複雑そうに見える事象を、非常に単純なパーツの組み合わせや基本パターンの繰り返しで表現できる方法を紹介します。
前回「図解思考を使った誰でも分かるレゴブロック的会計」まで、数回にわたってレゴブロック的に会計を捉えるという話をしてきました。「レゴブロック的に」というのは、物事をどれだけ単純化できるかということです。このレゴブロック的に対象を捉え、複雑そうに見える問題を単純化する考え方を私は「レゴブロック思考」と名付けたいと思います。
レゴブロックはデンマークのプラスチック玩具ブロックです。既に100年近い歴史を持ち、世界中で愛されています。レゴブロックの特徴は、1つ1つのパーツは単純でも組み合わせると、どんなものでもできてしまうということにあります。恐竜、人気キャラクター、宇宙ステーションなどなんでもありです。私はレゴの複雑なものも、分解すれば単純なものの組み合わせであると感じており、その点が思考のツールとして大変参考になると思っています。
「レゴブロック思考」とは、複雑な情報、データ、現象を非常に単純なパーツの組み合わせや基本パターンの繰り返しで表現できるという画期的(自画自賛……ですね(笑))な思考ツールです。今回はその一端を紹介してみたいと思います。
最近、うちの会社の若い衆がスマートフォン専用の女性の肌アドバイスサービス「肌ログ」というのを始めました。まずは無料サービスで会員を増やす思いでいろんな方法を試し、順調に会員数を伸ばしています。
担当者は毎回、会議で虫眼鏡が必要なエクセルの細かい表を作って説明していました。「今月は、2800人増えて5440人です。解約は260人です。リピート利用者は76人です」と説明します。説明資料には、こうした数字がエクセルの表にズラリと並んでいるのですが、どうにも傾向がつかめない。さらに目は疲れるし、なんとかもっとシンプルに表現する方法はないかと思ったのです。そこで、「レゴブロック思考」です。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | |
---|---|---|---|---|
新規獲得数 | 3200 | 2800 | 4000 | 3500 |
前月会員数 | 0 | 2900 | 5440 | 9130 |
当月解約数 | 300 | 260 | 310 | 450 |
当月末会員数 | 2900 | 5440 | 9130 | 1万2180 |
リピート利用者 | 560 | 760 | 850 | 1030 |
通常は、全て月ごとの数字を時系列に並べてグラフにすれば、見える化できそうです。例えば、複数の指標の時系列変化を表現するのに、一般的にはラインチャートを使います。具体的には、「各国の金利変化」「月ごとの科目別成績表」などです。しかし、それだけではなかなか関係性が理解できないことも多いのです。実際の前述した会員数をラインチャートにしてみたのが、以下のグラフです。
確かに、各項目はグラフになっているので項目ごとの変化はよく分かります。しかし、項目ごとの関係性(例えば、累計数は何の合計なのか解約数の影響が獲得数に及ぼす影響は?)は分かりません。
そこで、次にレゴブロック思考でグラフを改善してみたいと思います。レゴブロック的に、各項目を積み重ねる形でどう表現できるかを考えてみましょう。
まずは、指標の関係性に着目しましょう。その月の会員数は、前月の会員数+新規会員数で表せます。リピート利用者の数は他の指標に左右することはないので、独立した指標です。まず、新規会員数と前月会員数だけ積み上げ棒グラフで表してみます。
しかし、これだけでは正確ではありませんね。それは当月の末までに解約が発生しているからです。しかし解約数はマイナスの要素なので、積み上げるわけにはいきません。積み上げると、プラスになってしまいますから。そこで、解約数分をY軸=0より下のエリアに移動します。そしてその分、棒グラフの全体を下げるのです。解約数が新規獲得から生じているか前月獲得数から生じているかは分かりませんが、便宜的にそのまま棒グラフをグイっと下げるのです。
こうすると、当月の累計会員数(棒グラフのてっぺんの数値)が一目で分かります。また、当月の獲得累計を翌月のグラフの「前月会員数」に合わせてみれば、少しズレているのが分かります。このズレが解約数です。
最後に、リピート会員数をラインチャートで付け足します。なぜリピート会員数だけ棒グラフでないかというと、積み上げロジックとは無関係だからです。他の指標は計算式で関係を示せますが、リピート会員数はそれができません。よって、以下のように独立したチャートとして付加します。
これで完成です。複雑な指標をバラバラに提示されると、聞き手は頭の中でその関係性をもう一度、組み立て直さなければなりません。しかしレゴブロックのようになるべく関係性の高いものは積み上げて、全体と個別をまとめて見える化できれば、コミュニケーションはもっと上手くいくはずです。
複雑怪奇なエクセル表を会議資料として使っている人は、一度、1つのグラフで全てを見える化できないか検討してみてもいいのではないでしょうか?
パワポの前に「図」で考える――。ベストセラー『頭がよくなる「図解思考」の技術』の第2弾となる本書は、プレゼンテーションの根幹とも言える「メッセージをどう作り、どのように伝えるのか」を図で整理する方法を解説しています。
「見栄えのいいスライドを作ること」や「説得力のある話し方をすること」も当然大事ですが、プレゼンの目的(メッセージ)そのものが洗練されていなくては、聞き手の心には届かないからです。営業プレゼンテーションや講演に限らず、ちょっとした説明や商談、または報告などにも応用可能で、あらゆるビジネスシーンで活躍するはずです。
知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。
リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。
近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)がある。
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