
[奥川浩彦,Business Media 誠]
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青色申告ソフトを使おう

 個人事業主には、まだほかに節税できる控除がある。1つ目は小規模企業共済等掛金控除だ。個人事業主のための退職金みたいなもので、月に1000円〜7万円を掛けることができ、掛金の全額が控除される。年間84万円まで掛けることができるので節税効果は大きい。掛けた共済金は廃業、退職した時に一括・分割などの方法で受け取れる。年払いをしても、払った年の控除が認められるので、もうかったら年末にドンと払って将来に備えることもできる。増額はもちろん減額も可能なので、その年の売上を見て、年払いの金額を上下できるから、収入の不安定な個人事業主にはありがたい。

 2つ目は青色申告特別控除だ。申告方法には白色申告と青色申告がある。申告が簡単な白色申告では控除額は0円だ。青色申告特別控除は10万円の控除と65万円の控除がある。比較すると、

申告方法 控除額 概要
白色申告 0円 記帳義務がない
青色申告 10万円 簡易簿記による記帳
65万円 複式簿記による記帳、損益計算書と貸借対照表の提出

 簡単にいうと細かな書類を作れれば控除額が増えるということだ。

 とはいえ複式簿記、貸借対照表と聞いてササッと書ける人は少ないだろう。筆者も開業時に一応簿記の書籍を読んでみたが、「貸方・借方、右手・左手……無理」とあきらめた。そこで登場するのが青色申告ソフトだ。小遣い帳のように入出金を入力していけば、損益計算書と貸借対照表も最終的な確定申告書も計算して印刷してくれる。減価償却などのやや難しい計算も買った日付と金額、償却方法を入力すれば自動的に処理してくれる。データに不整合があった場合も青色申告ソフトが指摘してくれる。

 白色申告は記帳義務がないといっても、経費等を算出するためには、1年間で1000枚を超える領収書を集計しなければいけない。ITmediaの読者であれば、電卓じゃなく表計算ソフトを使用するだろう。それならば青色申告ソフトに入力するだけで、65万円の控除が得られるわけだ。

 青色申告は開業から2カ月以内に青色申告承認申請書を出す必要がある。65万円の控除以外にも青色申告のメリットは多い。これから開業する人は、ぜひ開業届と一緒に申請書を出すことをお勧めしたい。

子供手当、高校無償化はどうなる?

 課税所得、所得税、住民税などの仕組みがなんとなく理解できたとして、話題の子供手当、高校無償化を考えてみよう。現段階でも子供手当は1年目半額支給、2年目は全額支給のはずが財源が厳しいので半額支給……とハッキリしていない。2年目以降の財源は扶養控除、配偶者控除を廃止するとかしないとか不透明な状況だ。

 財源が厳しいことは変わらないので、おそらく来年以降も変更される可能性は高いと思われる。政権交代で劇的に変わる可能性もある。税金のロジックを理解すれば、自分自身にどれだけ損得があるかが計算できるようになる。

 まず確認が必要なのは、自分自身の課税所得と控除の内訳だ。ここまで例にあげた課税所得410万円、控除の内訳に配偶者控除(所得税38万円、住民税33万円)、扶養控除(所得税38万円、住民税33万円)のケースで計算してみよう。

 このケースでは、子供は16歳未満なので子供手当が1人分(全額31万2000円)支給される。もし配偶者控除と扶養控除が廃止されると、課税所得は

  • 所得税:4,100,000円+380,000円+380,000円=4,860,000円
  • 住民税:4,265,000円+330,000円+330,000円=4,925,000円

 これにより所得税と住民税は

  • 所得税:4,860,000円×0.2−427,500円=544,500円(152,000円増)
  • 住民税:4,925,000円×0.1−2,500+4,000=494,000(66,000円増)

 増税分の合計は21万8000円なので、子供手当が31万2000円支給されても、実際には9万4000円のプラスとなる。

やがて子供が高校へ進学した場合はどうなるか。昨年までの税制だと扶養控除(特定扶養親族)が所得税で38万円から63万円(差額25万円)、住民税で33万円から45万円(差額12万円)に増える。課税所得は、

  • 所得税:4,100,000円−250,000円=3,850,000円
  • 住民税:4,265,000円−120,000円=4,145,000円

これにより所得税と住民税は

  • 所得税:3,850,000円×0.2−427,500円=342,500円
  • 住民税:4,145,000円×0.1−2,500+4,000=416,000円

 と、控除が増えることで大幅に減税されることになる。これが配偶者控除と扶養控除(特定扶養親族)が廃止されると先ほどと同じ額になるので、

  • 所得税:4,860,000円×0.2−427,500円=544,500円(202,000円増)
  • 住民税:4,925,000円×0.1−2,500+4,000=494,000(78,000円増)

 増税分の合計は28万円、公立高校の無償化で年に約12万円が補助されたとしても、マイナス16万円となってしまう。

 元々扶養控除は扶養する親族がいるからもらえる控除で、その多くは子供がいる家庭だろう。子供のいる家庭から扶養控除を廃止して、子供手当や公立高校無償化の財源にしてもプラスマイナスの差額が出るだけだ。分かっていて詭弁なのか、理解していないのかは不明だが、ほかに財源を用意しなければ子供手当も公立高校無償化も、労力や事務手続きの無駄が増えるだけになりそうだ。

 試算の結果は控除の廃止、存続や、自分の家族環境、課税所得の額によって変わってくる。まずは自分自身の課税所得と控除を理解して、自分で計算できるようになっていただきたい。


 次回は、「経費を増やす」「固定資産の減価償却」をテーマに、引き続き節税のことを考えてみよう。

消費税8%時代の確定申告
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