従来の市民運動は「他者に対して過剰に攻撃的」――消費と生産をつなぐ社会的企業のパイオニア幸せのものさし(2/3 ページ)

» 2010年07月14日 16時10分 公開
[博報堂大学 幸せのものさし編集部,Business Media 誠]

 もちろん、家を提供するほうも泊まるほうもまったくの任意なのでこの交流体験ができる人は一部の会員に限られているが、日ごろ家で食べている野菜を作っている本人が家まで来てくれるという経験は(実家や親戚が農家でない限り)めったにないものだろう。

 農家のほうも、実際に自分たちがつくる農産物が遠く離れた都市の家庭の中でどう食べられているかを目の当たりにすることはとても意味がある。会員家族との対話を通じて、食卓のニーズをその現場で直接フィードバックされる効果があるからだ。また、目の前で「いつもおいしい安全な野菜をありがとう」と会員の家族から感謝されることは、生産者にとってこの活動を続けてきて良かったと、一段と励みになることだろう。

 次に泊まりに来るときには手土産で採れたての南瓜を持ってきたり、今度は会員のほうがその南瓜で作ったケーキを持って農家を尋ねたり、とまるで親戚づきあいのような交流が次々と生まれていく。こんな楽しい出会いもまた「大地を守る会」が意図的に作りこんできた仕掛けである。

 「歯を食いしばって頑張っても続かないでしょ。こっちのほうが楽しいよ、こっちのほうがおいしいよ、というところを見せないと誰もついて来ないよね」と藤田さんは笑う。

「あんな手のきれいな女性が畑に入るか?」

 会員が生産地を訪れる「交流会」は最近はとても人気で、希望者が多くて抽選になってしまうらしい。藤田さんはこう解説する。

 「20年くらい前はかなり意識の高い、進歩的な女性が中心でしたが、最近では男性の参加も増えて定員70人のところに300人くらい応募があるんです。でも1つの農地に70人もよそ者が来るというのは、田舎では普段あまり見たことがない状況なんですね。我々も仮設トイレを運んで設営したり、近所の居酒屋で懇親会を開いたり、地元に迷惑をかけず逆にお金が落ちる仕組みを考えているんです。

 以前は、会と提携している農家さんはその地域の中ではちょっと孤立して白い目で見られるようなところが正直ありました。どうして農協に出荷しないんだとか、どうして一緒に肥料や農薬を買わないのか、とか。ところがこうして交流会をやると周りの農家はびっくりするわけです。都会からお洒落な女の人が来て、あんなキレイな手で畑を手伝ってるよ、とね。

 初めは『あんなの、すぐ駄目になるよ』と冷ややかに見ているんですが、これが駄目になるどころかなぜか収入もちゃんと安定して入ってるようだし、都会の女性たちに人気者になってるし、じゃあ、うちもやってみようかな? という感じで一軒一軒、周りに提携農家が増えていったんです」

競争から、共生へ

 最初のころはこうした農薬に頼らない農法も試行錯誤でまさに手探りの状況だった。だが、経験を重ねるうちにいろんな工夫が生まれてきたという。

 「大地を守る会」には有機農業の専門部署があり、担当が各地の生産者を回ることでその実践的なデータを体系的に収集し、それをもとに提携農家と情報交換をしている。こうした活動を組織的に維持できるのが「会」のスケールパワーだろう。

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