レディー・ガガのチケットと病院の予約券、許せるダフ屋は?――マイケル・サンデル教授の「民主主義の逆襲」5000人が白熱した特別講義(3/6 ページ)

» 2012年06月05日 18時05分 公開
[上口翔子,Business Media 誠]

自分自身のアイデンティティーを売ることはできる?

サンデル 過半数の意見が必ずしも正しいとはいえませんので、アオイは正しいかもしれませんね。では市の名前、町の名前、なぜこれが大事なのでしょうか?

アオイ(反対) 一部の人にとっては、自分のアイデンティティーを表すからだと思います。そういう人にとって、市の名前を変えることはたやすいことじゃないと思うんです。お金のために市の名前を変えるのはよくありません」

サンデル では市の名前が市民としてのアイデンティティーを表すものならば、お金のために名前を変えるのは、いわば市民としての価値の中心のあるものを変えてしまうと、だから反対だということですね。これは非常に強力な議論だと思うのですが、ケイタはいかがでしょう?

ケイタ(賛成) そう思います。ただ、もしアイデンティティーよりもお金の方がいいと市民が判断すれば、市の名前を変えてもいいんじゃないでしょうか。アイデンティティーとお金のどちらが重要かは、市民によると思います。

サンデル それでは、ケイタに質問です。市民としてのアイデンティティーがいま問題となっていますが、もしそれが個人としてのアイデンティティーだとしたらどうでしょう? あなたがお金を必要としている場合、そしてある企業が申し出をしたとします。『あなたが必要としているお金をあげましょう』と。例えば大学の授業料です。あなたは大学生で、ワシントンD.C.の学校に通っているとします。そして授業料が必要だった。するとある企業が「あなた自身の命名権をくれるのなら授業料を出します」と申し出をしてきました。例えばあなたの名前がマスターカードとか、マクドナルドとかになるんです。ケイタ・マクドナルドとかね。あなたは授業料と引き換えに名前を変えられますか?

ケイタ(賛成) はい、やると思います。

会場 (笑)

サンデル (拍手をしながら)いくらくらいですか?

ケイタ(賛成) 10億円です。

サンデル 随分と多額のお金ですね。それ以下では応じないということですか?

ケイタ(賛成) たぶん。

サンデル もしかしたら応じるかもしれない、企業は交渉の余地があるということですね。つまりあなたは自分自身の名前、自分自身のアイデンティティーも価格が付けられるということです。アオイは今のケイタの意見についてどう思いますか?

アオイ(反対) もしかしたら、ケイタにとってはそうなのかもしれません。自分のアイデンティティーにも価格を付けられる。でも、私の場合にはそうではありません。

サンデル あなたは名前を売らないということですね。

アオイ(反対) はい、売りません。

サンデル アオイ、ケイタ、ありがとう。

会場 拍手

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