全文公開! Ustream初出演、池上彰さんの仕事術(前編)Real Time Webな働き方(4/4 ページ)

» 2010年11月11日 15時10分 公開
[鷹木創Business Media 誠]
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「いい質問ですね!」は何の合図?【22分00秒前後〜】

津田 さっきあれですよ、(視聴者のツイートで)「いい質問ですね!」というのが聞きたいって。

池上 はい。

津田 もう決めフレーズですよね。あれのきっかけは何だったんですか?

池上 あれはねえ、要するに、話のストーリーを自分なりに作っているわけでしょ。もちろん番組ですから台本があるわけですよ。当然、ディレクターの人たちと話をして、ニュースを解説するときに「こういう話にして行こうね」というのがあるわけですが、番組中では芸人さんたちが次々にアドリブで質問するわけですよね。そうすると、本当はこういう話をしたかったんだけど、そういう質問が出たからじゃあその話をしましょうかと、どんどんどんどん話がずれていることがあるわけです。そういう時に、その本筋に戻れるような質問をたまたましてくれると「うわ、うれしい」となって「いい質問ですねえ!」

津田 すごい舞台裏ですね、これ。

池上 「いい質問ですね! その質問が出たおかげで、わたしがこれからやろうと思ってきた本筋に戻れるんですよ」――という意味なんです。

津田 もちろん芸人さんはバラエティー番組ということを意識して、脱線することで面白さを出して行こうとしているんでしょうけど、どこかのタイミングでそれを戻せる質問が出てきた時に、(「いい質問ですね!」が)ある種の合図になって進んでいくんですね。

池上 芸人さんは戻そうって考えてくれているわけじゃなくて、見てると分かるんですよ、芸人さんたちは最初はね、わたしの解説に応えなければいけない。というので、自分の役割があって、笑わせたりしながら、いろいろやって行こうとしている。「これはわたし達にとってどういう影響があるんですか?」とは言わないで、「それは春日にとってどういう意味があるんですか?」みたいに――春日って誰だか分かりますか?(胸を張って)こういう人ですね――。

津田 オードリーの春日(俊彰)さんですね。

池上 という風に笑わせようとしてやっているんですよ。そのうちにそんなこと忘れて、みなさん見る見る素になって行って、いち個人として「これ、そのあとどうなるんですか?」みたいな話になっていくんですよ。これが面白いですよね。

津田 じゃあもう本当に台本というはある程度、そこはもう流れに任せてという感じでやって行くんですね。

池上 そうですね。もちろんテレビ番組ですから、台本がなければいけませんよね。で、カメラマンを含めてスタッフみんなが共有する台本はもちろんあるんですが、あそこでいろんな芸人さん達が、アドリブでいろんな質問をする。それにどんどん答えていくわけですから。1時間番組ですと、だいたい2時間から2時間半ぐらい(の収録中は)、ひたすらわたしが説明する、しゃべってるみたいなことになってますよね。

津田 逆に言うと、芸人さん達にとっても「いい質問ですね!」が出ると、話題の脱線も止まっていくという信頼関係が生まれているわけですね。

池上 「いい質問ですね!」とわたしが言ったら、ここで本線に戻ったんだと(視聴者も)考えていただけたらいいんじゃないんですか。

津田 個人名を出すのはどうかというのもあるんですけれど、一番ズバッと素朴に核心を突いてくる芸人さんって誰ですか?

池上 やっぱりね、土田(晃之)さんですね。

津田 やっぱりそうですね。

池上 見事ですね。

津田 見ていて僕もそれは思いますね。

池上 話を見事に先に進めてくれるんですよ。あれは見事ですね。

津田 そういう意味で言うと、土田さんはキャスター向き、もしくはキャスターの横に置いておくと便利なのか。

池上 便利っていう言い方も失礼ですよね(笑)。あの番組を進めて行くのに、欠かせない人だと思いますね。

津田 だからいろいろな番組で使われているんですね。

池上 使われているという言い方は失礼(笑)。

津田 そうですね、番組の出演依頼が引きも切らないというか(苦笑)。

池上 そういうことですね、はい。

津田 すいません、表現の勉強になりました。

池上 すいませんね、ついつい言葉遣いのことをねえ。

津田 なかなか難しいですよね。僕もこういったもの(番組の司会)が本業じゃなかったもので……。

池上 (津田さんに対して)テレビにも出てらっしゃるんですよね、と言われるわけですよ。

津田 僕はそういう意味で言うと、メディアでコウモリ的な存在になっていて、テレビにも呼ばれたら出ますし、Ustreamにも出ますし、ニコニコ生放送にも出ます。Ustreamとニコニコ生放送はネットのライブ放送ではしのぎを削っているんですが、僕はどっちにも出ていて、かつ自分でもUstreamをやったり、本を書いたり――最近は全然書いてないですけど――、でもいろいろやっていて、どれにも出ているんですけれど、やっぱりメディアが違ってどれも面白いな思って。聞こえてくるお客さんの反応も全然違うんですよね。

池上 そうでしょう。

津田 多分、今日の番組をニコニコ生放送でやったらやったで、池上さんに対して面白おかしく揶揄するのも出てくるし、でも(池上さんの)面白発言が出てきたら「超ウケる」みたいなのも出てきたりしたんじゃないかと思って。今日、放送が始まる前にもタイムラインを見ていたんですが、池上さんはすぐレスポンスをしていて、初めてUstreamを出るというのにさすがだなと驚いた。池上さんがネットの解説番組をやったら、すごい人気が出ると思いますよ。テレビ以上に人気がでると思うので、ぜひ積極的にいろんなこうしたネット番組に出てもらえると。

池上 (タイムラインを見ながら)わたしの本を手に持った写真も出てますね。ありがとうございます。

インターネットの説明、「あ、そんな風に勘違いするんだ」【27分35秒前後〜】

津田 インターネットのイメージってどうですか? 漠然とした大きな質問なんですけれども、最初に使い始めたのっていつぐらいですか?

池上 インターネットねえ。そもそもわたしがNHKの「週刊こどもニュース」を始めたのが1994年なのですが、ちょうどそのころに「インターネットってなあに?」という解説を始めてですね、初代のお母さん役は柴田理恵さんだったんです。本番の前に打ち合わせをした時に「インターネットって何か」をとりあえず柴田さんに説明したんです。分かってもらおうと思って「インターネットというのはパソコンとパソコンがつながってるんですよ」と言ったんですよ。そしたら柴田さんが「え? だって前からパソコンはつながってるじゃないですか!?」。何のことか分かりますか?

津田 電源コード?

池上 そう、電源コードです。コンセントでつながってるじゃないかと。「あ、電源に入っているということがつながっているという風に勘違いするんだ」。そこからそもそもインターネットという説明を始めて、その時にインターネットの未来とはなんだろうかとずいぶんいろんなことを言ってましたよね。あの時に「1人1人が情報のを発信できるんだよ」あるいは「いろいろなところが発信していると、新聞記者やテレビの記者じゃなくたって誰でも発信源にインターネットを使ってアクセスすることができて1次情報を手に入れることができるんだよ」と。そういう時代が来るんだよ、というようなことをわけも分からないまま、あのころ言っていたんです。でも今になりますと、例えば新聞記事で何かが出てるでしょ。「ああ、これはここが発表したんだな」と。「アメリカの国務省の発表じゃないか。そしたら国務省のWebページを見てみよう。あれニュアンスが違うじゃないか」――とかね。そういう意味で既存の新聞やテレビのメディアにとって、とってもやりにくい時代になってきた。

津田 インターネットが登場した直後ぐらいからその可能性について感じていたんですね。

池上 まさかここまで来るとは思いませんけれども。仕事の役に立っているという意味で言えば、新聞に海外情報が出てきている時に「じゃあ本当のところ、どうなんだろうか」。「ヨルダンタイムスがこう伝えた」というので、ヨルダンタイムスを見るとですね――ヨルダンタイムスはネット上に過去の記事もアーカイブしていて読めるんですよ――それを読んでいくと「あれ、ニュアンスが違うんじゃないか」とか。そこから思わぬ話に広がっていくこともあるんですね。

津田 インターネットの良さは、こうしたリアルタイム性だったり、インタラクティブ性だったりすると思うんです。テレビなんかでも、米国ではTwitterとの連係が進んでいて、CNNの番組ではキャスターがiPadを持ちながら、(タイムラインを指して)こういうのを見ながら「いろんな意見が来ましたね」とやっています。やっぱり日本ではまだまだそこまでは行かない。そこは何でなんでしょうか。

池上 多分テレビの世界の人たちがどう使っていいか分からなかったり、極めて保守的だったり、あるいはテレビに出ているキャスターはおじさん達ばかりでしょ、ね。(会場笑い)。なかなか新しいものについていけなかったり、これをどう使えばいいのかというところがなかなか進んでいないんじゃないのでしょうか。

 次回に続く

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