須永 私は以前コンシューマ事業統括本部でオープン化を担当しており、ZOZOタウンとの連携など外部企業とのアライアンスで新しい価値を生み出すことに取り組んできました。商材やスケールは異なりますが、その経験を活かせると考えています。復興デパートメントでも、地元の食材などを単体で販売するだけでなく、いま光が当たっていない商材を見つけ出し、お弁当やギフトセットのように他の商品と組み合わせるなど価値を高めて、横展開を拡げる取り組みを行っているところです。
復興需要、つまり「買い物を通じて被災地を応援しよう」という動きは時間の経過とともに小さくなってしまうのは避けられません。「復興」という文字がたとえ取れても、きちんと価値を――それこそ博多の明太子や夕張メロンと並んでも――ちゃんと商品として選択されるものを提供しなければいけないと考えています。
そのリサーチのための復興ベースでもありますし、震災前からヤフーが培ってきたビジネスパートナーとの信頼関係、ネットワークを活かして、例えば我々があまり得意としない商品作りの分野での協業を加速したいと考えています。
という具合に勝ち筋は見えているのですが、なにぶん4月からのヒアリングを経て、7月に開所したばかりですので、今は全力で走っているという感じです。しかし、年末商戦までには、そういった商品をラインアップしたいと考えていますので、ぜひいろいろな人々の協力を得られればと。
須永 そうですね、OISIXやAPバンクなど、元々付き合いのあるパートナーから声をかけてもらったり、ここに拠点があることで石巻に来た際に立ち寄ってもらったりするようにもなりました。
そうやって何らかのきっかけが生まれれば、あとはたとえ物理的に距離が離れていても、オンラインでのやり取りでプロジェクトを進め形はできるはず。ぜひ気軽に連絡してください。
須永 「石巻Hackathon(ハッカソン)」(ヤフーが7月27日〜29日の3日間にわたって実施した、石巻工業高校での短期集中型開発イベント)で生み出されたアイデアには物販に関連したものもありました。観光客が釣った魚を、魚屋さんを通じて購入できるといったマッチングサービスなどもその1つ。技術的な解決はハッカソン側で考えてもらい、我々は商品設計や集客・マーケティング・運用を行う中で連携を図りたいと思います。
須永 ご指摘の通り、ハッカソンの成果をそのまま私たちが使うというのは正しくありません。それを活用するのはあくまで現地の人々であり、私たちはそのサポートに回るという考え方です。その中で、東京側のリソースが必要であれば、これまでお話してきたように協力を仰ぎますし、またビジネスとして成立させるためのプロジェクトマネジメントの能力やノウハウも提供したいと考えています。
須永 そちらも検討しています。実は河北新報さんと私たちをつなげるきっかけを作ってくれたのも財団の専務理事なんです。復興財団は子供の教育を主な目的としていますが、今お話したようなアントレプレナーシップ(起業家精神)の育成にも繋がるものをその範ちゅうに含めることは確認していますので、コンテストのようなものも含めてそこに当てはまるようなプロジェクトを立ち上げたいですね。
須永 実際に被災地に足を運ぶと分かるのですが、東京をはじめとする被災地以外での認識と、ここの現実が乖離しているという危惧があります。正直、私たちが被災地の現状や商品をプレゼンテーションすることで「もう被災地は大丈夫なんじゃないか」という誤解を生んでしまっているのではないかというジレンマも感じるほどです。でも、いまだに商品を作る工場も、製品を保管する冷蔵庫もない状況が続いています。現地での努力は途切れていませんが、震災から1年半が経過しても、ほとんど何も変わっていないということはぜひ再認識してほしいですね。
今まで支援と言えば、がれきを除去したり、泥をかいたりという「復旧」が中心でしたが、これからはビジネスや価値を生み出す段階に入りつつあります。エンジニアやプロデューサーのスキルが求められていますので、軍手とヘルメットではなくPCを1台持って週末にこちらに来てもらい、復興のために持てる専門知識を活かす――。いわゆるプロボノとしての活動が必須ですし、私たちもそのための環境を整えていきたいと思います。Facebookにも復興ベースのページを設けていますので、ぜひ「こんな事ができる/やりたい」といった声を聞かせてください。
既報の通りヤフーは今年3月に新しい経営体制となり、これまでのライフエンジンから課題解決エンジンとしてのYahoo!JAPANに進化すべく「爆速」を合い言葉に新サービスや協業を矢継ぎ早に打ち出している。偶然だが取材を行った日には復興ベースと同じ建物の会議室で経営陣、役員・マネージャークラスの社員が課題を抽出すべく合宿も行った。
現地に根ざした取材と情報発信、それを起点としたECなどの課題解決、そして資金面も含めたプロジェクト支援のために、復興ベースができることは多そうだ。今後にさらなる活動に期待したい。
先日から開催しているITmedia Virtual EXPO 2012(要会員登録)にて、「ヤフー石巻復興ベース」に関連する動画インタビューを掲載しています。記事中にも出てきた石巻ハッカソンの担当者でもある、ヤフーの村上臣(むらかみ・しん)執行役員CMO(チーフ・モバイル・オフィサー)が出演。「被災地が現在直面している課題は、いずれ日本全体としても向き合うもの」とコメントするなど、復興ベースの取り組みついて話しています。
ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」、ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』(アスキー新書)、『できるポケット+ Gmail 改訂版』(インプレスジャパン)など。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。2011年9月28日にスマートフォンやタブレット、Evernoteなどのクラウドサービスを使った読書法についての書籍『スマート読書入門』も発売。
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