震災時に企業サイトが発信できなかった理由とは?有事の情報発信体制を考える(2/3 ページ)

» 2011年05月20日 12時45分 公開
[聞き手:小林利恵子,Business Media 誠]

問題の原因は権限委譲

日立情報システムズの小野寺氏

小野寺 震災の時に、日立情報システムズの製品サイトは素早い対応ができました。理由は、営業が自律的に動けた部分があったからだと思います。とにかく、伝えたい情報を気づいた者がどんどん出していけるようにしないと、お客さまの求めているスピードに全く応えられないと思います。

増井 企業から出す情報が遅れる理由の1つは、社内に権限を委ねられたライターがいないことが挙げられると思います。例えば震災直後のお見舞いにしても、対策本部から情報が出てこないと、誰も自発的にライターとしての機能を発揮しない。これは、普段からコミュニケーション部門がライター機能より編集機能に重きを置いているために陥った落とし穴でした。

 今回キヤノンマーケティングジャパンでは、Web担当者が他社サイトなどを見ながら自発的にライター機能を果たし、お見舞い文を掲載しましたが、本来有事の情報発信の際に先頭に立って動かなければいけない本社のコミュニケーション部門は、普段から自律的に情報発信する訓練を受けておくこと重要性を痛感しました。

 もちろんキヤノンマーケティングジャパンもBCP(有事の際の事業継続計画)を策定していて、万が一のシミュレーションも行っています。ただし、BCPが「有事の際にどのようなプロセスをとるか」に重点が置かれていると、プロセスに組み込まれている1人が出社できないだけで情報発信活動が止まってしまいます。重要なのは、BCP発動時のプロセスに加え、権限委譲のパターンを想定しておくことです。

権限委譲プランの整備を

諏訪 コミュニケーションロスや、権限委譲に関する問題について私は緊急時における、「オプトイン」(事前許諾あり)と「オプトアウト」(事前許諾なし)の規約を事前に決めておいたほうがいいと思っています。つまり、緊急時に掲載すべき情報があったとして、そのプロセスが社員の不在などで実行できない場合、とにかく上げられるものはオプトアウトで上げてしまい、チェック担当が見てNGであれば、後にブロックをかけるというフローです。こうすることで、とにかく情報は出せます。Web業界の中には、オプトイン・オプトアウトの概念とともに、そういうことができる技術、ノウハウをすでに持っているところがあります。

キヤノンマーケティングジャパンの増井氏

増井 「権限の委譲」が速やかに行われることは重要ですね。キヤノンマーケティングジャパンでも出すべき情報が多くなるのに併せて、震災対応のポータルページを作りました。震災直後は、本来のレギュレーションに則り、時系列で情報を発信していましたが、支援情報、サポート情報、イベントの中止や計画停電の影響などが発生順にばらばら出てくると、お客さまにとっては情報が探しにくい状態になります。

 そこで、情報のカテゴリ分けをすることにしましたが、今度はカテゴリの表示順位をどうするかという問題が出てくる。例えば、義援金などの支援情報と、被災地に今必要なサポート情報や緊急速報のどちらの表示順を優先すべきかを至急決めなければなりません。平常時にはできる冷静な判断が、緊急時にはできなかったり、企業主語の判断になってしまう状況が生じ得るのです。キヤノンマーケティングジャパンでは顧客主語の指針がぶれないよう、Web担当者に被災地の視点であったり、被災地のサポートをしている現場の目線で順位づけするよう指示しました。

 また、今回の震災時に何が起こり、会社としては何をしたかの記録を時系列にとるよう指示しました。再び災害が起こったとき、デザイナーとウェブディレクターとSE、という3つカテゴリで、的確な判断に基づき今回より素早く情報発信ができるよう課題を洗いだしておくためです。

小野寺 緊急時におけるデータセンターの環境も再定義が必要でしょう。我々はデータセンターのビジネスをやっているので特に顕著でしたが、この震災を機にセンターをどこに持つか、あるいは海外にも持つべきなのかというような相談はすごく増えました。実際検討に入られているお客さまもいます。今回の震災をきっかけに、センターを分けて危機分散する「ディザスター・リカバリー」というソリューションも、以前は金融関係からのニーズが多かったのですが、やはり製造流通のお客さまからもお問い合わせが増えています。

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