人前で講演をする場合、ロジックが正しいことは大前提ですが、それだけでは共感を得てもらえません。相手の感情に訴えるには、よく知られた話題を引き合いに出すというのも1つの方法です。
アイデアクラフト・開米瑞浩の「説明書を書く悩み解決相談室」第28回です!
先日、ちょっとユニークな相談を受けたので紹介しましょう。
相談者は、中小企業のBtoB新規開拓営業をしている活性化専門コンサルタントの庄司充さんです。
内容は、「チームを率いるリーダーの役割」に関する講演を頼まれたので、その講演のシナリオについて意見が欲しい、ということでした。
「なるほど、リーダーの役割ですか! 50社以上の営業チームの立ち上げに力を奮ってきた庄司さんにはピッタリのテーマですね」と思った私ですが、庄司さんの次の一言がまったく予想外でした。
庄司 実はですね、そのリーダー論を語るときにあるネタを使って話をしたいと思ってるんですよ。
開米 はい? どんなネタですか?
庄司 西部警察。
開米 ……え? 西部警察? ってあの80年代のTVドラマのあれですか?
庄司 そう、それそれ。あれ使ってみたいんですよ。
いやあ、驚きました。リーダー論を語るのはよいとして、そのための小道具に西部警察を使おうという発想。とても私からは出てきません。というのも実は私、西部警察をほとんど見たことがありませんでしたので。
1979〜1984年の間にテレビ朝日系列で放送されたTVドラマシリーズ。全3パートからなり、2004年にはスペシャルドラマも放送された。ストーリーは、渡哲也が演じる警視庁西部警察署捜査課の大門部長刑事を中心とした刑事軍団と、それを見守る石原裕次郎演じる木暮捜査課長が凶悪犯罪に次々と立ち向かうというもの。石原プロモーション制作。アクションシーンなど派手な演出もあり話題となる。
開米 でもどうしてまた、西部警察なんですか?
庄司 いや実は個人的にあのシリーズ、好きなんですよ。なんたってカッコいいじゃないですか。
「好きなんですよ」というのは非論理的な理由ですが、実はこういう側面は意外に重要です。人は思い入れのあるものは熱意を持って本音で語れるもので、どこかの誰かが書いた人生訓のような素材を借りてきて使うよりもよっぽど説得力が出ます。
講演というのは特に目の前の生身の人間の話を聞く機会なので、話者にとって「好きな話題かどうか」は非常に大事なんですね。
開米 それはいい理由ですね。いかにも庄司さんらしいし。
庄司 でしょ? もう小道具に使おうと思って、西部警察のポスターもオークションで買っちゃったんですよ(笑)。
開米 そりゃいい!
これも使い勝手のいい小ネタになります。目に見える小道具というのは、講演をするときはいいアクセントになるし、雰囲気をなごませるために「実はこの講演やるためにこれ買っちゃったんですよ」といった裏話の材料にもできます。
ただし、それらはあくまでも補助的な理由です。西部警察を講演のネタに使えるかどうかの判断で最も重要なのは、そこから読み取れる教訓が「チームを率いるリーダーの役割」という本題のテーマに一致するかどうかです。それ以外の理由は、これがクリアできて始めて意味を持ちます。
ちなみに最後の「コントロールのしやすさ」というのは、聴衆が狙い通りの印象を持ってくれることを期待できるかどうか、ということです。例えば好きなタレント/嫌いなタレントランキングのような調査をすると、「好き/嫌い」の両方の上位にランクインする人物がよくいます。こういう場合は「誰もが好感を持ってくれる人物」の例として挙げることはできません。
西部警察の場合はこの点でも問題はなく、80年代に一世風靡したドラマなので、今回の講演の対象者である現在40〜50代の年齢層なら知っている可能性が高い、ということもプラス材料でした。
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