雑誌を買わなくなった理由から、欲しい雑誌を考えてみたアイデア発想実践記(3/3 ページ)

» 2012年05月22日 13時15分 公開
[シックス・アパート 中山順司,Business Media 誠]
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 最後に、本企画を監修している石井さんのコメントです。今回3人が出したアイデアの中で石井さんが面白いと評価したものは何だったでしょう? 欠点列挙法のコツなども教えてもらいました。

欠点列挙法で出しやすい発想テーマは?

 欠点列挙法は、改善点の多い未成熟なものに対してはとても有効です。例えば、次のような場合、少し発想をしてみただけでも小さな開発テーマがいくつも出てくるでしょう。

 「起業していくつかリリースしたサービスがあるが、もっとよくできそう。個々にはいろんな観点で改善点に気が付いているけれど、ちゃんと集めてポイントを見つけて打ち手を打ちたい」

 一方、十分に熟成してしまった状況では欠点列挙法は効果は薄いです。

 (補足)ただし、効果がないわけではないのです。現代的な創造系手法について言及すれば「ビジネスエスノグラフィー」などがあります。ビジネスエスノグラフィーとは、ユーザー行動や心理に基づいて仮説を立てていく調査手法です。「問題になっていることを探すのとは違うこと」という視点で新しいものを生み出すスタイルをとります。

 そうして得たイノベーティブな解を見ると「問題はあったんだ」とそっち側に立って初めて気が付けたりします。なので熟成産業になると「欠点(課題)がないので欠点列挙法が上手くいかない」わけでなく、列挙する程度の作業では出てこない水準の深い所にアプローチできて初めて、欠点列挙法の効果が出るというわけです。

欠点列挙法をうまく使う4つのステップ

 さて、そうはいっても視点範囲を大きくとったり、小さくとったりすれば、欠点列挙法は、どういう時代や分野にも発想手法として成り立ちます。もう少しこの手法を引き出してみましょう。

ステップ 解説
1. 新しい発想を引き出したい対象を決める  抽象的すぎるものは具体的にして狭めます。限定しすぎて想像の余地がないものは少し一般化し、いい具合のサイズにします。
2. 欠点を列挙する  例えば自社がカフェだとして、道の上流にドライブスルーのできるカフェができてしまったとします。その結果、客足が減ってきたときには、そのドライブスルーのカフェの欠点を列挙します。

 いろいろありますね? 「飲み物がこぼれる」「前の車の排気ガスがくさい」「飲んだ後のゴミが意外と邪魔」など。
3. ハイライト法をする  簡単に言えば「これは、解決できるととても有益だ」「ユーザーはとても喜びそう」というものに☆を付け、最終的にトップ3を選び出します。参加人数が1人の場合は、2軸を書いて課題を付せんに書いておき、欠点Mapを作ります。

 横軸は「有益さ」という軸。縦軸は「(問題解消の)実現性」。可能なら「大、大」となるところを見つけたいですが、そういうものは少ないので「有益さ=大、実現性=小」にフォーカスします。

 「小、大」もありますが、創造力のいる問題ではなく、早くやれ、というだけの話なので、議論のテーブルから外して、日々の改善ルーティーンに譲ります。今回で言えば例えば、「カフェの雰囲気を味わえない。」が、選ばれたとしましょう。
4. 対策案ブレストをする  トップの課題である「どうしたらこの課題を解消できるだろうか」というテーマで、皆が1つの課題に対して、注力します。どんなに堅い壁でも、数人の知力を狭い一点に集中させれば20分もブレストすると、大抵はいくつか有望に思える対策案が生まれます。

 例えば、

 案1:今のカフェのにぎわいを、コミュニティーラジオの空き時間に流してもらう

 案2:専用アプリ。カフェの出るまで店のオープンWi-Fiからダウンロードしてもらい、1時間分のカフェの中の活況をいい感じに流し続ける(しかもダウンロードしたタイミングで変わる。ダウンロードから一時間前までの時間を落とすような仕様になっている)

 案3:ヒッチハイカーをそこで拾えて、コーヒーを飲み終わるところでおろす(コーヒー代はヒッチハイカーが出す」

 など、今までにないものも出るでしょう。

 なお、例で挙げた最後のアイデアは、法規制や安全性などの考慮が要りますが、そのエッセンスは使える部分がありそうです。そういうアイデアをたくさん出していきます。そのエッセンスだけをうまく使い、さらにいいアイデアを出す人が出てくるでしょう。読者の皆さんなら、ヒッチハイカーを拾えるドライブスルーカフェ、というコンセプトの良い所を引き出してどのようなアイデアを出しますか?

 皆さんが、例えば創業期のITベンチャー企業であれば、先行する優秀なサービス、それに学ぶだけでなく、そのサービスを題材に欠点列挙法をやってみると、実りあるブレストができるでしょう。なお、対策案ブレストに入る時に失敗しがちなのは、「オーナーシップのない問題を扱おう」とするケースです。

 「それは自分たちの問題ではない」という問題を発想の題材にしても、人間の発想力はあまり強く働いてくれません。自社がカフェ事業をしていないのに、多角経営をしているライバルのカフェ部門についてこれをやってもお遊戯みたいになるので、自社がその課題を変えられる範囲のものを選んでください。

石井さん高評価のアイデアは「消える雑誌」

 ということで皆さんのアイデアを見てみると、今回も面白いアイデアが出ましたね。「消える雑誌」というのは「これは1つの発明だなあ」と思って読みました。例えば「雑誌アプリ」。紙の雑誌と同じく、一時的な“消えもの”でいいという示唆がありました。

 雑誌を読み返すことがないという観点から同じページは二度と開けない雑誌アプリ(ただし、値段は半額ぐらい)を出した場合、何度も読める「雑誌アプリ」と「一度しか読めない雑誌アプリ」があったら恐らく後者がかなり売れそう。雑誌というものはそういうものかもしれませんね。

 デジタルは何でもかんでも保存しておけるので、それがまた有料アプリは削除しにくいなどのストレスを生みます。こうしたストレスを乗り越えさせることで、デジタル側の可能性が開くのかもしれませんね。

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