各自の意見をボードに書かせて出せば、確かに1人1つ以上の意見は出ます。しかし、部長の批判ぐせが治らないと、意見を出しても叱られるだけなので、参加者は斬新な意見は出してきません。
ボードには部長が気に入りそうな、可もなく不可もないようなことしか書かないでしょう。ですから、意見をボードに書かせたところで根本的な解決にはなりません。
一見、真剣な司会者の姿勢が、ときに会議の仇となることがあります。この場合、司会者である部長は参加者の意見を必要以上に真剣に聞いてはいけません。
真剣に聞きすぎるからこそ部長は「そんな現実離れしたアイデアができるか!」と批判してしまうのです。むしろ、意見を聞き流すゆとりが必要です。
司会者は、参加者の意見は、半分聞き流すくらいの気持ちでいてください。
「発言された意見が現実的に可能かどうか?」なんてことまで考えてはいけないのです。どんな意見であれ、いったんは受け止めてください。そのくらいのテキトーさがあって、はじめてみんなが発言しようと思う雰囲気ができます。
会議で最初から完全な意見が出てくることはほとんどありません。出てきた意見は、たいてい半端なものばかりです。みんなで話し合い、いい意見につくりあげていくのが“会議の本質”です。この本質を忘れてしまうから、会議には本来不要な批評家が出てしまうのです。
わたしがマグロ船に乗せられた期間は43日間でしたが、そのうち船酔いで吐かなかったのはわずか3日だけ。乗り物酔いにさいなまれた地獄の日々でした。
そこで船長に、「どうしたら船酔いが止まりますか?」とアドバイスを求めたことがあります。
「遠くを見るとええ」と教えられれば、「目が悪いので遠くが見えません」と答え、「誰かと話せばええ」と教えられれば、「気分が悪くて話す気になりません」と答え、わたしはことごとく船長のアドバイスを否定しました。
すると船長からは、「否定ばかりしていては、お前に助言をしてくれる人はいなくなる」と注意をされました。
その代わり、「なるほど」という言葉を使えばいいと教わりました。
この「なるほど」という言葉は、「そのアドバイスいいですね!」という意味ではなく、「あなたの言いたいことはわかりました」という意味です。否定も肯定もせず、いったん受け止めるのです。
会議もこれと同じで、出てきた意見にはとりあえず「なるほど」と聞いておき、たくさん意見が集まったあと、「さて、いっぱい意見も出てきたことだし、この中からどれにするか検討しましょうか!」というような進行にしましょう。
そうすればどの意見も一度は採り上げたことになるので、発言した人全員のモチベーションを下げることがなく、様々な意見が最後まで飛び交う会議にすることができます。
さてこのコラムを読んでくれたあなたも、練習だと思ってこの記事に「なるほど!」と言ってみてくださいね。(強要してます?)
ネクストスタンダード代表。1976年東京生まれ。北里大学水産学部卒。大学卒業後、民間企業の研究所に入社し、「マグロの保存剤」の開発に携わる。
入社2年目のとき、上司から「マグロの保存剤の開発を成功させるには、お前は一回マグロ船に乗ってこい」と理不尽な命令をされるも、断りきれずマグロ船に乗せられる。
嫌々乗ったマグロ船であったが、人間関係がギスギスしやすい閉ざされた空間だからこそ、素晴らしいコミュニケーション術がたくさんあり、笑顔で働く漁師たちに感銘を受ける。
マグロ船を降りたあと、漁船での体験を元にファシリテーション術を自社に導入し成功。その後独立し今に至る。代表著書に『活きのいい案がとれる!とれる!マグロ船式会議ドリル』(こう書房)、『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ』(マイコミ新書)がある。雑誌などの掲載多数。
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