準文具王が作った「ジブン手帳2011」 人に歴史あり、手帳に“遺影”あり?手帳2011

手帳にかける情熱なら誰にも負けない――そんな人の中には手帳を1冊自作してしまう人もいる。今回はそんな中でも“準文具王”である博報堂のCMプランナーが作った「ジブン手帳2011」を紹介しよう。

» 2011年01月07日 19時20分 公開
[舘神龍彦,Business Media 誠]
ジブン手帳2011。縦横の比率は黄金比だという

 手帳にかける情熱なら誰にも負けない――そんな人々を私は何人も見てきた。そして中には手帳を1冊自作してしまう人もいる。今回はそんな中でも講談社が発売した「ジブン手帳2011」を紹介しよう。

トモエリバー採用、モジュール型3分冊手帳

 手帳の悩みのナンバーワンはなんだろう。それは「自分にあった手帳がない」ということではないだろうか。使いこなしや活用もそうだが「土日の幅が小さい」「フォントが好みではない」などのポイントは、手帳の利用歴が長ければ長いほど気になるものだ。そして、世の中には自分仕様の手帳を作ってしまう人も少数ながら存在する。今回紹介する「ジブン手帳」もそんな一例である。

 ジブン手帳を制作、デザインした佐久間英彰氏は博報堂勤務のCMプランナー。あの文具王・高畑正幸氏の同級生でもあり、かつてTV番組「テレビチャンピオン」で、高畑氏と文具王の座を競った“準文具王”でもある。

 デザインが本職ではない氏が、巻末の地下鉄路線図に至るまで、すべて自らデザインした。元々Macユーザーだったとはいえ、手帳制作のために、グラフィックソフトを長時間使用した。その結果ばりばりに使えるようになったという。

3冊のほかに、カバーや着脱可能なゴムバンド付き定規もセット

 さっそく手帳としての構成を見てみよう。ジブン手帳は、ビニール製カバーの内側に3つの冊子が挟まっているモジュールタイプ。カバー表面には小型ポケットがあり、小さなカレンダーや写真を挟める。裏面の縦型ポケットには付属のゴムバンド付き定規が差し込み可能。装着するとMOLESKINEのようにゴムバンドで全体を押さえられるようになっている。

 カバーの内側には6つのポケットがあり、カードや名刺などを入れられる。本体カラーは白だが、ジブン手帳のWebサイトでは、ダウンロードしてプリントアウトできる“カバー”も用意し、本体色を好きなように変えられるようになっている。

 3つの冊子は以下の通りだ。

  • LIFE:人生手帳
  • 2011:1年手帳
  • IDEA:方眼のアイデアノート
LIFEの記入欄
欄名 記入内容
LIFE'S DREAM(人生の夢) 目標とその実現のための行動を記入
PERSONAL MOTTO(座右の銘) 日々の生活の中で気に入った言葉を記入
LIFE PLAN(人生設計) 2050年までの年齢とイベント、収入などを記入
MONTH ANNIVERSARY(記念日一覧) 12月1日=手帳の日など、365日の記念日一覧。家族や友達の記念日などを記入
JAPAN TRAVEL MAP/WORLD TRAVEL MAP(日本地図/世界地図) 行ったことのある場所、行きたい場所とそのメモを記入
CHRONOLOGICAL TABLE(年表) 年齢ごとの出来事を記入する。個人史的なページ
FAMIRY TREE(家系図) 自分と家族、配偶者の家系、家紋などを記入する
EMERGENCY CONTACT LIST(緊急連絡簿) もしものときの連絡リスト。連絡先記入欄付き

方眼+24時間表記――まるで“ほぼ日”のような基本スペック

 通常のビジネス手帳に相当するのが1年手帳(「2011」)の冊子だ。その基本スペックはほぼ日手帳と共通するところがある。まず紙はトモエリバーを採用していること。この採用には2つの理由による。1つは裏うつりしにくい紙質。もう1つは薄さだ。ジブン手帳は3分冊を1つのカバーに納めたスタイルで、しかも1冊ずつがそれなりにページ数がある。だから薄さで定評のあるトモエリバーを採用するに至ったという。

メインのスケジュール冊子の週間部分。24時間のバーティカル型。日の出/日の入り(時間軸が白抜きになっているところが日の入り後となる)や月齢など細かな情報を網羅。食事や気分の記録欄も

 全体的にも“ほぼ日”的なところがある。記入欄のベースは方眼パターンで、0時から24時までの24時間の時間軸があるところだ。3分冊のうち「2011」のみはパステルトーンに近い薄い色調が使われている。この方眼と色調も、ほぼ日手帳に似ているかもしれない。

 見開き1週間の週間ページ(バーティカル型)には24時間の時間軸。この“24時間”という点もほぼ日的かもしれないが、大きく異なる点がある。最大の違いは、時間軸に沿って毎日の日の出/日の入りの時間を記していることだ。

 自作の手帳でもっとも大変なのは、日付のデータを1から入力し、曜日や六曜と照合していくこと。この週間ページも佐久間氏が国立天文台のデータ(東京時間)を逐一入れたという。「夜中の4時ごろまで仕事をしていると、あと数時間で日の出だ」(佐久間氏)ということが分かるわけだ。広告業界の“ワークスタイル”から生まれたのがこの日の出と日の入りの表示なのである。

 サイズだけは、文庫サイズのほぼ日手帳よりやや大きい。19×13センチのサイズは黄金比(約8:5)を採用。このサイズならばA4版の書類を3つ折りにして収納することも可能だ。

「人生手帳」で自分を過去と未来に位置付ける

 ジブン手帳が従来のものと最も異なる点は「人生手帳」(LIFEの部分)だろう。人生手帳は、座右の銘や人生年表、365日の記念日(12月1日は手帳の日など)、行ったことのある場所や行きたい場所をメモする日本地図、世界地図、パスワードヒントリスト、資産メモなどの記入ページがある。

家系図
写真を貼り付けるスペースにはどんな写真も貼り付けられるが、

 そして恐らく今までの手帳になかったであろう記入欄が「家系図」だ。文字通り親類縁者の家系が記入できるようになっている。おまけに家紋の記入欄まである。作者の佐久間氏がどれだけ意識しているかは分からないが、これは自分という存在を、過去と未来の中に位置付ける効能がある。

 単なるスケジュール管理でもなく、夢や目標を書き出すだけでもなく、自分という存在が過去と未来の中間に生きているという、考えてみれば当たり前の事実を自ら書き込むことで明示してくれる。

 人が数十年の限られた時間を持った生き物であることは「緊急連絡簿」でも思い知らされる。これは持ち主に万一のことがあったときにグループとその代表者、連絡先の一覧を書くページである。大げさに言えば、さまざまな縁の中で役割を与えられ、生かされている――。そんなことを、利用者に分からせてくれるのがジブン手帳なのである。

 人生手帳では、最後のページにお気に入りの写真を貼ることを推奨している。佐久間氏は、ここに自分の“遺影”を貼ることを提案している。「死んだ時に遺族が適当に選んだ写真が後世にまで受け継がれるんですよ。そのときの写真が、実は故人が気に入っていない写真だったらどうするんですか。それこそ浮かばれませんよ」(佐久間氏)

家系図、遺影は“やりすぎ”か

 一方、「家系図なんて意味が分からない」「遺影なんか縁起が悪い」「自己満足で独りよがりだ」などと感じる人もいるかもしれない。確かに家系図や遺影は仕事用の手帳には必要を感じない人もいるだろう。

 しかし、別の面から見れば、こうしたコンテンツは今までのビジネス手帳になかった要素だ。これがどんな層に受け入れられるかは分からないが、過去と未来と自分の人間関係の中で自分の今をとらえるのがジブン手帳の本質だとすれば、前述した要素が新たなビジネス手帳の潮流になり得るかもしれない。

  作り込みすぎて「やりすぎ手帳」と呼ばれることもあるというジブン手帳。死を意識することで生が充実する。言葉で書いてしまえば簡単なことを、この手帳は家系図を書き、緊急連絡先を書き、遺影を貼ることで実感させるようになっている。この人生手帳の部分だけでも、ジブン手帳は十分に新しい手帳の姿を提示していると言えるだろう。

舘神龍彦テレビ出演情報

 誠 Biz.IDでおなじみの舘神龍彦がテレビ番組に出演! 2つの番組で手帳について熱く語ります。どうぞご覧ください。

著者紹介 舘神龍彦(たてがみ・たつひこ)

 アスキー勤務を経て独立。手帳やPCに関する豊富な知識を生かし、執筆・講演活動を行う。手帳オフ会や「手帳の学校」も主宰。主な著書に『手帳進化論』(PHP研究所)『くらべて選ぶ手帳の図鑑』(えい出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『システム手帳の極意』(技術評論社)『パソコンでムダに忙しくならない50の方法』(岩波書店)など。


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