放射性廃棄物の受け入れはお金で解決できる?――マイケル・サンデル教授の「民主主義の逆襲」5000人が白熱した特別講義(1/6 ページ)

世の中のあらゆる物が売り買いできてしまう社会についてどう思う? 米ハーバード大学教授のマイケル・サンデル氏の特別講義では、こうした市場社会に関する議論が交わされた。

» 2012年06月06日 19時45分 公開
[上口翔子,Business Media 誠]

 ベストセラー『これからの「正義」の話をしよう』の筆者で、米ハーバード大学教授のマイケル・サンデル氏。5月28日の特別講義「ここから、はじまる。民主主義の逆襲」での様子を伝える。前回の「レディー・ガガのチケットと病院の予約券、許せるダフ屋は?」に続いて今回は、放射性廃棄物の受け入れ問題などについて講義した。

サンデル氏の講義は、ある問いに対して受講者の意思を聞きながら対話形式で議論していく。受講者はサンデル氏の問いかけに対し賛成であれば白、反対であれば赤、と手持ちのパンフレットを掲げた

有名大学への入学権はお金で売り買いしていい?

サンデル さて、続いては皆さんが大学の経営者だった場合の話をしましょう。あなたの大学は優れた学生を輩出し、多くの受験生が入学したいと思う有名大学です。しかし資金難に苦しんでいました。そこで次の質問です。

優れた大学経営のためにお金を使いたいので、入学の権利の10%を最もお金を払った人から順に与えるというアイデアを思い付きました。裕福な親を持った学生達が寄付金をふんだんに払ってくれるなら、入学させるというものです。このような市場のメカニズムの使い方、そしてエリート大学への入学の権利を売り買いすることについて、あなたは賛成ですか? 反対ですか?

 サンデル氏の講義は、単純に授業を聴くのではなく、ある問いに対して受講者に答えを考えさせながら進んでいく。入学の権利が売り買いできることに賛成の人はパンフレットの白色の面を、反対の人は赤色の面を掲げて意志を示した。サンデル氏は会場を見渡すと、こう話した。

サンデル やはり意見が分かれていますね。反対意見の方が多いようですが、賛成意見の人もかなりいます。ではまず反対意見の人から、反対とする理由を聞いてみましょう。

男性(反対) 僕が反対する理由は、裕福な家庭で寄付金が出せるからといって10%の人を集めると、残り90%の一般入試で入った人に不公平だと思ったからです。

サンデル 90%の学生、豊かな両親がいなくて入学権利をお金では買えない人にとって不公平だということですね。でも競争で、入試で受かれば入学できますよね? そうじゃありませんか?

男性(反対) そうなのですが、入学後の環境といった形でも「あの人は寄付金を出したから入れたんじゃないか」とうわさが立つ可能性もありますし、学内の問題も出てくると思います。

サンデル 大学が10%の入学枠のことを公表しなかったらどうでしょうか? 「あなたは寄付金を払って入学した学生だから違った色の服を着てこい」のような要求をしなかったとしたら?

男性(反対) 確かにその通りですが……。難しい質問です。

サンデル 分かりました。ではお金で入学を許可することを構わない、それは正しいと思う人の意見も聞いてみましょう。

マサコ(賛成) もしその10%の人たちによって寄付金が入れば、大学はもっと良い教授を採用できて、90%の人たちにもメリットがあります。また、その10%の人も十分に優秀でなければ卒業できないとしたら、両方にとってWin-Winの状況になると思うんです。教授にとっても、優秀な学生にとっても、そして10%の学生が卒業できればその人たちにとってもメリットです。

サンデル お名前は? マサコですね。今マサコが言ったのは、大学が10%の分のお金を手に入れたらどういうことができるのか、入試で入った人たちにもメリットにもなるという話でした。寄付金によって余分にお金が使えることで、大学は有名教授を採用できて、みんながそのメリットを享受できるということです。ではどなたか、このマサコの意見に反論してくれる人はいますか? 彼女を説得できるか、直接マサコに話しかけてみてくださいね。

マサコ、君は間違っているよ

ケンジ(反対) マサコ、君は間違っているよ(笑)。お金が一番大事だと考える人が多すぎる。10%の学生に、両親がお金を払えば入学を認めるというようなことは、私は認めてはいけない。それは、学生にお金が大事だというメッセージを伝えてしまうからです。大学がそういうことをしてはいけません。

サンデル でもお金は大事でしょ? 大事じゃないのかな?

ケンジ(反対) ある程度までは、大事だと思います。

サンデル なるほど。でもマサコが言ったように、大学はそのお金をいい目的のために、全員のためになるように使えるんですよ? あなたの名前は? ケンジですね。ではケンジ、あなたは私のこの意見にどう答えますか?

ケンジ(反対) 一部はその通りかもしれません。たださっきも言ったように、考え方として、お金で買ってはならないものまで買えることを学生に伝えてしまいます。例えば教授です。これは学生にとって非常にマイナスの影響を与えると思います。

サンデル ではマサコは今のケンジの意見にどう答えますか?

マサコ まず、お金は大事です(笑)。私はお金そのものではなく、お金が夢をもたらすことが大事だと思います。お金で積極的にならないと、その機会を失ってしまいます。今回の例で言えば、いい教授の講義が聴けるというように夢がなくなってしまうじゃないですか。

ケンジ いや、その意見には僕は反対です。というのも、今の世の中は環境よりも経済が優先されている。だからこそこうした体たらくな世界になってしまっていると思うんです。ですから人類がお金にどれほどの重要性を与えるのか、コペルニクス的な発想の展開をすべきです。環境の方が経済よりも大事だと変えるべきです。

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