マイケル・サンデル教授の特別講義「Justice」に出席してきたこれからの「正義」の話をしよう(6/7 ページ)

» 2010年09月16日 13時00分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]

デザイナーベビーは、親の権利の濫用なのか

サンデル 「道徳という言葉が出ましたね。別の例を挙げて考えてみましょう。知能レベルが高い子ども、ハンサムな子ども、運動能力が高い子ども、音楽の才能がある子ども……将来、新しい遺伝子工学の発展によって、こういう能力がある子どもを生めるようになったらどうしますか? 親が子どもに高い知能や優れた運動能力、容姿を求める、それは自然なことです。親が子どもをコントロールすることは、どこまで許されるのでしょう? もし将来、親が遺伝子工学を使って、より知能の高い、よりハンサムな子どもを生むことができるようになったとしたら? これも親の権利の濫用になるのでしょうか」

ノブ 「ノブです。お金があれば、親がそういうことを選択できるのはいいことではないでしょうか」

サンデル 「さっきの公平性の話に戻りましたね」

 次の意見は「お金がある人だけ産み分けができて、ない人は産み分けができないとしたら、それはアンフェアだ」というものだった。それを聞いてサンデル教授はこう続ける。

サンデル 「ではこうしたらどうでしょう? 補助金制度を設けるのです。貧しい人には補助金を与えて、そういう産み分けができるようにするんです。それでも反対の人はいますか?」

レナ 「レナです。遺伝子工学のそういう考え方そのものがいけないと思います。親が子どもの将来を、生まれる前に決めてしまうんですよね? 私はいま、将来自分が何になるかを自分で決めることができる。その自由がなくなります」

サンデル 「なるほど。親が子どもの将来を決める、これは子どもの自由を損なうことになるでしょうか?」

タカフミ 「性別を判断していくことには反対です。子どもをどちらの性で生むかというのは、自己愛に沿った行為だと思うからです。デザイナーベビーは……知能を上げたり、運動神経が良い子どもを生むのも同じことです」

サンデル 「なぜ知能を上げて生むことはいけないのですか? 親が子どもをいい学校に入れたいと願う、もっと頭が良くなってほしいと考えて家庭教師を付ける……それはしてはいけないことではないですよね。ではなぜ、遺伝子工学でそれをしてはいけないのか? 頭がいい人が増えたら、もっといい社会になると思いませんか? 遺伝子工学で頭がいい子を産むのはいけなくて、入学試験に受かるよう親が望むのはいけなくない、これはなぜなのでしょうか?」

 ある人はこう答えた。「よりよい子どもを遺伝子技術でつくれるようになったら、多くの人がそれを望むでしょう。すると逆に、子どもに対して遺伝子技術を使わないということが、生まれる前から子どもにハンデを与えることになってしまう。それは最終的に、遺伝子工学で子どもの能力を高めるよう(すべての親に)強制することになりませんか?」

 またある人は“生まれる前”であることに着目した。「生まれる時点でそれを決定してしまうことが問題なのではないかと思います。生まれたあとで良い学校に行かせるのとは違う問題だと思うんです。でも……どうして違うんだろう……ええと、人間が“生まれる”ということに違いがあるのではないでしょうか。遺伝か環境か、という違いなのでは?」

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