スポーツの世界ではパワーとテクニックの掛け算で力が決まります。実はビジネスにおいてもこの2つの要素が必要で、小手先のテクニック一辺倒ではスキルは身に付きません。
アイデアクラフト・開米瑞浩の「説明書を書く悩み解決相談室」第30回です!
先日、テレビであるスポーツを見ていたところ、対戦する2人の選手について解説者が「A選手のパワーが勝つか、B選手のテクニックがそれを封じるかの勝負ですね!」といったコメントをする場面がありました。
スポーツはそんな風に、人の力を「パワー」と「テクニック」の2面で考えるケースがよくあります。そして、パワーとテクニックでは、人がそれぞれを身に付けていくときの学習曲線が違うんです。ちょっと図解してみましょう。
パワー系の力は、正しいトレーニングをすればおおむね練習量に従って伸びていきます。もちろん、完全に直線右肩上がりなわけではありませんが、テクニックに比べれば「やればやった分の力がつく」傾向があります。
一方、テクニック系の力は短期間で飛躍的に伸びる時期がある一方で、練習を重ねてもなかなか上達しない「停滞期」もあるのが普通です。
極端な例ですが、私の知人で40代になるまで何度練習しても自転車に乗れなかった運動神経ゼロの女性がいるのですが、ある方法を試したら30分で乗れるようになったことがありました。聞くところによると、次のWebサイトで紹介していた方法を実践したようです。
要は自転車からペダルを外して足で蹴って進むことで、バランスを取る感覚をまず身に付ける、というそれだけの方法です。これで長年の「自転車に乗れない悔しさ」が解消する人が続出するのだから驚きです。このような例は「適切な練習法を選ぶと、驚異的なスピードで学習が進むことがある」ことを示しています。
これがパワーだったら、そんなことはありえません。普通は1カ月かけてやっと付く筋肉を、たった1日で付ける法なんてそんなに都合のいいトレーニング法はないわけです。しかし、テクニックについてはそれがありえます。腕のいい先生に教えてもらうと、あっという間に上達することがあります。
と、ここまではスポーツの話でしたが、ビジネススキルについてはどうでしょうか?
実は、ビジネススキルについては、小手先のテクニックに走る勉強をしてしまう人が多いようです。スポーツでいう筋肉のように、はっきりとパワーに当たるものがなさそうに見えるからかもしれません。
スポーツであれば、テクニックだけでもパワーだけでも勝てないことが分かりやすいです。例えば会社の研修などですと、よく「実際に職場で使ってすぐ役に立つ方法を教えてください」といった要望が出ることがあります。
「すぐに役立つ! 簡単○○テクニック」というタイトルが付いたビジネス書、よく見かけますよね。ああいうノリです。
「すぐに役立つ方法を学びたい」という発想を完全に否定するわけではありませんが、その種の手軽なノリで使える方法は、適用可能な場面が狭いものです。大体その種の方法は「Aの場面で使える方法a」のように、使える場面が限定されるため、場面B、C、D……と場面が増殖しがちで、「今はどの場面なのか」を見極めないと現実には役に立たず、これが結局のところ難しくなることが多いんですね。
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