全文公開! Ustream初出演、池上彰さんの仕事術(中編)Real Time Webな働き方(2/3 ページ)

» 2010年12月27日 18時45分 公開
[藤村能光Business Media 誠]

現場を見ているのだから、現場を伝えよう【49分5秒前後】

津田 池上さんの番組を見させていただいていると、中東問題など紛争地域の解説をしていることが多い印象を受けます。そのテーマは、テレビ局との話し合いの中で決まっていくと思うのですが、池上さんのご興味としてその方向があるんですか?

池上 社会的な衝突、いわゆるキリスト教とイスラム教の衝突や、その接点で摩擦が起きていると「何が起きているんだろう」、また紛争が終わって「何が起きているんだろう」と思い、見に行きたくなるんですよ。中東ではこれからきな臭くなりそうだとなると、行ってみる。今何が起きているかが目に見えるところにはテレビ局にどうですかと言って行きますが、今は目に見えないが、いずれ何かあるのではというところはテレビではなく自分で身銭を切って行ってくるのです。

 「学べるニュース」(そうだったのか! 池上彰の学べるニュース)は最初は学べるニュースショーだったのですが、私がニュースを解説をするきっかけになったのは、去年6月のイラン大統領選挙です。それまでは、それこそいろんなニュースをショウアップする番組だったんですね。それがイランの大統領選挙をめぐって大混乱が起きている。ちょうどそのころ、Twitterが威力を発揮し始めたんですね。そもそもイランの場合は報道の自由がなく、反体制派の人たちが情報を共有できない。その時にTwitterではじまったわけですよね。

 大混乱(について)はニュースでやっているけど、そもそもイランはどんな国ってことはどこでも解説されていないんですね。イランってどんな国ですか、を紹介すればいいと提案してそれが数字をとっちゃったものですから。いずれイランで何か起きると思ったので、NHKを辞めて身銭を切って真っ先に行ったのですよ。暴動が起きているのを見ると、「ああこれはテヘラン大学の前の通りだとか、革命広場じゃないか」とかが分かるわけです。これが結果的に後になって仕事に役に立ってきたと。

津田 その時のイランは、どれくらい滞在されたのですか?

池上 1週間くらいです。中東でどこかきな臭いところがあるなあと思い、それはどこかとは申し上げませんが、この前もちょっと見てきたということなんですね。

津田 そういう意味で、Twitterって面白いというか池上さんの『伝える力』の中で、すごく感銘を受けたというか、Twitterっぽいなと思ったところがあって。緩やかな演繹法というパートです。ジャーナリストは現場に行くのが基本で、現場に行く前に仮説を立てて行くけど、それはたいてい裏切られる。その時最初に作った仮説に縛られると変な仮説になる。そうではなく、ある程度緩やかな仮説を作っておいて、現場で新たな情報を伝える。これがTwitterでも今行われています。Twitterきっかけの報道や新しいメディアの在り方を示しているのではないかと思うのです。

池上 そういう風に受け止めていただいてありがとうございます。海外に取材に行くとなると、テレビ局は台本を作ります。それで決済も下りてお金が使えるようになるわけですが、その通りに(情報が)とれないとどうしようと思って、無理矢理筋書きにあわせようとする。それがやらせにつながるわけです。現場見てるんだから、現場に即して、現場を伝えようよということですね。

津田 そういう意味では、Ustreamのような生(放送)だとなかなかうそはできないというか、Twitterでの日常的なプロセスが全部配信されるのは、これからの1つの報道の形になっていくのかなあと思います。

どうすれば分かりやすく伝えられるか【53分35秒前後】

池上 今、Ustreamの参加者が世界第4位ということですが、これはどういうことですか。

津田 Ustreamはトップページに行くと、どれくらいページが見られているのかということが視聴者順に並べられるんですよ。それで今(この番組が)世界で4番目に見られているということです。1位は裏でやっているドラフト会議ですね。ドラフト会議のように。普段は中継されないものがされるようになりました。情報の流れも変わりますよね。

 テレビではなくちょっとした機材で(Ustreamのような)番組が作れるようになっています。こういった情報機材を使って、Twitterでもインターネットでも本でも、情報を伝えていきたいという人にアドバイスがあれば。

池上 情報を伝えたい。いろいろあるのですが、本で読んだり新聞で見たりして頭でっかちになっちゃうといけないんですね。現場にいるのに現場を見ないで頭の中にあることを書いてしまうことがあるんですよ。現場を見て、現場で何が起きているかを判断する知識は必要です。そのための事前準備はちゃんとやらないといけない。現場で起きたことを判断できるだけの力をもって現場にいってほしい。だけど、現場で何か新しいことが起きていたら、それを伝えてよと。その現場ならではのことを伝えてほしいということです。

 よく言うのは臭いを伝えよ、色を伝えよ、その時の風がほほに当たるその感触を伝えよう、ということなんですよ。そこにいるからこそ分かるもの。それを見ていると、まるでそこからにおいが出てくるような、そういうリポートをしてほしいなと思うんですね。

津田 そういう風に伝えるためには、普段からどういう訓練をすればいいんですかね?

池上 私が以前にやったのは、架空実況中継です。(例えば)電車に乗るでしょう。7人の人が座っており、その内5人は携帯を使い、1人はゲームをやっています。1人はよだれをたらして寝ていますということをね、実況中継でどこまでできるかですよ。

 この会場では、実は2人掛けのテーブルが6列並んでいて、私たちの方から見て右側、つまり画面から見ている人から見て左側には管理をする人がいてですね、その後ろにはいろんな人がいますよね。男性女性いろんな方がいらっしゃるのですが、非常に不思議なのは私たちの話を聞きながら、ひたすら携帯電話に書き込んでいる。

津田 多分Twitterで書き込んでいるんですね。

池上 Twitterで書き込みをしているんだなと。極めてユニークで不思議な世界です。

津田 昔だとある意味失礼じゃないですか。でも今は増えてきたんですよ。ソーシャルメディア系の話をすると、みんなレポートするのがあたりまえになってきちゃったから。最前列を見ていると自分の話がつまらないのかなと思っちゃうんですけど、でもみんなまじめにやってくれているので、風景が変わってきたと思いますね。

池上 Twitterをやると、2人のとりとめのない話を文章にしないといけないわけでしょ。何をいいたいのかを一生懸命考え、人の話を注意深く話を聞き、自分の頭の中で整理できるんですよね。これはいろんなところでTwitterをやることによって、自分の頭が整理され、非常に理解が深まるんだと思うんですよ。

津田 ちょっとみなさん、Twitterやった方がいいですよ。Twitterで実況中継をやることが訓練になるという池上さんのお墨付きがいただけましたよ。僕がこれまでやってきたことは正しかったんです(笑)。

池上 私はテレビや本で分かりやすく説明するために、いろんなことを勉強をしますでしょ。ただ一生懸命勉強をしても説明できないんですよ。よく「分かったなら説明して」というと説明できないということ、ありますよね。私もこどもニュースをやっていたものですから、ある経済の難しい話を子供、小学校5年生に分かるようにするにはどうしたらいいのかという問題意識を持って、勉強をしていたんですよ。そうすると本当に深く理解できるのです。

 いろんなイベントや講演会に行き、その人の話を聞きながら、見ていない人にどうやってTwitterで情報をどう伝えるかなと。問題意識を持って短い文章にしていくことで、ここでは一体何が話し合われていたのかを把握できる良いきっかけになるのではと思います。

津田 常に問題意識を持って勉強をして、要約をすることで人に分かりやすく伝える力が身についていくということですね。じゃあもう、池上さんはものすごくTwitterに向いているということですね(笑)

池上 そこに持って行くというわけですね、これを我田引水と申しますね(笑)。

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