電子書籍をフリマで対面販売する「電書部」が目指すものとは(後編)電書部の真実(1/3 ページ)

電子書籍を「電書」と呼び、フリマを通じた対面方式で販売を行っているユニークな団体が、米光一成氏率いる「電子書籍部」だ。主宰者である米光氏へのインタビュー後編は、春の「文学フリマ」における対面販売での反応、そしてコミュニケーションツールとしての「電書」の可能性に迫る。

» 2010年07月13日 13時15分 公開
[山口真弘,Business Media 誠]
電書部で出版している書籍は、iPad(写真)やiPhone、Kindleで読める

 KindleやiPadといった電子書籍端末をターゲットにした新時代の出版の実践例が「電子書籍部」である。大ヒットのパズルゲーム「ぷよぷよ」の作者であり立命館大学映像学部教授の米光一成(よねみつ・かずなり)氏が発起人を務めるこの“電書部”は、2010年5月の同人誌即売会「文学フリマ」で、15冊の電子書籍を投入。対面販売というユニークなスタイルで、わずか1日にして1453冊を売り上げるという快挙を成し遂げた。同部ではこの文学フリマでの成功を経て、来る7月17日には電子書籍限定の即売イベント「電書フリマ」を開催する。

 電書部の活動について、「部長」である米光氏に話を聞いた。後編の今回は、1400冊以上を売り上げた文学フリマ、コミュニケーションツールとしての電子書籍に触れる。


→前編はこちら

1度買った人が、数時間後にまた来てくれた

購入すると送られてくるメール。手持ちの端末に適したデータを自由にダウンロードできる
購入した電書のページ左下にはメールアドレスが記しており、これがコピー防止の役割を果たす

誠 Biz.ID 実際に文学フリマで電書を買われた方の反応はいかがでしたか。

米光氏 うれしかったのは、2冊ぐらい買った人が数時間後にまた来てくれて、「残りも買いにきた」って買ってくれたんです。おお、1日の販売なのにリピーターが!と。サポートもほとんど必要なかった。なんかミスがあってたくさん来たらたいへんだって思ってたんですけど、そうでもなかった。2通ぐらいダウンロードできないってあったけど、メールでやりとりしてすぐに解決しました。

誠 Biz.ID ダウンロードした電書は、購入時に登録したメールアドレスがページの左下に入るようになってると思うのですが、あの仕組みに行き着いた経緯などをお伺いできればと思うのですが。

米光氏 著者へのリスペクトはある、というのが基本的な考え方なんです。だから、「著者へのリスペクトがある読者」が不自由になるようなことはしたくない。なので、コピー禁止をガチガチにやるんじゃなくて、メールアドレスをいれるというスタイルになりました。あなたの電書ですよ、という感じで。

誠 Biz.ID メールアドレスを組み込んでパブリッシュするというプログラム的なところがよくできてるなと思ったのですが、あのあたりも内製ということになるんでしょうか。

米光氏 はい。技術班が作ってくれました。

誠 Biz.ID そのあたりのノウハウの蓄積は前回の文学フリマでかなり確立して、今回の電書フリマではそれを踏襲して質をあげていくといった捉え方になるのでしょうか。それとも前回なかったような新しい試みをさらに追加されたりもするのでしょうか。

米光氏 前回の経験を踏まえて、いろいろ新しい部分も加えていっています。例えば前回の文学フリマのときは横書きのみだったんですね。縦書きしようとすると画像で持つしかなかった。長嶋有さんの「あいまいな吟行+」は、文字だけど画像で表示してた。それを今回はPDFは縦書きもOKにしました。なので「あいまいな吟行+」が、PDF版は文字として表示されます。あと、マンガとか写真集みたいなものも前回はやりにくくて特別対応的にやってたんですね。それも今回スムーズにできるようにしようとしています。そういった表示部分の地味なところも、しっかりとやっていってます。

誠 Biz.ID 販売のスキームがほぼ確立できたぶん、表示まわりを強化してる感じですね。

米光氏 販売も、種類が増えるので試行錯誤してます。前回は15種だったから、あれこれ選んでもらうか全種まとめ買いって感じにしてたんだけど、今回30種とかそれ以上(編集部注:7月9日現在、約70種)になると、それがしんどくなってくる。なのでどうしようかというのが、販売スタイルの最大のテーマです。

誠 Biz.ID 前回文学フリマに来られたお客さんは、ブースにこられた段階で購入物はほぼ決めているという感じだったんでしょうか。

米光氏 見本誌を見て決める人と、あとは、事前にWebとかの情報で決めてる人がいたような気がします。安いしかさばらないので、全まとめ買いの人が多かったんですよ。

誠 Biz.ID それが30種となると、どうなるかですよね。

米光氏 全まとめ買いだと、さすがにそんなには読まない! って感じの数や豊富さになってきてると思うので、それ以外の買いやすい選択肢を作ろうとしています。電書に興味がある人向けのセットとか、俳句短歌セットとか、マンガセットとか。

誠 Biz.ID 今回はマンガもわりとある感じなんでしょうか。

米光氏 マンガ、あります。ぼくがピンとこないぐらいマニアックなマンガも出てきそうです。まあ、ひとまず今回の電書フリマは、ぼくは場を作ろう、と。

誠 Biz.ID 電書でさえあれば、そのあたりの内容の幅はかなり広めにとっておられるわけですね。

米光氏 やー、そこは難しいんですよね。なんでもかんでもOKにしちゃうと、規模が大きくなって、たいへん。だから、まあ、部活かなーと。ぼくたちのやってる感じを見てもらって、いいなーって思ったら参加してよ、っていうふうにしたい。

誠 Biz.ID 部長どころか、顧問や会長になってしまいそうですね(笑)

米光氏 ちがう感じでやりたい人は、また別の部を作ってもらえればいいなーと思うんです。というかやってほしい。お互い協力しあえることがあれば協力しましょう、って感じで。

誠 Biz.ID あまり規模が広がりすぎても運営が難しくなりそうですね。

米光氏 システムが完成してるわけじゃないので、人数が増えるとあれこれ混乱しちゃいますよね。知ってることや経験の違いがあるので、単純に情報の伝達がうまくいかなかったり。やってきた側は、もう当然のことだと勘違いしちゃうんですよね。電書を対面販売するシステムも、買った経験のある人や、実際に観てると、簡単に分かりますよね。だけど、あれを、見てない人、体験してない人に、実感してもらうのって、けっこうむずかしい。

誠 Biz.ID じつは今回のインタビューを誌面に掲載する際も、そのへんの見せ方をどうしようかと思ってまして。おそらく即売会に来たことがない人は、ああいう机がズラーッと並んでて、その前で何が欲しいかを告げる、という雰囲気自体が分からないですし。

米光氏 次回の電書フリマはちょっとスタイルがかわるので、またイメージしにくいかも(笑) 前回は文学フリマのいちブースを借りてやったのでああいった感じだったのですが、今回はカフェを借りてやるので、みんながそれぞれのブースに個別にいて販売しているというモノにならないんですよ。カフェだというだけじゃなくて、個別ブースで販売しているという即売会の雰囲気自体が、まったくチェンジすると思います。そこを楽しみにしてくれるといいなー、と。

誠 Biz.ID こんども、窓口が1カ所で、そこで30冊の中からまとめて買うといった形でよいんでしょうか。

米光氏 カフェで、電書でも買って、わいわい話したり。近所に電書場を用意したり、「僕たちだけがおもしろい」っていうネットラジオの公開収録が「なかよし開催」として行われたり、なんだか楽しいことが同時多発に起こってるよってイメージなんです。

誠 Biz.ID なるほど。それは例えば先程おっしゃったジャンル別に分かれたりといった、そうした形になるんでしょうか。

米光氏 なりません。あ、ちょっとはなるかな。コラボカフェやカフェ周辺に電書場所があるんですね。そこに電書者がいる。電書を販売する人です。PCかiPhoneかを持ってます。欲しい本をその人に言って代金を払えば、送信する仕組みです。どの人のところに行っても、基本は全種の中から選んで買える仕組みです。買うスタイルは混乱しないように、わりと統一した感じにしようと思います。でも、いろんな人がいろんなことをやってる感じも、出るんじゃないかなーと。

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