ファシリテーターが必ずしも決定権を持つとは限りません。自分の意見を持つことは構いませんが、「わたしのこの意見のほうがいいと思いませんか? と自分の意見を押し付けようとしたり、みんなが合意していないのに「じゃあ、A案で行きましょう!」などと強引に決めてはいけません。
強引に決めたところで、みんなが納得していないことには、結局はプランの実行力は非常に弱いものになってしまうからです。ファシリテーターが自分の意見を言うときは、「わたしは××と思うのですが、みなさんはどうですか?と、あくまでも「周りからの意見を受け入れますよ」という、やわらかい態度で発言をしましょう。
立場の弱い人の意見や、少数派の意見を守ることは大事です。なぜなら、立場の強い人が考える案が正しいかどうかは、まったく分からないからです。それに立場の弱い人の意見を無視すると、その人たちは決まったことをちゃんとやろうと思わないため、決まったことが形だけになってしまいます。
しかし、だからといって立場の弱い人だけを擁護すると、それはそれでひいきになるため、立場の強い人は会議を自分の意見で押し切ろうとかえってムキになったりします。こうなってしまうと、参加者に感情的な対立構造が生まれてしまい、会議もうまく進みません。
会議には、批判的な意見を言う人がいます。でもその人は、これまでの議論のなかで、見落としていた大事なことを指摘してくれています。中には、話を脱線させる人もいます。脱線させる話には、これまでの話し合いで思いこんでいた常識を壊してくれたり、緊張感のある会議の場に、笑いを提供してくれます。誰のどの意見にも反対せず「それ良いですね」とアイデアに乗っかるだけの人もいます。でも、こうした控え目で優しい人がいるから、業務は多少のトラブルが生じても乗り越えていけるのです。
要するに、どの人のどんな意見も、生かし方次第で輝いていきます。ですから、ある意味ですべての意見に対して、良い顔をすればいいのです。第2回、第4回、■http://bu
siness.nifty.com/articles/facilitation/100107/□第17回■の記事で扱ったように発言をしてくれた人に対しては、「ありがとうございます。とってもいい意見ですね」と肯定的に受け止めましょう。
「全部の意見に『良いですね』とばかり言ってていいの?」と不安な顔で聞かれることがあります。ファシリテーターの場合、全部の意見に「良いね」と言っていいのです。実用的な案であったかどうかの判断は参加者同士が決めること。極端な言い方ですが、ファシリテーターはアイデアが出やすい雰囲気を作り、かつ、議論が脱線し過ぎていくのを防げばいいのです。
ビジネスモデルの寿命というものは、年々短くなっているそうです。生活必需品がそろい切っていなかった時代は、1つのビジネスモデルがあれば、消費者がそれら必需品をそろえるまでの間、同じやり方が通用したそうです。しかし今の時代では、生活必需品が行き渡ってしまったので、もはや有ってもなくてもいいものを買ってもらわないと経済が回らなくなりました。
つまりビジネスでの「正解」が、コロコロと変わってしまう時代になったため、つかみどころのない正解を探すより、みんなで決めたことをみんなでやり抜く「実行力」が重要なのです。
会議中のどんな意見も尊重し、参加者全員に「自分も役に立っている」と感じてもらい、そして会議で決まったことに対するみなのやる気を高めてあげる――それこそがファシリテーターの役割なのです。
ネクストスタンダード代表。1976年東京生まれ。北里大学水産学部卒。大学卒業後、民間企業の研究所に入社し、「マグロの保存剤」の開発に携わる。
入社2年目のとき、上司から「マグロの保存剤の開発を成功させるには、お前は一回マグロ船に乗ってこい」と理不尽な命令をされるも、断りきれずマグロ船に乗せられる。
嫌々乗ったマグロ船であったが、人間関係がギスギスしやすい閉ざされた空間だからこそ、素晴らしいコミュニケーション術がたくさんあり、笑顔で働く漁師たちに感銘を受ける。
マグロ船を降りたあと、漁船での体験を元にファシリテーション術を自社に導入し成功。その後独立し今に至る。代表著書に『活きのいい案がとれる!とれる!マグロ船式会議ドリル』(こう書房)、『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ』(マイコミ新書)がある。雑誌などの掲載多数。
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