各自のアイデア数は、鷹木さん12、上口さん7、中山11の合計30個でした。単純にいうと、「4つパスして、1つ出す」の打率2割。この率そのものは、SCAMPER法としては妥当なところです。
アイデアの発表方法ですが、SCAMPER表の上から順番に「1つ目の項目でアイデア出た人?」「ハーイ、2個出ました」「僕はパスです」。「次、2つ目の項目で出た人は?」「パスでした」「私もパスです」――といった具合にリストを消しこみ、発案者が口頭で補足説明していきます。
以下、評価が高かった(盛り上がった)アイデアの一例です。
質問項目 | 評価が高かったアイデア例 | コメント |
---|---|---|
■Substitute(代える、代用する) ・他に誰を含めることができるか |
元監督、元選手を記者として起用し、プロ目線の玄人向け記事配信 | プロ目線の、読み応えのあるマニアックな技術解説など |
■Substitute(代える、代用する) ・何を代わりに使うことができるか |
子供スポーツだけを対象にした情報サイト(少年野球、少年サッカーなど) | 想定読者は親 |
■Combine(組み合わせる) ・何を組み合わせることができるか |
どの競技にいくら税金が投入され、収益を上げているのかどうかをウオッチするサイト | 目立たない競技の注目度アップに。マイナースポーツの仕分けにもつながる? |
■Combine(組み合わせる) ・部分同士を、どのように組み合わせることができるか |
試合経過のみ垂れ流す。解説や批評は一切なしで、事実だけをリアルタイムで配信 | 移動中や忙しいときには重宝するかも |
■Adapt(適応させる) ・これは、他のどのような考えを思い付かせるか |
ワイドショーの要素を持ち込んだ、選手のプライバシーや浮ついたネタを追うミーハーなニュースサイト | スポーツから離れてしまった…… |
■Modify(修正する) ・さらにTwist(ひねり、コトの意外な曲折)を加えることができないか |
試合をジャッジした審判が登場し、解説、主張、反論、討論ができる試合後の分析専門サイト | 審判だって、きっと言いたいことはたくさんあるはず |
■Modify(修正する) ・サウンド(音、騒音、音声)を、どのくらい変えることができるか |
記事リンクをクリックすると、競技にちなんだ音が鳴る(野球なら「カキーン」、サッカーなら「ゴーーーーール」など) | 音を聞きたくて、思わずあれもこれもとクリックしそう |
■Modify(修正する) ・何を減らせるか |
選手の価値(年俸)がふさわしいか、もらいすぎかを読者が評価するソーシャル系サイト | ファンの率直な評価を可視化。現役選手や年俸を査定する人たちもコッソリ見に来る |
■Put to other uses(他の使い道) ・そのままで、何か他へ使えないか |
特定の人気選手の記事のみを集めたキュレーションサイト | ファンは大喜び |
■Eliminate(省略する、除去する) ・何を取り除けるか、省略できるか |
解説やインタビューは一切ない、ハイライト動画のみを集めたサイト | ただひたすら、何も考えずによいプレーを見たいときがある |
■Rearrange(再調整する) ・逆にしたらどうなるか |
試合結果を絶対に言わないニュースサイト | せっかく楽しみに録画した試合結果を、帰宅途中にふと見たニュース速報で知ってしまったときのショックといったら…… |
■Rearrange(再調整する) ・何を交換できるか |
会員制情報サイトで、閲覧数に応じてマイレージがたまる | たまったマイルは観戦チケットと交換 |
SCAMPER法は、短時間でいかにたくさんのアイデア(のタネ)を生み出せるかにフォーカスした手法です。今回、3人が20分で30個のアイデアが生み出せたのはまずまず評価できるのではないかと思います。
アイデアを組み合わせることは目的ではないので、それは行いませんでしたが、本来ならこれらのアイデアをきっかけにアイデアを深掘りしていくことになるわけです。
再度SCAMPER法をするとして、1つだけ改善したい個所があるとしたら「20分」という時間設定です。
余裕を見て20分としたものの、実際には長すぎたという指摘がありました。むしろ極端に短く設定(例えば5分)して、駆け足でリストに目を通し、ほんの1、2個でもよいので直感でアイデアを出し、披露し、軽くディスカッションする。そして、再びリストに戻って5分間発想する……を繰り返す方がよかったのでは? との意見も。その方が1人でウンウンうなる時間が減り、代わりに活発にディスカッションできただろうとのことで、他のメンバーもその点は同意でした。
「バカの考え、休むに似たり」ということわざにもあるように、時間をかければよいアイデアが生まれるというのは幻想で、行き詰ったときに頭を抱えてうなっても、何1ついいことはないです。それよりも、手と口を動かし続け、脳の回転を止めないように意識する方がいくらかマシです。
以下、メンバーのコメントです。
日常生活であまり使わない表現(言い回し)があって、その意味を考え込んでしまう瞬間がストレスだった。面白かったのは、質問の解釈がメンバー毎に異なったこと。それはそれでアイデアの多様性を促すことになったので、結果オーライだったと思う。「技法のルールに忠実に従う必要はない」と心の足かせを解いたことで、気が楽になったし、アイデアも生みやすくなった。
鷹木は3回ぐらいSCAMPERの質問に目を通しました。1回目はざあっと見て、2回目はその中で引っ掛かったものについてアイデアを出し、3回目は2回目で出したアイデアなりをもう一度SCAMPERの質問で変化できないかどうか、です。まあ、うまくいかない時もありますが、1個1個の質問で詰まっちゃうとアイデアが出てこないケースが多いんですよね。あくまでさあっと、さあっと見て行くのがコツかな。
チェックシートの各項目を一度ざっと見て、5つくらいしかアイデアが出なそう、と思い込んでしまったのがもったいなかったです。他の人の意見を聞くと、もっといろんな角度から言葉の意味を捉えて発想すればよかったと反省しました。少しでも思い付いたことは、メモ程度でもアウトプットして人と共有することで、新しいアイデアにつながりそうです。
今回学んだことは次の3つでした。
(1)ルールは好きに解釈する
はじめてだったことも理由だと思うのですが、SCAMPER表の各項目を忠実に解釈しようとマジメになりすぎたように思います。質問の解釈からズレていようが、新発想を生むことが目的なので、解釈自体はさして重要ではありません。項目はあくまでキッカケとなる火薬のようなもので、アイデアは各自が好きに爆発させればよいのです。
(2)マジメにならず、チョイ悪になる
一生懸命に取り組むことは大切ですが、マジメになりすぎるとアイデアが堅苦しいモノばかりになってしまいます。
何も思い付かなければ、肩の力を抜いてふざけてみたり、子供になったつもりの「捨てアイデア」もアリです。緊張感が取れて、場がなごむ効果もあります。
(3)ホームランは狙わず、とりあえず塁に出る
複数名での作業となると、否が応でも「他人に見られる、評価される」ことを気にしてしまうもの。それは自然な感情です。そうなるとつい、「ここで一発、でかいのを……!」とバットを大ぶりにしてしまいがち。それよりも、本人すら考えをまとめきれていない不完全なアイデアを数多く出す(塁に出る)。で、他のメンバーの考えやインスピレーション(送りバントとか犠牲フライ)でホームベースに帰る(アイデアを完成させる)といった共同作業で目的を達成させればよいです。
SCAMPER詳細版はいろいろなものに対応できる、汎用性が高い発想ツールです。さまざまなテーマに対応できるようになっているので、逆にいうと1つのテーマで見たときに、その発想には対応しないものがたくさん含まれることになります。テーマによって使えるものが48個中、5〜6個あればよい方です。上口さんの直感はある意味すごく正しい。
さて、今回のように一緒に発案できる仲間がいる場合なら以下のようにすると楽しくかつ効果的です。
1)各人、「お、これは」と感じるものを5、6個見つけます(5分)
2.皆でそれを紹介し合い、1つ1つ発想の切り口にしてワイワイ話し合います(15分)
この進め方だと、今回の方式に比べてアイデアの数は出ませんが、かなり発展したアイデアを得ることができます。いわばブレストの発散方向にガイドを与える“Guided Brainstorming”ができます。
なお、初めは自由に発想し出尽くすまで出し、そこからSCAMPERを使うのもいいでしょう。出尽くしたと思った後でも、まだいくつもアイデアを頭の中から引き出せることを体感できます。
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