Google Appsがもたらした震災後の変化――企業の主力製品も180度変化脱ガンジガラメの働き方(2/3 ページ)

» 2011年11月07日 00時00分 公開
[まつもとあつしBusiness Media 誠]

主力商品もアプライアンスからGoogle Appsの補完製品へ

 震災をきっかけに、HDEでは主力商品そのものも大きく変化した。もともとパッケージ製品を販売し、顧客が用意したサーバにインストールしてもらいメールシステムを構築していくというビジネスを中心に展開していたが、顧客のニーズが180度変わってしまったのだ。

 そのことは、HDEの資料に分かりやすく整理されているので紹介しよう。

社内メールサーバとGoogle Apps、さらにそこにHDEのセキュリティソリューションを加えた場合のリスク評価(震災前)

 上記資料は震災前のリスク評価を振り返ったものだが、冒頭宮本氏からもあったように、HDEでもGoogle Appsはたとえセキュリティソリューションをそこに加えて運用したとしても、可用性や機密性にリスクがあると評価され、仮導入にとどまった経緯がある。

震災後のリスク評価。社内にシステムがあることのリスクが高まり、逆にクラウド側の可用性を見直すことになった

 上記資料(震災後のリスク評価)に示してあるように、震災後その評価は逆転することになる。宮本氏は「当社、顧客企業でもリスクに対する考え方は大きく変化しました。HDEもこれから注力すべき製品をクラウド側にシフトチェンジを行ったのです」と話す。

 筆者が取材する範囲でも、これまで「Google Appsなど外部のクラウドサービスにメールのような機密性の高いデータを預けて運用するのは不安」という声も散見される。実際数件ではあるが、サービス提供側のエンジニアがメールの内容を見たのではないか、とする報道があったり、それらの企業がこれからも安定的にサービスを提供し続けられるのかという疑問は根強くあった。

 それらのリスクは引き続き存在しつつも、それを上回る災害リスクが現実のものになったというわけだ。そして、それによって生まれるであろう損失は経営的にも決して看過できるものではない。節電という外部要因も大きく影響したはずだと宮本氏は指摘する。

 「HDEとしてもクラウドに対するそうした世間の疑問が残る中でどう舵を切るか悩み、ユーザー企業も同じように悩むだろうと感じた。しかしだからこそ、セキュリティ製品を手掛けてきたHDEがクラウドのリスクを払拭する役割として登場すべきだという思いがあった」

 とはいえ、パッケージやアプライアンスを販売するHDEにとってはパラダイムシフトとも言える変化だ。「製品を販売する営業スタッフ、また開発サイドの技術者にも当然戸惑いはありました」と宮本氏は明かす。従来型の商品は、顧客企業と取引のあるSIer(システムインテグレーター)とコンタクトを取り、そこと連携する形で導入を図ることが多かった。だがクラウド型ではそういった商流はほぼ意味を持たなくなるからだ。

汎用的なクラウドサービスにセキュリティを

 Google Appsを使うのであれば、第三者が介在する余地はないのではないか、という疑問を持つ読者もいるかもしれない。宮本氏は「私たちがクラウド向けのサービスを提供する以前から取り組んできたセキュリティソリューションは、ここでも意味を持ちます」と答えてくれた。

 「企業によってメールに関するセキュリティレベルはさまざまです。スパム対策についてGmailは高度なものを備えていますが、例えば、メールを送信した後でも一定時間は取り消せたり、あるいはNGワードを含んでいないかどうかチェックしたり、などの細かなニーズに顧客企業ごとに応えて行く必要があります」

 Gmailを含んだGoogle Appsに移行したいけれども、自社のセキュリティポリシーに合致させることができない。そういった企業側のニーズに応える形でHDEはクラウド向けのセキュリティソリューションを用意しているというわけだ。

HDEのサービス案内ページより。社内宛のメールは即送信、社外宛は一時保留といった使い方もできる。

 HDEのサービスには、社内外のメールのやりとりを監視できるUIも備わっている。3月の震災からまだ半年程度しか経っていないが、「それまでに作り込んでいたパッケージ向けのノウハウを、Google Appsにサービスとしてスムースに転用できました」と宮本氏は振り返る。販売においてもランニングで安定的に売り上げが発生するサービスでありキャッシュフローにはポジティブな影響がある。顧客側も、初期投資→減価償却という処理が必要なくなり、導入に対するハードルがぐっと低くなったという。

 このように顧客側の意識も変化した中、おそらく先ほどもあった「売り方の変化に伴う営業手法の改革」が最もハードルが高かった部分かもしれない。

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