引退後も戦力になる人材育成――日本ユニシスバドミントン部アスリートという働き方

冬季オリンピック、FIFAワールドカップ――。2010年は、さまざまな競技に注目が集まる年だ。しかし不況の昨今、金銭的な面でスポーツ界は存続自体がなかなか厳しく、廃部や企業のスポンサー撤退も珍しくない。スポーツを職業としている人たちは、どんな働き方をしているのだろうか。今回は日本ユニシス実業団バドミントン部を訪ねた。

» 2010年03月16日 08時15分 公開
[塙恵子,Business Media 誠]
photo 日本ユニシス実業団バドミントン部女子チーム

 2月28日、バンクーバーオリンピックが閉幕した。選手たちはすでにその4年後を見据えた練習を始めているに違いない。世界を目指す選手が競技を続けるにあたって重要なのが、スポンサーや企業のバックアップだ。しかし不況の今、廃部やスポンサーの撤退などもよく耳にする。

 そんな中でも、企業スポーツに力を入れているのが日本ユニシスだ。2009年は特に強化が形となった年だった。同社実業団バドミントン部女子チームが、1部リーグに昇格。男子チームも3年ぶりに日本リーグを制覇した。女子チームは2007年6月に創設し、2008年で本格スタートしたばかり。これほど短い期間で1部リーグに昇格した例はないという。ITソリューションを提供する同社が、なぜバドミントンというスポーツに力を入れるのか。また選手たちはどのような働き方をしているのか。

引退後も戦力となるために

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 「スポーツができるというだけでは採用しない」と言うのは、人事部シンボルスポーツ推進室長 阿部秀夫氏だ。スカウトをした選手にも、一般社員と同様の採用試験を必ず受けてもらう。これは1989年創部当時からの方針だ。「世界選手権やオリンピックで金メダルを取れる選手はほんの一握り。18才、23才で入社して、引退は大体27、28才ごろ。社会人としてそのあとの35年何もないのでは仕方がないでしょう」と阿部室長。会社組織で溶け込み、社員としてきちんと働いていけるかなど、将来のことを考え総合的に判断して採用しているそうだ。

 新人研修はしっかり半年間設けている。会社の仕組み、仕事内容の説明などは社内で行うことが多いが、選手は海外遠征や会見など公の舞台に出るため、外部から講師を呼び、受け答えのマナーや身なりなどについて学ぶ機会も与えている。「受け答えがきちんとできていることが、企業スポーツのあるべき姿だと思う」(阿部室長)

 週2日は1日練習だが、そのほかは午前中各部署の職場で働き、午後に練習をするというスケジュールをこなす。選手としてだけではなく、社員としての役目も果たさなければならない。現在女子チームのキャプテンも広報で活躍しているという。「彼らが引退したときは、一般社員に比べ5〜7年遅れている状態。日本ユニシスに骨をうずめるじゃないですけど、セカンドキャリアはどうするのかを考えなければなりませんから」(阿部室長)。そのため、引退後も引き続き同社で働き、社員として戦力になっているOBが多いという。

バドミントンが会社のシンボルに

 バンクーバーオリンピックでは、日本のメディアはフィギュアスケートやカーリングの試合を大きく報じていたが、2年前の夏季オリンピックでは、「オグシオ」人気などでバドミントンが一躍脚光を浴びた。日本ユニシスのバドミントン部の創設のきっかけもオリンピックだった。創部1年前に行われたソウルオリンピックをきっかけに、社員の士気高揚策として「会社からオリンピック選手を出す」という目標を打ち出した。徐々に会社が大きくなっている中、スポーツに還元する意味もあった。

 「設備費なども最小に抑えられる」という理由で選び、たった3人からスタートしたチームは、今やオリンピックや世界選手権に選手を輩出するまでに成長した。そしてバドミントンは会社のシンボルスポーツとなった。社員も関心が高く、個別にバドミントン大会を開催したり、選手の応援旅行を企画したりするなど協力的だという。「普段はみんなと普通に仕事をしているから、プレーを見て感動する。机を並べている人が大きな大会で活躍する。社員も選手の応援で一体になっているようです」(阿部室長)

報告は社会人として当たり前のこと

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 2年後に控えたロンドンオリンピックに向け、ナショナルチームの練習も活発。ナショナルチームはAチーム(ロンドンオリンピック対象)とBチーム(リオデジャネイロオリンピック対象 20才以下)に分かれており、日本ユニシス女子チームは現在Aチームに3人、Bチームに3人を送り出している。

 ナショナルチームの練習に参加した場合も、監督やコーチに練習の内容をメールで報告することになっている。「報告は社会人として当たり前のこと。職場にいるときと同じように、どういう形でもちゃんと選手の動向を把握するのは当然です」(阿部室長)

 練習メニューやスケジュールは場当たり的ではなく、コーチやスタッフで週単位で決めているが、これらの内容はすべて所属する部署の責任者に相談する。またイントラネットなどに安全に接続できる同社提供のSaaS型リモートアクセスツール「SASTIKサービス」を使うことで、選手は長期合宿時でも勤務表の入力や社内情報の確認が行える。「積極的に職場と意見交換をするようにしています。職場から大事な社員を預かっているので」(阿部室長)

どの会社よりも緻密(ちみつ)な戦略を

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 チーム目標は男女ともに2大タイトル「バドミントン日本リーグ」「全日本実業団バドミントン選手権大会」の制覇、そしてロンドンオリンピック出場、メダル獲得だ。会社もそのための強力なバックアップを始めた。IT戦略の専任担当者を用意し、相手チームのラリーパターンの攻略を行っている。阿部室長は「バドミントンは非常に戦略性が高いスポーツ。ITとも親和性が高い。日本ユニシスの技術は、バドミントンをうまくサポートする。どの会社よりも緻密(ちみつ)な戦略ができるようにしたい」と抱負を述べた。

 しかし「日本ユニシスが勝てばいいというだけではない」と阿部室長。会社だけではなく、日本バドミントン界の活性化、人材育成を図っているという。同社の社長自身が小学生バドミントン連盟会長を務めるほか、選手も練習時間を調整して小学校などで講習会を実施し、一過性の人気で終わらない、バドミントンの普及に緻密な戦略を立てている。

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