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» 2010年09月16日 13時00分 UPDATE

これからの「正義」の話をしよう:マイケル・サンデル教授の特別講義「Justice」に出席してきた (7/7)

[吉岡綾乃,Business Media 誠]
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公正さや自由では結論できないものもある

 ここまでで、講義開始から2時間近くが経っていた。この記事ではできるかぎり学生の意見を載せているが、細かい部分はかなり省略し、整理したコメントに編集している。実際にはこれだけのやりとりにはかなり時間がかかるのだ。残り少ない時間で、サンデル教授は今まで出た意見を振り返りながら講義のまとめに入る。

サンデル 「議論に参加してくれた人たち、ありがとう。反対の人も、賛成した人もいましたね。『お金がない人はどうするんですか?』という人もいました。

 公正さがまたここでも話題になりました。“誰もが同じようにアクセスできなくてはならないものがあるのではないか”。これが公正さについての議論です。この話題は、医師についての議論でも出ました。あまりにも不平等だと選択の自由を害するのではないか、という考え方です。しかしもう一方で、チケット売買のように、公平さということが話題にならなかったケースもあります。

 それでは、子どもの産み分けのケースはどうでしょう? 親が性別を選んで子どもを生むのはいけないことなのか。この場合、子どもに、自分で性別を選んで生まれてくる自由があるわけではないですよね。……このように、自由や公正さでは結論が出ないことがあるのです。

 遺伝子操作のことを考えましょう。一部の人は『親がそういう能力を持ってはいけない』と考えていました。通常私たちは、あらゆる手を子どもに尽くしてあげる親、それが良い親だと思っています。しかし“良い親には節度が必要”ということも言えます。あまりにも子どもの人生をコントロールしすぎようとするのは良くない、という節度。これは美徳につながります。

 『親は驚くべきだ』と言っていた人がいましたね。ゴーヘイ。彼の言ったことはとても大切なことに引っかかっていました。人間はキャリアや経済などのなかで、(対象となるものを)強くコントロールをしようとします。しかし財によっては、我々が支配力(コントロール)を強くしすぎてはいけないものもあるのです。

 親になる、親であるということには、根本的に予測不可能なことが入ってきます。親が子どもを選ぶことはできない、(どんな子どもが生まれてくるか)予測不可能である……親になるということは、人間が生きていく中で数少ない、『予測不可能なことを受け入れること』『我々に与えられたことをそのまま受け入れること』が求められることでもあります。コントロールしよう、支配しようということ、そういう支配欲、権力欲を押さえて、あるがままを受け入れるということです。

でも、親と子の関係においては、欲を押さえる必要がある。これが美徳につながる。

 クルマを注文するときだったら、自分が望んだ構成になっていなかったら、怒って部品を交換してもらいますよね。でも、親になるということは違う。デザイナーベビーをつくるということは、親の野心につながるのです。このように、あるがままを受け入れるという美徳、これが最初に言った3つの哲学のポイントにどうつながってくるのでしょうか?

 同じように技術や原理を使っても、それがいい場合と悪い場合があるようでした。例えば、市場という原理は、マドンナのチケットには適用していいといえます。しかし、医療ということには適切でないという意見が多かったですね。医療に市場原理を適用することは、人間の尊厳を損なってしまうかもしれないからです。

 人間の善、美徳を尊重すべき――これはアリストテレスの考え方です。正義とは美徳であると言うこと。私たちは、この最後の点をよく見落としがちです。

 今日は、市場とテクノロジーについて議論しました。表面をなぞっただけですけれど、それでも難しかったですね。市場の道徳的な限界をどこに見るのか。技術の適切な利用の限界はどこにあるのか――これからますます問題になっていくと思います」


 サンデル教授がこう語り終えると、会場には大きな拍手がわき起こった。学生たちはみな立ち上がり、しばらくの間拍手が鳴り続けていた。

 大学の講義で、終わったあとに学生がスタンディングオベーション、というのは初めて見る光景である。なかなか鳴りやまない拍手を聞きながら、筆者が真っ先に抱いた感想は「面白かった!」だった。

 講義の時間は約2時間。その間、気がそれることも、飽きることもまったくなく、ずっと講義の内容に没頭していた。ほかの人たちも同様だったと思う。自分が大学時代に受けた大教室の講義を振り返っても、これほど“一体感”があった授業は思い出せない。しかしこの“一体感”が、一般的な大学の講義ともまた違うような気がしたのも事実だ。この違和感は何だろう?

 サンデル教授の授業の面白さとは、そして違和感とは何か? 実際に参加してみた筆者の感想は別記事にまとめたので、併せてお読みいただければと思う。

 →サンデル教授の特別講義は本当に「白熱」したのか

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