百花繚乱だからこそ、「ステーキを売るな、シズルを売れ!」最強フレームワーカーへの道

「iPhoneアプリだ!」「いやソーシャルだ!」――。最近、新規事業のブレインストーミングを行うとどうしても流行のキーワードに偏りがち。ですが、本当に顧客の欲しいものは何なんでしょうか。

» 2010年11月22日 15時45分 公開
[永田豊志,Business Media 誠]

 最近、わが社も来期の新しい事業アイデアを考えるために、自主的に集まったワーキンググループでいろんなテーマを論議しています。わたしはオブザーバとして各グループに入ってアドバイスしているのですが、どうも、みんな機能やプラットフォームにこだわる傾向があるようです。「iPhoneアプリだ!」「いやソーシャルだ!」など流行のキーワードが飛び出してくるのです。

 しかし、わたしがそういう時に感じるのは「本当に利用者が求めているものは何なのだろうか」ということ。これだけ、情報やサービスが洪水のようにひしめきあう中で、今一度、顧客心理というものを見つめ直す必要があります。そこで思い起こすのが「ホイラーの法則」です。

70年たった今でも色あせない、セールスのヒント

 「ステーキを売るな、シズルを売れ!」。これは、アメリカの経営アドバイザー、エルマー・ホイラー(Elmer Wheeler)が1937年に著した『ホイラーの法則』の中で示した有名なせりふです。『ホイラーの法則』は彼自身が10年以上にわたって、10万5000以上のセールストークを研究したマーケティング、販売のノウハウ集で、5つの条項にまとめられています。

 すでに70年以上も前のものですが、実は現在でも十分通用する販売上のヒントが満載です。営業やプレゼンテーション、そして新商品の企画アイデアにも活用できそうな、そのエッセンスをご紹介しましょう。


第1条:ステーキを売るな、シズルを売れ!

 先ほども引用した有名な一節です。本来「シズル(sizzel)」という言葉は肉がジュージューと焼けて肉汁がしたたり落ちているような状態。ここでは、製品そのものよりも、それによって得られるメリットを共感できる形で伝えることが大事である、という意味であります。ステーキの持つ機能「焼いた肉で、カロリーは500キロカロリー。たんぱく質が豊富で、味は……」よりも、シズル「うわっ、美味しそう!」という気持ちがわくかどうかが重要です。

第2条:手紙を書くな、電報を打て!

 意味としては、くどくど説明せず、なるべく少ない言葉でシンプルに顧客に訴えかけよ、との意味です。プレゼンは最初の10秒が決め手になると言われていますよね。せっかく企画を立てても、説明に長い時間かかるものはいい企画とはいえません。いいアイデアは、一言、二言で明確に伝えられるものでなければならないのです。新聞や雑誌の見出しをよく見て、そうしたセンスを身につけましょう。

第3条:花を添えて、言え!

 売り言葉に説得性をもたせるための動作、演出が大事であるということです。「愛しているよ」と手ぶらで言うより、バラの花束を渡しながら言ったほうが効果があるのと同じ、ということですね。人間は感情の動物です。同じ機能が提供される場合でも、その提供されるスタイルやストーリー性にとても大きく影響されます。

第4条:「もしも」と聞くな、「どちら」と聞け!

 相手に「ノー」と言わせないためには、「買いますか、買いませんか?」ではなく、「こちらとあちらのどちらがいいですか?」と聞くのが営業の鉄則と言われています。顧客に選択肢を与えることで、顧客の趣味嗜好や関心の方向性も分かります。

第5条:吠え声に気をつけよ!

 これは声のトーンがプレゼンにおいてとても重要であることを意味しています。第1条から第4条までのポイントをおさえたとしても、肝心の「声」に活気がなかったら、プレゼンは成功しません。声質は変えられなくても、相手のためになりたい、という熱い気持ちが声に出なければいけません。

 また、犬の無駄吠えと同じように、意味のない言葉をただプッシュしても逆効果です。伝えたい情報を絞り込んで効果的に使いましょう。第2条のシンプルにする、というのはどのようなビジネスコミュニケーションでも最重要ポイントです。


 これらをまとめると、

 「製品ではなく相手にとってのメリットを、なるべく少ない言葉で、身振り手振りなど効果的な演出を添えながら説明し、提案したうちのどちらを選択するかを、相手を思いやるしっかりした声のトーンで説明する」

 ということになります。セールスの基本ではありますが、なかなか味わい深いではありませんか。プレゼンや営業、ビジネスコミュニケーションでそのまま活用できそうですね。

 さて、あなたの提案にはどんなシズルがあるでしょうか? 今一度考えてみてください。

 追伸:プレゼンを劇的に成功させる図解思考テクニックを本にまとめています。12月には新刊として発売する予定ですから、お楽しみに。

著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)

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 知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。

 リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。

 近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)がある。

連絡先: nagata@showcase-tv.com

Webサイト: www.showcase-tv.com

Twitterアカウント:@nagatameister


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