名刺を減らせば人脈が増える!? コンサルタント荒木亨二の作り方名刺は99枚しか残さない(2/3 ページ)

» 2012年06月04日 11時00分 公開
[文:青山祐輔, 聞き手:鷹木創,Business Media 誠]

ヤバいオジサンとの禅問答

 自信が付いてきたころにもう1つの出会いもあった。奥さんの友達を経由して偶然知り合った50代の「オジサン」(荒木さん談)である。

 このオジサンがただ者ではない。名だたる大企業の社長や副社長に電話一本で約束を取り付けたり、飲んだこともないような銀座のクラブに荒木さんを招待して社長連中に紹介したり……。後から知ったのだが、オジサンは著名な経営コンサルタント、しかもフリーランスだった。「当時のフリーランスって『不安定そう』『若干かわいそう』みたいなところがあるけど、この50代のフリーランスのオジサンは強烈でしたよ。組織に属するビジネスマンより、よほどパワーやオーラがあった。きっと、独りで生き抜いてきた自信がみなぎっていたからでしょうね」

 何より響いたのが「ボクは営業したことないんだよ」というセリフ。当時30歳前の荒木さんは50代のオジサンと自分の違いに「がく然とした」のであった。

 オジサンは仕事をつなげてくれる一方、仕事のノウハウを教えてはくれなかった。2週間ごとに飲んでは「荒木さん、この企画書をどう思う?」とか「今、こんなプロモーションを考えているんだよ」と言うばかり。ただ荒木さんはそうした“禅問答”を「オレに対する宿題だと思って、酔っ払いながらも帰りの電車の中で必死にメモった」という。「オジサンはもしかしたらその気はなかったかもしれないけど、オレは彼のスキルを全部盗もうと思ったから」。

 酔いがさめた翌日から、頭をフル回転させて企画を練っていく。“宿題”の解答を作るわけだ。オジサンと荒木さんは2週間ごとに飲む約束をしていた。次に会う時に「この間、オジサンがつぶやいた件ですけど……」と説明するのである。

 オジサンの“採点”は結構厳しい。「いいねえ」と言われたことがないわけではないが「ほぼいいんだけど、ちょっと違うんだよね」「アイデアはいいんだけど、そのまんまじゃ実現性がないな」と何がしかの注文が付く。つまり、まだオジサンを満足させるだけの解答に至っていなかったのだ。「じゃあ、どうしようか」と問われ、2週間後にまた会って宿題の続き。ずっとこの繰り返しだった。褒めてくれることもなかったという。

 ある時、経営者ばかりが集まる六本木のバーに連れて行かれた。会員制ではないが、社長ばかりのバーだ。「若造はオレ1人だけだったよ。そりゃあ、緊張したね」。ソファーには葉巻をくわえたお歴々が8人ほど座っている。その前でオジサンが唐突に「それじゃあ、荒木君これからプレゼンして」というのだ。当時28歳、まるで小僧の荒木さんを放り出して、オジサンはその辺でニヤニヤ飲んでいる。まるで千尋の谷に子供を突き落とす親ライオンのようだ。

 「もう何をしゃべったか覚えてないよ。がむしゃらに面白いことを言おうと思っていただけ」。そんなプレゼンが終わって、不安げに社長たちを見る荒木さんだが、社長連中はプレゼン内容については何も言わない。だけど「いやー、荒木さん面白いね。タクシー代払うから今日ずっと一緒に飲んでよ」と言ってくれた。

 「初対面の社長達、六本木の変なバー、見たことのない世界で、28歳の若造がいきなりプレゼンしたんだ。こんな体験って、フリーランスだからこその貴重な経験だよね。本音でしゃべれば分かってくれるって実感したし、かなり度胸がついたんだ」

世間がすごいと考える99人ではなく、オレがすごいと思う99人

 名刺を99枚に絞るという荒木流の名刺管理術も、オジサンから学んだのか。「これは完全にオレ流。ひとことで言ったら、名刺が100枚あってもビジネスができない人間は、2000枚あっても一生できない。だったら100枚でいいんじゃない」。人脈は量より質だ。「人脈を追うのではなく、自分が追われるようになって初めてビジネスが回せるようになるし、ビジネスを心から楽しいと思えるようになるんじゃないかな」。名刺は増やすのでなく減らした方がいい。いわば人脈の“断捨離”という発想だ。

 そんな荒木さんも30代前半までは、名刺を増やそうと頑張っていた。確かに人に会えば名刺は増えていく。だが“使えない名刺”が多い。「“使えない”というのは、相手が仕事ができないという意味ではない。オレの能力が足りないということなんだ。オレの力が未熟だから、偉い人の名刺をもらっても使いこなせない。フリーランスになって3年くらいたって、ようやく気付いたんだよね」

 自分の能力に合わない人が“使えない”なら、能力に合う人なら“使える”わけだ。使える名刺、能力に合った名刺をそろえることを目的に、ビジネスで使える名刺だけに絞り込むことにした。荒木さんは自分が持っていた1000枚近い名刺を吟味し、取捨選択を始めた。これが99枚の名刺がそろうようになるきっかけだ。

 「だからオレの手帳にある99枚の名刺は、世間がすごいと考える99人ではなく、あくまでもオレがすごいと思う99人。この中には会社では評価がイマイチの人もいれば、ペーペーの若者もいる。逆に99人からはずした中には企業の経営者もいるし、有名企業の幹部もゴロゴロいる。名刺の肩書なんて関係なく、相手の“ビジネス戦闘力”のみで判断する。個人として強いか、魅力的か、基準はシンプルだよ。オレの場合、名刺の7〜8割が経営者だから、本当に見る目が養われてきた」

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