全文公開! Ustream初出演、池上彰さんの仕事術(前編)Real Time Webな働き方(3/4 ページ)

» 2010年11月11日 15時10分 公開
[鷹木創Business Media 誠]

起承転結、テレビは「結」から【13分25秒前後〜】

津田 話は変わるんですけれども、Twitterと言えばこの前の選挙特番。参議院選挙の特番で、テレビ東京の番組に池上さんが出演していましたが、ネットを中心にものすごい反響で、相当池上さんに対しての称賛の声も相次いだわけですけど。そのあたりってご覧になったりしました?

池上 あのね、あれ(特番)は麻木久仁子さんも出演していて、(番組が)終わった後で麻木さんからメールが来て「今Twitterがすごいことになっていますよ」と言われて「へえ、そうなんだ」って。

津田 それで見に行ったりはしなかったんですか?

池上 ええ、まあ大分たってから見ましたけど「何だ、この過大評価は!」と。(会場笑)

津田 書籍を出版すれば書評を受けたり、テレビに出演したらTwitterなどで話題になるわけですけど、そういったご自分の仕事に対する評価って気にするほうですか?

池上 (そういう評価を)時々見ますね。つい見ちゃうとひたすら見ちゃって時間がなくなっちゃうので、ネットでの反響というのも見ますし、わたしに対する批判を見ると「なるほどなあ、そういう批判もあるのか」と。もちろんめげるんですけど、もう二度とテレビには出ないぞと思ったり、それくらい打ちのめされるんです。でも、そういう風な見方をする人がいるんだなと。自分の伝えたいと思っていたことが、思わぬ形で誤解されて受け止められる、それはやっぱり自分の伝え方がいけないんだろうと。本来伝えたかったことがその通り伝わらなかったということは、わたしが未熟なんだなと、結果的に反省させられますよね。

津田 そういう意味で言うと、非常にじっくり読むという池上さんの書籍と、ある種すごく分かりやすくかみ砕いて時間の制約の中で伝えなきゃいけないテレビって、一番の違いってどこにありますか? 同じテーマにしても全然違いますよね。

池上 違いますね。

津田 気を付けていることってありますか?

池上 これはね、やっぱりね、テレビと本というとまったく違う。例えばよく文章術というのがあるでしょ。

津田 はい。

池上 「起承転結」という言葉がありますよね。まず始まりがあって、それを展開し、ちょっとは話を変えて、最後にまとめる。じっくり読んでいただく時にはやっぱり起承転結がいいんですが、テレビで「起」を延々とやっているとですね、チャンネルを回されちゃうわけです。

津田 あー、なるほどね。

池上 そうすると、まあ言うなれば「結」からいきなり行く。まず「こういう話をします」ということを説明します。ある種「つかみ」ですよね。そこで視聴者が「え、なんだろうそれ? じゃあ見ようか」という気分になると、ある程度は見ていただけるかなと。そこで初めて文章で言うところの「起」になるわけですね。「この話はそもそも〜」という流れです。最初にどうやって「つかむ」かを、テレビの場合は考えますね。

津田 講演なんかもテレビと一緒ですね。

池上 恐らく一緒だと思いますね。

津田 まず「結」から入って、(講演受講者あるいはテレビの視聴者の)心を「つかんだ」上で説明をしていくやり方がいい。

池上 そうですね。ただし講演会の場合は、(受講者が)わざわざそこまで足を運んでいます。そうするとある程度我慢して聞いてくれますよね。テレビの場合はピッと変えられますから。

津田 うーん、なるほど。

池上 今でこそ「ピッ」と言いますが、昔は「ガチャガチャ」。チャンネルを――。

津田 ダイヤル、ダイヤル。

池上 そう、チャンネルを回しますから、わたしの世代はね、そういう言い方をするんですが。今はピッと変えられちゃいますから。そこはそれを意識して伝えるということをやりますね。

津田 そういう意味では、じっくり池上さんの話を聞きたい人が池上さんの講演会に参加したり、池上さんの書いた解説を読みたい読者の人が本を買ったりしますよね。そういうのと、興味はないけどたまたまつけていた人がテレビを見るというパターンになりそうですね。今回のUstreamみたいなネットを使った動画番組はそれらのある種中間にあるというか、たまたま来る人もいるし、池上さんが出るんだったら見に行こうという人もいて、かつテレビほど制約もなくて時間も何なら伸ばせたりもする。こういうリアルタイム性のあるメディア、Ustreamならではの表現方法とか伝え方、多分テレビよりも深堀りができるのかなって気がしています。

池上 それはその通りですよね。まさにすぐに反応があるわけでしょ。

津田 今、(同時視聴者が)1000人突破。

池上 出ましたね。(会場拍手)となると、つまり今回わたしは初めての体験ですから「ここでどういうことが行われたのか」を後で自分なりに検証してみないと何とも言えないのかなと思いますが。さまざまな反応がビビットに来るっていうのはやっぱり(いいですね)。

津田 「8888」とタイムラインに表示されているじゃないですか。

池上 これはなんですか?

津田 これは「パチパチパチパチ」(拍手しながら)ということを表していて、会場以外だと(拍手は)伝えられないのでネットで見ている人は「8888」とコメントする。これネットの文化なんですよね。

池上 なるほど。今、勉強させていただきました。……この「9999」というのは何ですか?

津田 これは間違えたんですかね?

池上 これは間違えたのか、それとも「8」よりすごいよ、という意味なのかねえ。「ブーブーブー」というのはないんですか? ブーイングの。

津田 いろいろあるんですよね。英語圏でも発達していて、よく分からない表現だなと思っているとネットのルールみたいなのがあるんですよね。

テレビは書籍のプロモーション!?【19分08秒前後〜】

津田 僕も何度かテレビに出た時、テレビ局の人が狙っているのはどうしてもテレビっていうのは解説とかが最大公約数的なメディアというか、だいたいの人が分かるように伝えなきゃいけないので、本当はもっと深い話っていうのを掘り下げてやりたいんだけど、できない。でももしかしたら、テレビ番組でそういう分かりやすい一般的な最大公約数的な解説をした後、放送時間が終了したらその後、こうしたUstreamで延長編みたいにして、濃いトークを1時間やるみたいなそういった(インターネットとテレビの)融合の仕方があるんじゃないかと思うんです。

池上 当然ありますよね。

津田 「入門編 池上彰」みたいなのがあった後、もっと深い解説をするみたいな。テレビに出ていて、本当だったらもっとこういうことが言いたいのに、ここまで説明したいのに、という風に欲求不満になったりしませんか?

池上 欲求不満にはなりませんけど、それはいつでもありますよ。つまり例えば「学べるニュース」の場合は小学生も見ているんです。小学生から年配の人まで見ています。その中には「Ustream」という単語をそもそも聞いたことがないこともあります。(Ustreamと聞いて)「昔『ジェットストリーム』という深夜の音楽番組があったなあ」という受け止め方をする人もいるわけですよね。そういう人を含む、みんなに伝える時にどこまで伝えられるのかなという思いがあったり、「学べるニュース」の場合は「ちなみにです」と言って、ちょっとディープな話をするんです。そこが実は普通の番組とは違っていて(だからこそ)見てもらえるのかなと思っています。

 そういう意味で言うと実は「もっと言いたいことがありましてね」というはありますよね。別にそれを伝えられなかったからと言って欲求不満にはならない。「それ、本で書こう」と思うんです。

津田 あくまでそれで池上さんが伝えたいテーマとか、問題に興味を持ってもらってより深く知りたい人は本を買ってもらうという。

池上 そうですね。ここでしゃべっちゃうと「もういいや」って本を書く気にならないかもしれない。

津田 なるほど、壮大なプロモーションになっているという考え方もできますね、それは。

池上 ああ、そうか。あの、Amazonの「なか見!検索」みたいなやつですな。

津田 なか見!検索としてのテレビ、みたいなね。あ、今ですね、Twitterの質問をみていて、すごい反応がありますね。

池上 「ジェットストリーム、今でもやっている」とか。そうです、知っています。言ってから「ああ、(今でも)あったなあ」って。ちなみにそのジェットストリームをやったラジオ局って東京FMでしょ。東京FMの最上階にジェットストリームという名前の会員制レストランがありますよね……というような話は、テレビではしないよね。

津田 そうですね。それが許されるのがUstreamなんです。

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