組織の壁を突破するための“事実”――USBメモリの発案者が話す「アイデアを実現するために必要なこと」(後編)コクヨ「WORKSIGHT LAB.」(1/2 ページ)

「アイデアが生まれたら、とにかく既成事実を作ってしまおう」と話すUSBメモリなどの発案者としても有名な濱口秀司氏(Ziba戦略ディレクター)。一体どうすればアイデアを実現できるようになるのか。

» 2012年08月31日 18時43分 公開
[三河賢文,Business Media 誠]
濱口氏

 コクヨとコクヨファニチャーが設立した「WORKSIGHT LAB.(ワークサイトラボ)」。近未来の「働き方と学び方」の研究開発を強化することを目的のラボだが、この設立記念イベントが8月24日に東京・渋谷のヒカリエで開催された。イベントではUSBメモリなどの発案者である濱口秀司氏(Ziba戦略ディレクター)が登壇し、「バイアス(先入観)をいかに壊して、イノベーションを起こしていくか」について話した。今回はその後編。濱口氏の講演のほか、コクヨファニチャーの黒田英邦社長とのパネルディスカッションの様子も紹介しよう。

IDEOでのブレスト、パナソニックでのプロセス分析

 米国のデザインファームであるIDEOのブレインストーミングに濱口氏が参加した時のこと。IDEOは非常にスピーディーなブレストをすることで有名で「アイデアを出した後、全員に付せんを渡すんです。そして『これは良い』と思ったアイデアに貼ります。この光景を私はおかしいと感じました。だってブレストのゴールは「すごいアイデアを見つける」ことでしょ? 本当に良いアイデアが見つかったのなら、その時点で盛り上がらなければおかしいですよ」

 そう言って、濱口氏は一緒にブレストしていたIDEOのスタッフ全員にもう一度付せんを配ったという。今度は「なぜ面白いと思ったか」を書いてもらったのだ。その目的は「面白そう」と思っているポイントそのものをカタマリにして持っておきたいからである。そして何度も同じプロセスを繰り返すと、そこから壊すべきバイアス(先入観)が見えるようになってくるのだ。

 濱口氏によると、ブレストは3つのレベルがあるという。

  • レベル1:どんどんアイデア出し、どのアイデアが良かったか投票するか、アイデア同士を組み合わせる
  • レベル2:アイデアの切り口を出し合う
  • レベル3:総合的なビジネスモデルを出し合う

 IDEOのブレストはレベル1に当たる。レベル1はどんどんアイデアを出すというモチベーションが「最終のアイデアに行きつく」ことにつながるという。「普通は『アイデア』そのものに着目しますが、アイデアを見てはいけないんです。なぜ生まれたのか、あるいはなぜ面白いと感じるのかを見つけて、抽象概念を崩すことが大切です」

 濱口氏はパナソニックの研究所に在籍していた際、会社のプロセスを分析。会議やディスカッションを見ていると、おかしな点に気づいたという。大切なことに時間をかけず、すでに決まっていることに時間を費やしているというのだ。その理由について、濱口氏は「ツール(方法論)がないから」だという発見に至った。

 「『5分で考えて』と言えば、きっとその時間はすごく有効に使えるでしょう。しかし1週間という時間を与えると、失速してしまいます。これが、ツール(方法論)がない証拠なんです。極端に365日もの時間を与えたら、本当にずっと頭を使い続けられるでしょうか」。そこで見えてきたのが、あらゆる組織活動に共通する4つの段階だった。

  1. Concept:コンセプトを作る
  2. Strategy:戦略を作る(魅力的な戦略を複数作る)
  3. Decision:悩んで選ぶ
  4. Execution:実行する

 このことに気づいた濱口氏は「Concept→Strategy→Decision→Execution」という方法論を考えたのである。こうした方法論は、ある種のフレームワークでもある。「フレームワークにできるだけ触れると、今考えているよりさらに高い意識でバイアス(先入観)を壊せます」。ブレストでアイデアを出し合い、フレームワークで意識を高める――この二つが相互に関連することで企画そのものの質を高められるのだ。

 「(イノベーションを起こすためには)要はクリエイティブ(創造的)に考えればよいのです」と濱口氏。氏の言う通り、クリエイティビティを発揮することがイノベーションにつながるということは何となく分かっても実現するのは難しそうだが……。

 「脳には、構造的であり論理的である瞬間と、直観的な瞬間とがあるとします。どちらがクリエイティビティが高いでしょうか? 恐らく多くの人が、構造的なときはクリエイティビティが低く、直感的なときにクリエイティビティが高いと考えるでしょう。しかし実は『何となくロジカルに考えているけど、実は直観が入っている(中間点)』ときが一番クリエイティブなんです」。濱口氏流に表現すると「波の頂点にボールを置いた状態」、つまりバランスを取ることが難しい状態こそがクリエイティビティにあふれている状態なのである。

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