「iPadは3Gモデルを使ってこそ本領発揮だよね!」――NTTドコモでiモード事業を立ち上げた夏野剛氏は、iPadを片手にこう話始めた。
iPadを仕事道具へと変える――。ビジネスパーソンや企業経営者向けに、iPadの概要とビジネスにおける活用術や、iPadそのものが持つビジネスチャンスの可能性などを紹介する書籍『iPad on Business』。この連載は、同書を抜粋、再編集したものです。
夏野剛氏はiPadを手に語り始めた。「iPadは3Gモデルを使ってこそ本領発揮だよね! 3Gは遅いと言う人がいるけど、それって『つながっている』ということの恩恵を忘れている発言じゃない?」――。
iPadと同じ3G回線を使う携帯電話はいつでも3Gにつながっているのが当たり前だ。夏野氏は、その状態こそがiPadには必須と考えている。
現在夏野氏は、大学教授を務めるほか、ドワンゴなど多数の企業の取締役を兼任しながら、公私共にさまざまなアップル製品を使いこなしている。
iPadのメリットは何かと聞かれたら、夏野氏は迷わずに「3G回線を使って常にネットにつながっていられること」と答えるそうだ。iPadが日本で発売されるまでの間は、アメリカで購入したWi-Fiモデルを使った観点からのレビューに限られていたが、現在も3G回線に接続できることのメリットが挙げられることは少ない。
「iモードがなぜ普及したのかを考えれば分かること。遅くてもネットにつながっているからこそ、iモードは受け入れられた」。なるほど、かつてNTTドコモでiモードの普及に尽力した人物ならではの視点である。
また、夏野氏はバッテリーの持続性も高く評価している。アップルの情報では内蔵の充電池は10時間持つとされているが、それは画面を常にオンにしている状態の話だ。使うときだけ画面をオンにし、それ以外の時間をオフにしておけば余裕で2〜3日は使える。「iPadはそもそもすき間時間で使うためのガジェットだから、これだけ充電池が持てば十分」
では、デメリットはどんなところに感じているのだろうか。夏野氏は初期設定やバックアップなどをとるためのPCが必要なことを挙げ、将来的はiPad単体のみですべてが完結できるようになるべきだとも語る。さらに、「これは日本国内限定の話だが、iPadを持つにしろ、iPhoneを持つにしろ、日本の携帯電話も必要」と夏野氏は続ける。
「iPhoneは携帯電話だと言う人もいるが、『おサイフケータイ』や赤外線通信は内蔵していないし、電話帳やプライバシー機能も弱いから、日本ではいわゆるガラケー(注)が最強」
夏野氏は以前NTTドコモにいた時から、「携帯電話がPC側に行く(進化する)のではないのか」と考えていた。時同じくして、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏は「PCが携帯電話のように小さく進化する」と言っていたが、それは違うと思っていたそうだ。
そして、「iPhoneとiPadが思ったよりも近い操作性を持っていることを知って、自分が昔から思っていたことが現実になりつつある」と感じている。「Windowsの方が機能は多いが、大多数はその機能を使いこなせていない。でも、自分たちが使いこなせる程度に機能を削ぎ落とし、携帯とPCの良いところ取りをしたのがiPad」
最近はネットブックと呼ばれる小型のノートPCも登場しているが、夏野氏に言わせれば「実際のノートの感覚を持ったiPadの方がノートPCと呼ばれるに相応しい」。
ビジネスシーンにおいては、常にキーボードとマウスといった入力機器が必要な仕事というのはそれほど多くない。夏野氏は、iPadのセキュリティは決して低くないのだから、現在のオフィスで使っているWindowsのPCをiPadに置き換えても良いのではと大胆な提案も展開してくれた。「iPadにはネット社会の未来がある」のだからと。
1988年早稲田大学政治経済学部卒、東京ガスを経て、1997年NTTドコモ。榎啓一氏、松永真理氏らと「iモード」を立ち上げた。2005年ドコモ執行役員マルチメディアサービス部長。2008年にドコモ退社。現在は慶應義塾大学政策メディア研究科特別招聘教授のほか、ドワンゴ、セガサミーホールディングスなどの取締役を兼任。2001年ビジネスウィーク誌にて世界のeビジネスリーダー25人の1人に選ばれる。
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