開米 ちょっとこの話に登場する関係者を整理してみましょうか。
高村 関係者、といいますと?
開米 まずはカラーコンタクトレンズのユーザーですね。最後の「正しくお使いください」というのはユーザーに向けた言葉でしょう?
高村 あ、そういうことですか、はい、そうですね。
開米 ユーザーがいるということはメーカーもいて「安全性を確認」するのはメーカーと厚生労働省の仕事、かな?
高村 そうでしょうね……すると後は販売店?
開米 はい。ユーザー、販売店、メーカー、厚生労働省、この4者です。厚生労働省がメーカーの商品に対して安全確認を行い、販売店に販売許可を与え、ユーザーに適正利用を呼びかける、というこういう構図ですね。
開米 それで、今回の文書は誰に読んでほしいものですか?
高村 そりゃユーザーです。
開米 ユーザーはこれを読まないと何に困りますか?
高村 カラーコンタクトを買えないことがある……いや、違うな。重要なのは眼障害を起こしかねない、の方ですね。
開米 そうですね、それをタイトルに使ったらいいんじゃないですか?
高村 タイトルに? あっ、つまり――。
高村 とか?
開米 はい、具体的な表現はもっとよく考えるとして「正しく使わないと眼を傷つける」ことを、遠くからでも目立つようにドーンと大きな文字で書くべきでしょう。
高村 なるほど、そうすればカラーコンタクトレンズを使ってる人、使おうかなと思っている人の注意を引けるから……。
開米 自分では使わないけれど友人が使っているという人の注意も引けると思います。そういった周囲の人を通じてでも、眼障害についての情報が回って気を付けるようになってくれればいいですね。
高村 ……あ、そうか。単に「カラーコンタクトレンズに関する注意」だと、自分で使う人しか気にしないけれど、「眼障害」を入れれば、使っている友人が心配になって読んでくれる可能性があるわけですね。
開米 そういうことです!
というわけで高村さんのご相談もこれでほぼ解決です。
今回の教訓は、「誰に読ませたい文書か?」を考えることでした。内容とシチュエーションを考えると、ユーザー(在学中の女子学生)に読ませたい文書でしたが、原文では肝心の「ユーザーに読ませたい情報」が最後の4カ条目でやっと出てくる構成になっていました。
これは原文が厚生労働省の一般的な告知であって、「典型的なユーザー向けに大学構内に張り出す文書」という状況を想定した構成ではないからです。特定の状況で使う文書なら、その特定の状況で最も効果を発揮するように考える必要があります。
そのためには「誰に読ませたい文書か」を考えてみましょう。今回の文書は関係者が4者ありましたが、「そのうちの誰が主な読者なのか?」を考えると、そのために重要なキーワード(眼障害)が見えてきて、注意を引くための役立つフレーズを考えられることが多いからです。
なお、今回紹介したキーワードに着目する方法以外にも、注意を引くタイトル付けにはキーワードの並び順や、【】などの記号を使うなどの工夫も考えられますよね。
人間はどうしても「自分に関係のある情報」に注意を引かれるものです。面と向かって話をするならともかく、文書を掲示しておいて通りすがりに見てもらうような場面では、「あなたに関係のある話ですよ」ということを最初に出しておかなければ目を止めてさえもらえません。
にもかかわらず、その「誰に読ませたい文書か」がいまいち分からないものはよくあります。よくあるケースということは、教訓にできるということです。分かりにくいかな、と感じる文書があったら、「誰に読ませたいか?」をあらためて自問してみてください。
当連載では、「分かりにくい説明書を改善したい」という相談を歓迎しております。「改善案のヒントがほしい」という例文があれば遠慮無く開米へお送りください(ask@ideacraft.jp)。今回のような連載での紹介は、許諾をいただいた場合のみ、必要に応じて内容を適宜編集したうえで行います。
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IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』、
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