“スマホ時代の文房具”になれるのか――ポメラ「DM100」の存在価値とは仕事耕具

キングジムのデジタルメモ「ポメラ」シリーズは、キーボードに画面とかな漢字変換のためのプロセッサがついた「電子文具」とでもいうべきコンセプトを持ったとてもユニークな存在だ。

» 2011年11月29日 11時00分 公開
[鈴木啓一,Business Media 誠]
奥がDM100。手前が初代機のDM10

 キングジムのデジタルメモ「ポメラ」シリーズは、キーボードに画面とかな漢字変換のためのプロセッサがついた「電子文具」とでもいうべきコンセプトを持ったとてもユニークな存在だ。出先で頻繁にテキストのメモをとるひとに向けた電子のメモ帳であり、本格的なキーボードを搭載しているのが特徴だが、用途を限定してターゲットユーザーを絞った商品だともいえる。

 今回取り上げるポメラの最新機種「DM100」は、これまでのこのシリーズコンセプトを引き継ぎながらも、形状を大きく変えたモデルである。従来では折りたたみ式のキーボードを採用していたが、DM100ではノートPCで一般的なストレートのキーボードが採用された。これにより、携帯時には従来モデルよりも大幅に薄くなり、カバンの隙間、書類や雑誌の合間に滑り込ませることができるようになった。

ハードウェアもソフトウェアも“絞り込み”がポイント

DM100のキーボード。従来の折りたたみ式ではなくオーソドックスなストレートタイプ

 やはりまず試したのはキーボード。それ自体のできはよく、個人的にはとても打鍵しやすいと感じた。打鍵したときの適度な指へのフィードバックがここちいい。かなり速く打ってもキーボードがついてきてくれる感じだ。安定している。

 筆者もポメラシリーズの初期モデルを所有しており、大いに気にいって使ってきた。これまでの機種で採用していた折りたたみ式キーボードのギミックは魅力的なものだが、キーボードを開いてテキストを打ち込んでいるときの物理的な安定感は、今1つの感じもしていた。あえて従来の折りたたみ式を捨てて、オーソドックスなストレートタイプとした今回のDM100は机の上に置いて使う際に安定しているので、このスタイルも悪くない。机上で使うことの多い筆者として大歓迎だ。

 DM100では、Bluetoothキーボード機能も備えた。PCやiPhone、iPadのワイヤレスキーボードとして使えるわけだ。特にiPhoneやiPadのようなハードウェアキーボードを持たない情報端末と連係できるのこの機能は筆者としても、初期のポメラから欲しいと思っていた機能である。

 ハードウェア以外のポメラの特徴は、キーボード操作に必要な機能がしっかりしているところ。例えばかな漢字変換にはATOKを標準装備。DM100ではさらに、国語、英和、和英の辞書機能を搭載した。文章入力の作業中に、テキストの一部で調べたい単語の部分をハイライトさせ、画面右にある辞書のボタンを押すだけで検索が可能だ。


画面の両サイドにあるボタン(サイドキー)。左上からBluetooh、QRコード、カレンダー。右上から国語、英和、和英の各辞書機能のキーを配置。右はQRコードの画面。DM100で作成したテキスト文書をiPhoneに送ることができる

 筆者も「もの書き」の端くれとして文章入力の機会が多いが、ポメラはそうした文章入力のシーンを良く考えて、必要な機能に限定して機能を追加している。絞り込んでいる分、複雑ではないので分かりやすく、また使いたいと思わせてくれるところがポイントだ。

ポメラは電子文具である。PCではない

 ポメラはキーボードとディスプレイで構成しており、一見してPCの形状なのではあるが、PCではないところがとてもユニークだ。今回使ってみて改めて感じることだが、ポメラはやはり「電子文具」と呼ぶ方がふさわしい。

 PCにはアプリケーションソフトを随時導入して使うが、ポメラはあらかじめ備わった機能しか使えない。しかし、キーボードによる文字入力という機能に特化して、電子のメモ帳として徹底的にシンプルで使いやすいものにしている。マニュアルが付属しているものの、これがほとんど必要ないくらい操作が簡単で分かりやすい。PCのように設定に悩むことがないのだ。これらの点がポメラの存在意義であり、価値である。まさに説明書不要で使える鉛筆やノートのような文房具感覚で使える製品である。

 このようなポメラのコンセプトは、これからのユーザーインタフェース(UI)のあるべきスタイルの1つかもしれない。ポメラはシンプルさにこだわり、複雑さを排除し、使いやすさを追求している。

 似たような例はiPhoneだ。先日なくなったスティーブ・ジョブズ氏の思想としても知られるように、製品の仕様を極限までそぎ落として、使いやすさを追い求めた。従来の携帯電話では、多くの機能から目的の機能にたどりつくために、何重にも階層化された複雑なメニューを正しく順番にたどることを強いられる。これに対しiPhoneでは複数の指を使った「マルチタッチ」の直感的な画面操作環境を新たに提供し、直接的で分かりやすいアイコンから目的の機能にたどり着けるようにした。また、ハードウェアのテンキーまでも排除し、シンプルさにこだわった。

 一方、ポメラでは、

  1. キーボードの機能:指の操作を的確に捉え、文字に変換すること
  2. 操作の情報支援:かな漢字変換機能、QRコードによるデータ連係、各種辞書など

 の2つにこだわり、それ以外の機能は極力排除している。

iPhoneがそぎ落としたハードウェアキーボード、ポメラの存在価値に

 iPhoneとポメラは、製品を性格づけるこだわりポイントをしっかりと決め、シンプル化をはかり、複雑さを排除して商品化しているところに共通したフィロソフィーを感じる。もちろんシンプル化は「削る」ということでもあり、削ることは「できないことが増える」ことでもある。

 シンプル化してきた機器単体の機能では、目的によっては足りないところが生じる場合もある。しかし、シンプルな製品同士をユーザー自身で組み合わせることが可能であれば、返って分かりやすく、自由度が高く、使いやすいツールとなるはずだ。鉛筆できれいな直線を引きたいときに定規を使うように、シンプルな道具同士の分かりやすい組み合わせが、これからの情報機器やサービスにも求められていくのではないだろうか。

ポメラDM100とiPhone 4

 iPhoneがそぎ落としたハードウェアキーを、ポメラが逆にその存在価値の中心にすえているところは興味深い。そういう関係だからこそ、iPhoneとポメラは組み合わせ、連係させるのに相性がいい。実際にDM100はiPhoneと接続し、Bluetoothキーボードとして機能するようになった。非常に分かりやすい連係の一例だ。

 さらにもう1つ、例えばポメラにはメール送信機能がないが、QRコードをポメラの画面に表示して、iPhoneで撮影すると、iPhoneに読み込まれてメールや他のサービスと連係できる。この機能も設定に悩むこともなく、使い勝手がいい。こんなレベルの機器連係がより一般化すると、情報機器も「電子文具」として鉛筆や定規のように、本当に自然に使えて分かりやすく便利な道具に進化できるのだろう。

こだわり続けてほしい、文具レベルのシンプルさ

 PCや携帯電話のような情報機器は、機能/性能ともにすばらしい勢いで進化してきたが、その一方で複雑化が進み、ユーザーにとっての本当の使いやすさがこれからの時代より一層重要になってくる。必要なことに特化し、シンプル化することはそのための重要なキーワードだ。

 ポメラのような使いやすい商品が今後もどんどん出てきてほしいと考える一方、ポメラ自身は今後どのように進化して行ったらいいのだろうか。

 私としては、ポメラの現在のコンセプトは今後も大事にして、シンプルさにこだわり続けてほしい。それでも機能追加して進化させるとしたら「iPhoneやPCを介さずに、直接クラウドサービスと接続できるキーボード」というのはいかがだろう。

 使い勝手のいいキーボードであることを基本に、今後登場するであろうあらゆるクラウドサービスのテキスト入力がこれ1つで行えるのを特徴とする進化したキーボードというイメージだ。しかし、考えてみれば、これはキーボードにこだわった一種の「シンクライアント(thin client)端末」かもしれない。しかし、シンクライアント端末とは呼ばず、電子文具であり続けてほしい。ポメラはそういうポジションで、今後の情報端末のエコシステムの中で生き残っていってほしいと思う。

筆者紹介:kei_1(鈴木啓一、すずき・けいいち)

 スマートフォンやPCを使ったモバイルやクラウドの活用を中心に執筆活動をしているフリーランスライター。主な著書:『できるポケット+PDF快適活用術』『できるポケット+ミニノートPC』がある。


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