渋谷ヒカリエに誕生した「MOV」の現状とこれからコワーキングスペースの今(1/2 ページ)

この6月に「TEDxTokyo」が開かれた渋谷ヒカリエ。このTEDxTokyo運営事務局が利用していたのがコクヨのコワーキングスペース「MOV」だ。ヒカリエと同時にオープンしたMOVの現状とこれからをコクヨに聞いた。

» 2012年10月11日 15時40分 公開
[まつもとあつし,Business Media 誠]
Creative Lounge MOV

 本誌読者、あるいは「コワーキング」「ノマドワーキング」といった言葉に反応する読者であれば、4月26日に渋谷ヒカリエにコワーキングスペース「「Creative Lounge MOV(クリエイティブラウンジ モヴ、以下MOV)」がオープンしたことを覚えているはずだ。中には現地に行ってみたという人もいるかもしれない。

 オフィス機器や文具を販売するコクヨが運営するこのMOV、オープンから約5カ月が経ち、さまざまなイベントが行われた。すでにコラボレーションの事例も生まれている。「ワークスタイル」を変えるだけにとどまらず具体的な「アウトプット=成果」が生まれる場となりつつあるMOV○――。企画担当者であるコクヨの齋藤敦子氏(同社RDIセンター主幹研究員)に話を聞いた。またMOVを拠点にしている「TED×Tokyo」の創立者であるトッド・ポーター氏や西田治子理事にも話を聞けたので、その内容をお伝えしよう。

コクヨがMOVで目指すもの

コクヨの齋藤氏。国内外のワークスタイルを研究しているほか、同社がワークスタイルについて発信する「WORKSIGHT」の編集長も務める

――コワーキングスペースというと、比較的小規模の会社や個人事業主が小さなスペースからスタートすることが多い中、コクヨが駅直結のヒカリエにこのような場を設けたのは驚きでした。いったいどんな狙いがあったのでしょうか?

齋藤 コクヨはオフィス家具メーカーではありますが、昨今のビジネス環境の変化を受けて、家具を含めたハードウェアを提供するだけではなく、お客様とコミュニケーションを取りながら新しい「働き方」「学び方」といった空間としての価値を提供したいと考えています。それがお客様の課題解決にもつながると言うわけです。

 机や椅子といったハードだけでなく、MOVで試行錯誤してできあがる「仕組み」が私たちコクヨ自体にとっても重要だと考えています。

――例えばそれはどういった「仕組み」なのでしょうか?

齋藤 もともとコクヨはお客様のオフィスを構築するお手伝いをしてきました。経済成長期には、オフィス移転や拡張が当たり前でしたから、私たちがハードを提供するだけでお客様も私たちもハッピーだったわけです。

 けれども経済環境が厳しくなり、移転や拡張よりも、いまその場所での効率性や戦略が求められるようになりました。「フリーアドレス」のような取り組みも経営戦略を反映した1つの仕組みと言えるでしょう。社員が会社に居るだけではなく、お客様の元で仕事を創造していくような働き方に変えていきたい、といったニーズもあります。オフィスに自分の席が固定であるのではなく、社内の他の部署とシームレスに連係したり、外出し顧客と膝詰めでコミュニケーションをとって価値を生み出す必要が生じてきた。そうなると、机・椅子という部分よりも、新しい「働き方」をどうサポートするか、というのが重要になるのです。

――MOVは月極や一時利用などのプランを用意し、フリーアドレスのスペースもあれば、固定席も別契約で提供しています。多様な人々のニーズに合わせて、単にコワーキングスペースを運営しているだけではなく、そこで得られた知見をフィードバックしようということですね。

WORKSIGHT LAB.(Webだけでなく冊子も発行している)

齋藤 その通りです。私たちコクヨのメンバーもここMOVで普段から仕事をしていますし、私が編集長を務めるWORKSIGHT LAB.へもフィードバックを行っています。

 オフィス家具やワークスペースのプロトタイプをそこから作っていますが、ここMOVもそのプロトタイプを試す場でもあるわけです。コワーキングビジネスそのものをコクヨが行いたいというわけではなく、世の中がそういう働き方を求めていて、それ自体も日々変化しているということをここで確認したいという部分が大きいですね。もちろん、この場所自体の収益化も目指しています。

 私たちはMOVを各地に作ろうということは計画していないのですが、ビルのオーナーさんやこれから建てようとという人たちから(MOVのようなコワーキングスペースを作れないかという)問い合わせも多いです。

震災後変化した「働き方」とMOV

――MOVをはじめとするコワーキングスペースでは、会社勤めのビジネスパーソンと、フリーランスが1つのところで仕事するという特徴もあるかと思います。

齋藤 コワーキングスペースは東日本大震災後に急速に増え、いま国内には100以上あると言われています。世界では約1300あると推定しているのですが、海外は個人事業主が多いこと、また個人であっても例えばローンが組めるといった信用・保証の面で違いがあります。

 ただ国内外で状況は異なっているのですが、震災後、日本でも起業を選択する方は増えているように感じます。また、会社に勤めていても新規事業の立ち上げを担うような人は、社内にとどまっていてもなかなか成果を出せません。やはり、外部との連係が重要です。企業側もその点への理解が進みつつあり、社外で働く形を模索しているのが現状だと思います。

 さらに言えば、もう30年以上前から「テレワーク」というコンセプトがあったのですが、震災で事業継続性が問われるようになり、本社に全ての機能が集約されていることが、逆にリスクとみなされるようになりました。それも1つの追い風ではあります。

 「ワークライフバランス」にも注目が集まっています。女性やリタイア後の方にも働きやすい環境を作ることによって、日本全体の産業創造に役立てたいというのは、企業はもちろん、国にとっても重要な課題。そういう意味でもワークスタイルは多様性を認めなくてはならないのが現状です。

――働き方に変化が求められている現状で、MOVが果たすべき役割とはなんでしょうか?

齋藤 従来コワーキングスペースは駅には近くても、既存のビルの1室を有効活用するような例が多かったのですが、MOVはヒカリエという新しいビルの8階「クリエイティブフロア」半分を占めています。ここはビルの言わば「付加価値スペース」。次世代の人材を育成しようということで、ギャラリーやカフェが備わっています。

 もともとヒカリエの構想段階から、ここにコワーキングスペースを作ろうというプランがあったんです。新しい人材や事業を生み出す場としたいと。私たちコクヨも東急電鉄と長い時間をかけて議論してきました。現状まだオフィスビルの少ない渋谷にあって、丸の内や六本木とは異なるオフィスの在り方を東急電鉄も模索していて、「クリエイティブ」や「個人」がそこではキーワードになっていたんですね。

 ここで言う個人とは、個人事業主さんだけではなく、先ほど挙げた企業や組織の中での新規事業立ち上げを進めているような方が、こういった場に出てきてもらうことによって、いろんな業種・職種・文化を持った人々が混ざり合う――コクヨ自体もいまそういった働き方を進めているところですが――そこから新しいアイデアが生まれる、MOVはそんな場所になることを目指しています。

交流が生まれる仕掛けに力を入れる

見取り図
イベントの予定も貼りだしている

――これまでいくつかコワーキングスペースを取材してきましたが、確かに喫茶店などでは生まれない交流を目指すケースが多かったですね。MOVでは具体的に利用者の間で交流が生まれるような仕掛けをとっているのでしょうか?

齋藤 他のコワーキングスペース同様、オープンで話しかけることも可能な雰囲気にはなっていることはもちろんですが、イベントがあったり、ネットワーキングを促がすホストの存在があります。

MOVは真ん中に広いオープンラウンジがあります。ここは街の広場をイメージしているんです。とはいえ、そこに座ったからといって自然に交流が生まれるというわけにはなかなかいきません。そこでイベントをマメに行うことが重要になります。

――どんなイベントをおこなっているのでしょう?

齋藤 基本会員同士ですが、会員がお友達を連れてくることもできます。お一人10分のプレゼンをして頂く機会があったり、合間にはちょっとしたゲームや余興を用意しています。そういったことを通じて会員同士にお知り合いになって頂き、翌日からコラボが生まれたりもしていますね。「付けひげで来てください」といったユニークなドレスコードを設けることもあるんですよ(笑)。

――女性も付けひげを付けたんですね。どのくらいの頻度で開いているのでしょうか?

齋藤 大きなものは2〜3カ月に一度ですが、主に週末、外部からゲストを招いてのトークイベントやワークショップは週一回以上開催しています。実践されている方を招いてのビジネスセミナーや、もの作り系のワークショップもあり、渋谷らしいクリエイティブ寄りのものもあります。

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