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» 2010年07月14日 16時10分 UPDATE

幸せのものさし:従来の市民運動は「他者に対して過剰に攻撃的」――消費と生産をつなぐ社会的企業のパイオニア (1/3)

東京都港区に本拠を置く「大地を守る会」会長の藤田和芳さんは、消費者の側から食の安全や農薬被害への問題意識を持って70年代に消費者運動を立ち上げた、かつての「活動家」の1人。しかし、ただ反対しているだけでは何も始まらないということにふと、気付いたという。

[博報堂大学 幸せのものさし編集部,Business Media 誠]
『幸せの新しいものさし』 この連載は『幸せの新しいものさし』を基に再編集したものです

 東京都港区に本拠を置く「大地を守る会」会長の藤田和芳さんは、消費者の側から食の安全や農薬被害への問題意識を持って70年代に消費者運動を立ち上げた、かつての「活動家」の1人だ。当時は『沈黙の春』『複合汚染』という本の出版によって農薬や化学肥料の多用による環境汚染と生態系の破壊が大きな社会問題になっていた時代だった。

 藤田さんたちは学生時代から消費者運動の活動家として農地に通い、農家の人たちに「農薬禁止」を訴えた。しかし、ただ反対しているだけでは何も始まらないということにふと、気付いたという。

 そのころ農家を回って聞いた話はショッキングだった。米国ではすでに禁止されていた農薬を使い続けて意識障害を発病した農家の人の話、自家消費の野菜には絶対に農薬は使わない、という彼らの告白。気付いたのは「知らないから何でもできてしまう」という真実だった。

 出荷する野菜をどこの誰が食べるか知らないから、農薬を使うことに抵抗がない。逆に、食べる人の顔を知っていることが「抑止力」になるのだ。だから、消費者の側から“抗議”するのではなく、消費者と生産者をつなげることが変化を起こす一番の早道なのだ、と。

 その気付きから「大地を守る会」の活動が始まり、確信となって今も藤田さんたちを支えている。

 農薬や化学肥料を使わない野菜のおいしさを生活者に伝え、生活者が多少価格が高くてもそれを選んで買ってくれて、はじめてそれが本当の“消費者運動”になる。そのことに気が付いた藤田さんたちは当時、まだごく少数だった有機無農薬農法を実践する農家を見つけ出し、一軒一軒口説いて「仲間」にしていった。そして彼らの農業を支えるためにこんどは共同購入という形でその農作物を買ってくれる会員を集めていった。

「社会的企業」を目指して

 「大地を守る会」は、そうした生産と消費を結合する活動を通じて第一次産業を守り、食の安心・安全を推進することを目的とするNGOだ。だが同時に「株式会社大地を守る会」という、年間約160億の売上げ規模を持つ革新的食品流通企業としてのもう1つの顔を持っている。

そのビジネスモデルを藤田さんは「社会的企業」と名付けている。利潤が最終目的ではないが、生産者を支援し、社会に情報発信して理念への賛同者を増やすためには、必要な投資ができるだけの収益を上げて経済的に自立しなくてはならない。

 「昔、33年前にこの運動を始めたときに思ったんです。本当にこの理念が正しいということを、ちゃんとした経営が成立するという事実で証明してやろうってね。それまでは社会運動といえば、“告発・糾弾”的な闘いかたが主流でした。でもそれじゃ世の中がついてこない。だから自分で世の中の新しい仕組みをモデル化しないといかん、と。それでNGOと同時に会社組織も作ったんです」

お互いの不信感を払しょくすることが出発点

 藤田さんの思いの根底は「自然と共生する社会」、もっと平たく言えば「人間以外の自然や生物を犠牲にして人間の効率論を追求した結果、人間も困ったことになってしまうような矛盾を解消する社会」である。創業時も今も、そのスタンスは変わっていない。

 事業を続ける中でより明確になってきたことは「生産、流通、消費のどこか一部分だけ変えても全体はなかなか変わらない、三者の意識を一斉のーせ! で一度に変えないと、変化は起こらない。無農薬の大根1本つくることすらその三者を仕組み化しない限りできない」ということだった。

 今、藤田さんたちは加工用も含めて2500軒ほど(生鮮野菜の委託先は約1300軒)の生産者と提携し、作付けをしたものは全量買取ることを原則としている。それは実はこの業界では画期的な仕組みだ。

 日本の農協は全量委託仕入れが原則である。野菜などの生鮮品は気候変動で作柄や品質に幅があり一定しない。ここが工業生産品と一番違う部分だ。

 生産者はその中でなるべく変動幅を少なくしようとして促成力の高い合成肥料を使用したり、病気防除の農薬を撒いたり、単一作物を大規模に作付けすることで生産効率を上げようとする。そうした“努力”の副作用が実は土壌が本来持つ力(土中の微生物の数とバランス)を殺いでしまい、結果として突然大発生する病虫害に対してまた農薬を多用する、という悪循環が発生しやすい。

 そうした悪循環に悩みつつ安定供給・生産効率を命題とした慣行農法を続けている農業生産者に対し「大地を守る会」は全量買取り保障をすることで、可能な限り無農薬の自然共生型農法を続けてもらおうとしてきた。しかし、その説得は簡単ではなかった。

 「色も形も悪くて値段が高い。そんな有機野菜をあなたたちは本当に売り切れるのか。売れ残ったら返品してくるんじゃないか」「農薬散布や施肥の基準が厳しすぎる。天候不順でどうしても農薬を使わなければならないときもある。あんたらはパソコンでも何でも使っているのに、俺たちには科学の利用を禁ずるのか」

 農家の側にも不信感があった。それを1人1人、生産者とさしで酒を酌み交わすことで彼らの気持ちをほどいていったという。そんなときに藤田さんたちが着想したのが、生産者と消費者をつなぐ「交流会」だった。

農家の人も都会の家に宿泊して

 「大地を守る会」が主宰する“交流会”は、都会に住む会員たちが、実際に自分たちが食べている野菜を作っている生産者の許を訪ねて、収穫を手伝ったりしながら交流を深める、というイベントだが、その一方で会員の家を生産者が上京したときの宿泊施設として提供してもらうという“ホームステイ”の仕組みも実践している。

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