増税は消費税だけじゃない。大増税時代の税金を理解しよう大増税時代(4/6 ページ)

» 2012年01月30日 10時00分 公開
[奥川浩彦Business Media 誠]

コラム:最高税率の推移

 過去の最高税率を調べてみると、

開始年 最高税率 課税所得額
1974年 75% 8000万円
1984年 70% 8000万円
1987年 60% 5000万円
1989年 50% 2000万円
1999年 37% 1800万円
2007年 40% 1800万円

 この数字を見てふと思い出したのが筆者の地元、中日ドラゴンズの監督を辞めた落合博満監督が、現役時代に日本人選手として初めて1億年プレーヤーになったころの話だ。

 1986年、2年連続、通算3回目の三冠王を獲得しロッテからドラゴンズに移籍した落合選手が1億3000万円で更改した。当時のコメントで「9000万円でも1億でもほとんど税金で持って行かれるから手取りは変わらない。でもプロ野球選手の評価は年俸だから1億円のこだわりはある」といった趣旨の発言をした。当時は「ふ〜ん、そうなんだあ」としか思わなかった。

 1986年の最高税率は70%、住民税18%を合わせた最高税率は88%となる。実際には控除もあるし、節税対策はしていたと思うので年俸がそのまま課税所得になるわけではないが、仮に課税所得1億円の当時の所得税は15段階の累進性で5807万8500円(最高税率は8000万円を超えた部分)、住民税は累進構造が調べられなかったので1500万円と推定すると、約2700万円しか手元に残らないことになる。年俸(課税所得)が1000万円増えても120万円しか手取りは増えない計算だ。あまり最高税率を上げると各界のトップで頑張る人のモチベーションが下がってしまう、と心配するのは凡人の考えだろうか。

 どうでもいいことを付け加えると、ファンが減ったなどの批判もあったが、筆者の周りには落合監督を悪く言う人はいない。8年間で4回のリーグ優勝、日本一が1回、8年連続Aクラスの成績に感謝、感謝だ。逆に次期監督の発表で「新しい風を……」と言った球団会見にはどん引きした。


退職金の増税

 話を戻して次は退職金の増税について触れてみよう。筆者のような個人事業主には退職金は関係ない。若い人もまだ退職金といわれてもピンとこないだろう。退職金に関しては勤続5年以下の会社役員が増税の検討対象になる。

 退職金は通常の給与所得とは別に、退職所得として所得税を別計算する。よって通常の所得より税制上大きな優遇があり税額が0円になることも多い。課税の元となる退職所得の計算式は、

  • (退職金−退職所得控除)×2分の1=退職所得

 退職所得控除は以下の通り。

  • 勤続年数が20年以下:40万円×勤続年数(ただし80万円未満の場合は80万円)
  • 勤続年数が20年超:800万円+70万円×(勤続年数−20年)

 例えば30年勤続して退職すると退職所得控除は、

  • 800万円+70万円×10年=1500万円

 退職所得は、

  • 退職金が1500万円の場合(1500万円−1500万円)×2分の1=0円
  • 退職金が2000万円の場合(2000万円−1500万円)×2分の1=250万円

 所得税は通常の税率が掛けられるので、

  • 250万円×10%−9万7500円=15万2500円

 住民税は(退職金−退職所得控除)×1/2×9%なので

  • (2000万円−1500万円)×2分の1×9%=22万5000円

 このように勤続年数が長ければたっぷり控除があるので2000万円の退職金の課税所得が250万円まで減る仕組みだ。勤続年数は切り上げなので24年と1日なら25年で計算する。もし早期退職で20年働いた会社を辞めるときは退職日は慎重に決めよう。わずか1日でも控除額は70万円の差となる。

 今回の増税は勤続5年以下の会社役員が退職する場合は×2分の1を廃止するというものだ。狙いは天下りなどで短期間役員に着きガッツリ退職金をもらう人から、税金を取るためといわれている。例えば3年だけ役員をして1200万円の退職金をもらった場合の退職所得は、

  • 改正前:(1200万円−120万円)×2分の1=540万円
  • 改正後:(1200万円−120万円)×=1080万円

 となる。所得税は

  • 改正前:540万円×20%−42万7500円=65万2500円
  • 改正後:1080万円×33%−153万6000円=202万8000円

 と大幅に増える。今後天下りした人は5年と1日勤めて退職する人が激増しそうだ。

インフレ時代の確定申告

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