「紙の手帳のよさ」を確認しておくあなたの不安、見積もります

Evernoteの便利さはとても実感しているのですが、相変わらず紙のメモもMOLESKINEを通じて行っています。これは“無駄”なことなんでしょうか。

» 2010年12月16日 18時30分 公開
[佐々木正悟,Business Media 誠]

 最近になってもなお「情報はデジタル派」という人と「情報はアナログで」という人にお会いすることがあるのですが、その区別が人によってまちまちで、混乱します。ある書籍には「最初から最後までデジタルの世界から抜け出さないまま、すべてを処理しようとする人が増えてきている」とあったのですが、そんな風に完全にデジタルな人はいそうにありません。

 多くの場面で好みが分かれるのは「デジタルとアナログ」ではなく「紙か電子か」だと思います。紙の手帳と電子手帳、紙の書籍と電子書籍、印刷した写真と画面の中の写真――。ざっくりした分け方なので突っ込みどころはご容赦してほしいのですが、こういう分類なら話は分かりやすい。技術が進めばこれらの区別も曖昧になるでしょうが、今はまだ両者が別れています。

 堀正岳さんの『モレスキン「伝説のノート」活用術』を一読して以来ずっと「紙のノートのよさ」とは何なのだろうと考えることが増えました。私の場合、可能な限りメモはEvernoteに集中するようにしています。それでも紙に書きとめたい気持ちはあって、恐らく慣れているという部分もあるのでしょうが、ほかにも言葉にしがたい紙への憧れのような気持ちもあります。

 この言葉にしがたい部分をじっくりと考えて整理してみると、Evernoteでは現状どうしても難しそう次の3点が残りました。いずれも誤解を恐れずに伝えると、

  • 紙は手描きがしやすい
  • 紙は時間の経過を保存してくれる
  • 紙は達成感がある

 手描きしやすいことについては、説明は要らないでしょう。ただしこれも慣れの問題かもしれません。もし私の子供が幼稚園から電子パッドに入力し続けたら、子供が私と同じように感じるかどうかは疑わしいものです。恐らく同じようには感じないでしょう。

 2つ目に「時間の経過の保存」ですが、これは1つの価値であり、Evernoteには難しいことです。手帳は10年たてば、10年分古くなります。Evernoteは絶対そうはなりません。10年間保存し続けたことは記録できますが、10年という年月を機器自体が保存することはないのです。そこに一抹の寂しさを感じる方がいらっしゃるのは、十分理解できます。

 最後に達成感ですが、手帳にせよノートにせよ、紙の道具には「厚み」があります。この「厚み」という言葉には、これ自体に好感が持てるところがあります。手描きしてきた厚さには、それだけの年月と労力の達成感が伴うのです。

 そもそもEvernoteにせよ何にせよ、デジタルノートには「厚み」がありません。iPhoneの厚さは、あれはデジタルノートの厚みとは何の関係もないものです。1日1ページずつ記録していけば、100日後には100ページの厚さになる。デジタルにはそれがないのです。

 もちろんないからいいのです。広辞苑がポケットに入るというのは、厚みがないからこそであります。ただし、人は動物であり、動物は達成感を欲しがるものであり、ノートに一生懸命勉強したら、それだけの成果が目に見えて、できれば手で触れられる方がいいのでしょう。

 ただし全体的には、少なくとも私にとってはEvernoteが便利。従って現在のところ私は折衷案として、趣味的な内容をMOLESKINEとEvernoteにためこんで、整理はもっぱらEvernoteだけで行うようにしています。

 MOLESKINEとEvernoteに同じ内容を溜めるのは無駄じゃないか――と言えばその通りです。しかし、趣味とは別に合理的なものである必要はないのです。

筆者:佐々木正悟

 心理学ジャーナリスト。専門は認知心理学。1973年北海道生まれ。1997年獨協大学卒業後、ドコモサービスに派遣社員として入社。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、2004年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。著書に、『スピードハックス』『チームハックス』のほか『ブレインハックス』、『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』、『やる気ハックス』などがある。「シゴタノ!−仕事を楽しくする研究日誌」にて「心理ハック」を連載中。ブログ「ライフハックス心理学」主宰。


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