営業活動の「科学性」と「芸術性」(前編)研修に行ってこい!

日本でも人気のある外国ブランドの自動車。その販売に携わった経験を持つ講師の研修でのお話です。講師が伝えた営業理念に感銘を受けたのです。その理念とは「Sales is Art & Science」でした。営業において科学と芸術とはいったい何なのでしょうか。

» 2010年07月01日 19時05分 公開
[原田由美子,Business Media 誠]

 一生懸命取り組んでいるにも関わらず、成果がでなくて元気を失くしている若手営業マンも多いよう。今回は、せっかくの努力を成果に繋げてもらうために、上司や先輩として知っておきたい、指導の着眼点をご紹介します。

外国ブランド車販売会社の営業理念

 日本でも人気のある外国ブランドの自動車。その販売に携わった経験を持つ講師の研修でのお話です。講師が伝えた営業理念に感銘を受けたのです。その理念とは「Sales is Art & Science」でした。

 その講師が営業していた外車メーカーでは、お客様には一生涯自社の車を愛用してほしいという考えがありました。そのためには、最高品質の車を作り出し、提供することはもちろん、車を購入する過程においても、お客様にとっての最高の思い出となる営業活動をするよう指導されていたそうです。

 カッコよくてエレガントな理念ですが、実際の日本での営業活動はどうだったか。それは、ほかのメーカーと変わらない泥臭いものだったそうです。1件1件ドアをたたき、断られ続ける。講師は「辛かったので、100件早く断られてしまおう」と自らの気持ちを鼓舞しつつ仕事に取り組んだといっていました。

 しかし、「早く断られよう」と思っていると、面白いことに「100件断わられ続けることはなかった」そうです。10件、20件と続けていると、途中で関心を示してくれるお客様が現れ、必ず売れた――と。実はこの視点が「Sales is Art & Science」のScience(サイエンス)、つまり科学性につながってきます。

 ここで、マーケティングに関するデータを紹介しましょう。2008年のインターネットリサーチ「ダイレクトメールに関する調査」(調査会社:アイシェア)です。その調査では、「自宅に投函されたダイレクトメールを読むか」という項目がありました。有効回答数は326。その内訳は「毎回読む」が4.9%、「たまに読む」が41.4%、「ほとんど読まない」が53.7%という結果です。

 この結果を元に考えると、100人に情報提供すると、そのうち5人は情報に関心を持ち、40人はテーマやタイミングによって関心を持ち、55人は関心を持たない――と読みかえることができそうです。すると、先にご紹介した営業コンサルタントが言っていた、「100件断られ続けることはなかった」ということと同じ反応であることが分かります。

科学性=営業過程の数値化

 営業を精神論で考えると、「100件、はいつくばってでも回ってこい(いずれ数字がついてくる)」となりますが、数字を元にして確率で考えれば、「100件案内すると、40件は案内に目を通してくれる可能性がある」となります。先ほどの営業理念のサイエンスが伝える意味は、営業過程をデータや確率など数値を元に考えることの大事さなのです。

 数値を元に考えるには、商品やサービスを購入する過程を分解し、可視化することが重要。最近は、ダイレクトメールへの問い合わせ対応など、営業パーソンの仕事が受動的なケースも多くなっていますが、今回は、新規のお客様に営業担当者側からご案内するケースで整理し可視化します。シンプルに考えると、大よそ下図のようなイメージになります。

 さらに営業過程を分解し、数値化できる場面とポイントに分けます。

場面と数値の例
場面 数値
電話 電話をかける本数
アポイントにつながった本数
アポイントにつながった話の流れ(キーワードなど)
アポイントにつながったタイミング(時間帯、会話時間など)
アポイントにつながった対象(役職、男女、年代層など)
時期をずらして再案内する件数
違ったサービスで再案内する件数
商談 初回の商談で成約につながった件数
初回の商談で成約につながった理由
2回目以降の商談で成約につながった件数
2回目以降の商談で成約につながった理由
成約につながらなかった理由
継続的な情報提供可能な件数

テレマーケティング会社を活用した事例

 それではここで、実際に取り組んだ事例をご紹介しましょう。まずは電話をかけることに焦点を当てたお話です。あるテレマーケティング会社にセミナーのPRを依頼した時の事です。その会社には、次の3つの依頼をしました。(1)電話をかけた相手先にセミナーの案内を行う、(2)興味を持っていただいた先に詳細案内をファクスする、(3)セミナー案内を継続的にファクスすることを許可してもらう。期間は1週間で、電話のPRに携わった人はテレマーケティング会社が選んだ4人でした。

 案内にあたっては、予め案内する内容を整理した手順書(スクリプト)を用意しました。また、案内する内容がわかりやすいように、セミナーの概要や、よくある質問をまとめて渡しました。各担当者は資料を見た上で、自分なりに準備を行い、電話をかけていきます。

 さて、実際に電話でPRをスタートしてもらうと、そのうちの1人(Aさん)は、10件かけると3〜4件にファクスで案内が出来ています。また、Aさんの担当分全て(数百件)電話をかけてもらった中から3社の申込につながりました。

 一方、Dさんという担当者は、9割の確率で断られています。2日間様子をみましたが、状況が変わりません。そこで、Dさんの担当分を、もう一度Aさんに電話をかけてもらうよう依頼しました。すると、同じ会社に電話をしているにも関わらず、案内率、申込率ともにアップしたのです。ここまでが、先にご紹介した数値で分かった部分でした。

喜ばれるAさん、断られるDさんの違い

 同じ内容で取り組んでいるにも関わらず、成果が如実に違います。その違いは一体なぜ生まれたのでしょうか? それを知るために、個別にインタビューを行いました。インタビューを行い分かったことは、次のようなことでした。

 その違いは、ゴールイメージの設定にありました。Aさんは、お客様がセミナーに参加し、喜んで下さっている姿をイメージしながら電話をかけていました。そのため電話の声も明るく、ハキハキとしています。また断られると、どうして来ていただけないのかを知りたい気持ちや、心から残念に思う気持ちが芽生え、「今回はお役に立てず申し訳ありませんでした。次回どうぞ宜しくお願い致します。」と、伝えることができたというのです。

 一方Dさんは、電話をかけるのに精一杯でした。そのため電話をかける声はトーンが低くなり聞きとりづらい上、モゴモゴしています。電話に出ている方の対応がきついと耐えられず、自分から「お忙しいところ失礼しました」と言って電話を切ってしまっていたのです。


 実はAさんとDさんのように、人による差が出やすい“技術”“要領”と言われる表現のコツこそ、Artと言われる部分です。従来、Artについてはセンスと言われ、指導が難しいと思われてきました。しかしArtについても分解し、科学的にアプローチすることで成果は全く変わってきます。そこで次回から、Art部分の指導の仕方をご紹介していきます。“センスがない”と言われてきた営業パーソンでも、トレーニング次第で業績アップ確実です。次回をお楽しみに!


著者紹介:原田由美子(はらだ・ゆみこ)

 大手生命保険会社、人材育成コンサルティング会社の仕事を通じ、組織におけるリーダー育成力(中堅層 30代〜40代)が低下しているという問題意識から、2006年Six Stars Consultingを設立、代表取締役に就任。現在と将来のリーダーを育成するための、企業内研修の体系構築、プログラム開発から運営までを提供する。

 社名であるSix Starsは、仕事をする上での信条として、サービスの最高品質5つ星を越える=クライアントの期待を越える仕事をし続けようとの想いから名付けた。リーダーを育成することで、組織力が強化され、好循環が生まれるような仕組みを含めた提案が評価されている。


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