スパコン「京」が世界1位になれたわけ プロマネが語る成功プロジェクトの極意チームワーク・オブ・ザ・イヤー2011リポート(2/2 ページ)

» 2011年11月30日 20時00分 公開
[上口翔子,Business Media 誠]
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日本の誇りである「高水準のサービス」を世界に

 2010年10月にリニューアルした羽田空港国際線旅客ターミナル。同ターミナルは、地方自治体や国の資本が一切入らずに民間資本のみで手掛けるPFI(Private Finance Initiative)法にのっとって作り上げた公共施設だ。オープンから現在までターミナル全体の設計、運用を担当しているのが、田口氏が所属する東京国際空港ターミナルという民間企業。新しい東京の顔になる、最高のターミナルにするべく細部まで徹底的に追求しているという。

 これまでのターミナルと羽田空港が異なるのは、レストラン、ショップなど施設の全てを統一的に作っていること。その前提として、言語や国籍などに左右されないユニバーサルデザインを意識した。例えば、歩行が困難な人向けに用意する車いすは、通常の空港であれば各空港会社が提供しているが、羽田空港では全て同規格のものをそろえたのだ。

 バリアフリーの取り組みは興味深い。当然だが、羽田空港は障害者も利用するため、例えば目の不自由な人が歩行できるための誘導ブロックが必ず必要だ。そこで駅からチェックインカウンター、セキュリティゲートまで誘導ブロックを敷いていくことを当初想定した。

 しかし実際はターミナルには荷物をゴロゴロとスーツケースで引いていく利用者が大半。特に国際線だと大きな荷物を入れたカートを使う人が多く、誘導ブロックが逆に引っ掛かってしまう課題があった。

田口氏

 そこで出たのがコンシェルジュサービスのチームによる「それではもう思い切って目の不自由な方は人的サービスを優先させよう」という意見。誘導ブロックは最終的に公共交通機関の出口から案内カウンターのところまで、最小限の設置とした。

 「もちろんそのことで障害者の方へのサービスが低下していはいけない。よってユニバーサルデザインのチームが誘導サービスを事前に予約できる仕組みを考えた。インターネットで事前に予約していれば、改札(公共交通機関との接点)まで迎えに出れるというサービスだ」(田口氏)

ITに頼らない、コンシェルジュが人力サポート

 その他のサービス面でも、なるべくIT技術に頼らずに人力でできることを優先した。その象徴といえるのが、3階(出発階)のターミナル中央にある案内カウンターだ。通常のターミナルにはあるフライト予定を表示する大きな表示機をあえて設置しなかった。案内カウンターには24時間体制でコンシェルジュがおり、日本語、英語、中国語、韓国語の4カ国語に対応する。コンシェルジュは約2年かけてエアラインのことからターミナルのことまで熟知した人材を採用、教育した。

 「羽田空港は2014年にさらなる拡張を予定している。今後日本の窓口として、世界に日本の高いサービスレベルをアピールしていきたい」(田口氏)

米の消費量と食料自給率低下問題に取り組むメーカー

GOPAN

 2010年末の発売前から話題となり、2011年のヒット商品になったお米で作れるパン焼き器「GOPAN」。もともとは、三洋電機コンシューマエレクトロニクス(旧鳥取三洋電機)が開発したもので、その後プロジェクトリーダーの竹内氏が所属する三洋電機本社に持ち込んだ製品だった。

 子会社の社員の多くは農家の出身で、社内には釜戸も設置している。日本全国の御米を取り寄せてその分析調査も行い、米の消費量と食料自給率低下という重要課題に取り組んでいた。そこで構想に上がったのがGOPANだ。ただし製造には幾つか課題があった。お米という硬い食材を砕く際に発生する騒音と製品サイズの大きさ。そして価格だ。通常のホームベーカリーが2万円前後なのに対し、GOPANの想定価格は5万円弱であった。

竹内氏

 しかし同社では、そもそもの目的である日本人の食問題に立ち向かうべく、十分なリソースが整っている本社の支援で本格プロジェクトを立ち上げた。メンバーは各部署のスペシャリストと呼ばれる優秀な人材を集めた。

 商品を作るからには世の中にお米版ベーカリーというカテゴリとして定着させたい。そこでまずは、行政や地方自治体、生産農家に支持を得る方法を取ることから行動を移すことにしたという。

 各方面の協力も得て、無事に製品化。予想を上回る人気から予約が殺到し、竹内氏は「発売前で勝負が決まったと感じた(売れると確信した)」ほど自信を持ったという。予想を超える反響に、生産が追い付かないと判断。止むを得ず当初想定していた発売日(10月8日お米の日)を延期した。

 さらに想定外だったのは、2010年11月11日の発売から1カ月で約半間の販売目標5万8000台を越える予約が殺到したこと。予約者への供給を優先すべく、一般販売を中止せざるを得なかった。

 「今後も農業の方々と協力しながら、日本人のソウルフードといえるお米と関係性の高い商品の浸透に力を入れていきたい」(竹内氏)

GOPAN+1の取り組み メーカーなのにお米も用意

 なお同社では、GOPANを売る取り組みの1つとして1パック220グラムのお米も手掛けている。これはGOPANを使用する際の1回分の量に当たるもので、秋田県庁、JA秋田と協力し、10袋を1ケースで販売中だ。

 「全国の約1700万人が朝食を欠食しているという問題があるが、お米の消費拡大には、やはり若い単身世帯にお米を食べてもらう必要がある。すると特に若い男性でも、帰宅が少し遅くなってとしても、コンビニなどで220グラムの無洗米が買える。それをGOPANに入れれば翌日にパンができている」(竹内氏)

 こうした取り組みは普通であれば地方自治体を動かしたりとハードルが高い。今回、消費者だけでなく生産側にも働きかけたことで、GOPANのようなヒット商品が生まれたのだろう。


 チームワーク・オブ・ザ・イヤーは、チームワークの認知向上と促進を目的とした団体「ロジカルチームワーク委員会」が2008年から毎年発表しているもので、過去にはJAXAのはやぶさプロジェクトチームやNHKの大河ドラマ「龍馬伝」制作チームなどが受賞している。運営はサイボウズが務め、委員会メンバーには亜細亜大学の横澤利昌教授やサイボウズシニアフェローの北原康富氏、富士ゼロックスの野村恭彦氏らが名を連ねる。

 ロジカルチームワーク委員会は事前に選出した優秀賞のプロジェクトチーム4団体をWeb上で公開し、その中から一般投票で最優秀賞チームを決定した。

受賞名 プロジェクト名
最優秀賞 京速コンピュータ「京」開発プロジェクトチーム(RIKEN)
優秀賞 日本コカ・コーラ「い・ろ・は・す」プロジェクトチーム
優秀賞 羽田空港国際線旅客ターミナル旅客サービスプロジェクトチーム
優秀賞 パナソニックグループ三洋電機「GOPAN」プロジェクトチーム
左から竹内創成氏(三洋電機)、田口繁敬氏(羽田空港国際線旅客ターミナル)、福江晋二氏(日本コカ・コーラ)、渡辺貞氏(RIKEN)

 同日にはパネルディスカッションの他、特別講演に一橋大学の野中郁次郎名誉教授が、基調講演にサイボウズの青野慶久社長が登壇し、イノベーションの創造やロジカルコミュニケーションの意義についての講演が行った。

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