「売らない」で売上900%増のアパレルショップ幸せのものさし(2/3 ページ)

» 2010年07月12日 15時00分 公開
[博報堂大学 幸せのものさし編集部,Business Media 誠]

 「現場にいるといろいろなことに気づきます。もっとこうしたらお客さまに喜んでいただけるのにとか、お客さまをお待たせしなくて済むのにな、という気づきは現場のスタッフなら誰もが持っていると思うんです。でもそれを変えるためには店長やほかのスタッフに、百貨店側に、そして本社の人に伝え続けなくてはならない。

 コスト面など“どうにもならない事情”というのがありますから、すべてがかなうわけではありません。でも、それが心から『お客さまのため』と思えれば、粘り強く伝えることができるし、上の人も聞いてくれる。自分のためと考えたらそんなにエネルギーは沸いてこないし、つい妥協してしまう。本当はコストをかけずにお客さまに喜んでいただける方法は無数にあると思います。

 その、お客さまのためにという気付きを共有できるように、『報連相(ほうれんそう)ノート』というのを作って、売り場に置いて、とにかく気づいたことはすぐになんでも書くようにしました。誰でも気づいた人が書く。それを手の空いているときに全員が読む。そうして、今、売り場でお客さまのためになっていないこと、逆にお客さまに喜んでいただいたことなどを1つ残さず、克明に記録して共有しました」

視線が増えると気づきも増える

 まだ店長になって日の浅い北山さんが店長会議に出席するときの欠かせない「武器」が「報連相ノート」だった。本社の人を説得するとき、北山さんはノートの記述をもとに「お客さまがこう言っているんです」と明晰に主張した。それくらい、ノートは何回も何回も熟読したという。

 そうした気付きを得るためにはまずお客さまをよく「見る」ことが必要だった。それには自分の眼だけでは足りなかった。一人一人の視野は意外に狭い。死角がある。それをカバーするためには売り場に立つスタッフ全員の「眼」を集めることが重要だ。

「それが、最強のチームづくりにつながるんです」と北山さんは言う。

 A子さんとB子さんでは当然個性が違うから、同じものを見ても見る角度、気づくことが違う。そこが重要なのだと言う。スタッフたちからのそうしたいろんな気付きを足し合う(北山さんは「気付き合い」と表現する)ことで、6人いれば6倍の気付きが生まれる。それをお店全体で共有することができれば、確かに、すごい店になる。

売上げで競わせない

 しかし実際「気づき合いの徹底」ができている店は、意外に少ない。その原因が「売上げでスタッフを競わせるマネジメント」にあることは明らかだ。

 お店の中でスタッフ同士が売上競争していては「気づき」は自分だけの財産、武器としてスタッフ1人1人の中に囲い込まれ、共有されることはありえない。せっかく売り場で経験を積んでも、業績が低くて怒られ続けたらそのスタッフはお店を辞めていく。せっかくの気付きの芽はそこで途切れてしまう。

 「だから、売らないでいい、まずお客さまのことを考えてください、と店のスタッフに言ったのです」と北山さんは言う。

「評価は売り場単位で!」

 北山さんは、お店のスタッフ全員をその個性に合った係に任命した。その中には「倉庫チーフ」もいた。普通は新人や接客に不慣れなスタッフに商品を覚えてもらうために倉庫を担当させるのだが、北山さんは、粘り強く根気がある人に倉庫を担当させた。

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