渋谷ヒカリエに誕生した「MOV」の現状とこれからコワーキングスペースの今(2/2 ページ)

» 2012年10月11日 15時40分 公開
[まつもとあつし,Business Media 誠]
前のページへ 1|2       

実際の利用者は?

 料金は、エリアごとに異なる。基本的には月額制(ミーティングルームは時間制)だが、会員であれば1時間840円のスポット利用も可能だ。

Creative Lounge MOV料金表
エリア名 入会金 預託金 プラン 料金
オープン・ラウンジ 1万500円 なし フルタイム(9〜22時) 月額1万5750円
デイタイム(平日9〜18時) 月額1万500円
ナイト&ホリデー(平日18〜22時、休日9〜22時) 月額1万500円
レジデンス・エリア(ブース12室※24時間利用可) 契約月額の1カ月分 契約月額の1カ月分 1人利用(部屋面積3.36〜3.58平方メートル) 月額10万800円
1人利用(部屋面積3.83平方メートル) 月額11万5500円
個室2人利用(部屋面積4.58〜4.78平方メートル) 月額12万6000円
レジデンス・エリア(テーブル24席※24時間利用可) 1万500円 5万2500円 1席(ロッカー利用付) 月額5万2500円
ミーティング・ルーム なし なし 6人用 1時間5250円
8人用 1時間6300〜7350円
10人用 1時間1万500円
12人用 1時間8400円
24人用 1万6800円

――MOVの利用者数や利用のスタイルを教えてください。

齋藤 9月現在の会員数は約800人。この中には「ラウンジメンバー」と呼ばれる月額1万円(デイタイム/ナイト&ホリデー)/1万5千円(フルタイム)とワンタイムメンバーを含んでいます。

ナイト&ホリデーは主に会社勤めの人が勤務時間外に利用しています。その他のプランはフリーランスの人が拠点として使っているケースが多いですね。それ以外にも「ワンタイムメンバー」という時間単位で利用している人もいます。まだオープンして5カ月程度ですので、試しにワンタイムで、その後ラウンジに切り替えという人も多いです。

 MOVの奥にはレジデンスと呼ぶエリアがあります。こちらは24時間利用可能です。大きさの異なる3種類のブースとテーブルを用意しています。こちらの利用者はラウンジスペースも利用できます。レジデンスはまさに「自分のオフィス」として使えます。入り口の受付で郵便物の受け取り/預かりも行っていますし、来客時の呼び出し・取り次ぎも行っています。その他別料金にはなりますが、会議室も用意しています。

――立地を考えるとレジデンスの価格もリーズナブルに思えますね。法人登記もできたりするのでしょうか?

齋藤 ビルオーナーである東急電鉄との契約がありますので、ケースバイケースで対応しています。こちらは個別にご相談ですね。もちろん、レジデンス契約の人がオフィスの住所として名刺などに記載したり、郵便物の配達先をこちらにしたりするは問題ありません。

――中で飲食もできるのでしょうか?

齋藤 はい。持ち込んでも大丈夫です。ただ飲み物はどこでもOKですが、食事は机が汚れてしまうこともあるので、奥にフードコートを用意しています。そちらには自動販売機も設置してあります。

――利用者にはどういう方が多いのでしょうか?

齋藤 職種はさまざまですが、やはりITやWeb業界の人は比較的多いと思います。プログラムやデザイン、企画書や文章を書くなどPCを使って仕事が完結する人々ですね。また本業は別にあってプロボノ(本業を生かしたボランティア)的な活動をここで行っている人もあります。またこの後に紹介しますが、外国人も多いですね。他のシェアオフィスに比べて「くつろぎやすく馴染みやすい」という評価もありました。ベンチやステージのように気分や仕事の種類に応じて場所を選べるというのもポイントですね。

 場所柄もあって、バリバリとビジネスや起業に使う、というよりもクリエイティブ指向であったり、社会的なテーマに取り組んでいる人も多いです。MOVの手前には「aiima(アイーマ)」と呼ぶ展示イベントスペースがあり、MOVの利用者以外も自由に出入りできます。「駅ナカ」ならぬ「駅ウエ」立地ということもあり、お買い物のついでに立ち寄る方もいますよ。


アイーマ

――なるほど、aiimaもMOVの一部であるんですね。

齋藤 はい。aiimaは日本語の「合間」がコンセプトなんです。そういったオープンさも活かしつつ、ここにコミュニティを作ることを目指しています。いろんな交流や情報交換が生まれて、そこから出てきたアイディアが実社会に対するプロジェクトになっていく――。「MOV」という名前にはmovementというコンセプトも含まれていますので、そういった部分もサポートしていきたい。そのために、コンシェルジュと会員との関係も密なものを目指しています。

――単なる受け付けではない、ということですね?

齋藤 そうですね。何かアイディアをお持ちの方が「こんな人を探しているんだけど」とコンシェルジュに相談してもらえれば、彼らはほとんどの会員を名前とお顔はもちろん、どんな事をしているのかということもイベントを通じて把握しています。「だったらこの方はどうでしょう」と紹介したり、イベントの時に引き合わせたりもしているんですよ。

コンシェルジュの皆さま

TEDxTokyoを支えたMOV

 MOVを実際に利用し、そこに集う人々との交流を通じてプロジェクトを成功させた事例がある。それが、6月30日にヒカリエで開催した「TEDxTokyo(テデックストーキョー)」だ。350人以上の来場者を招いた会場内はもちろん、10万人以上の動画視聴があったという。このTEDxTokyoをコーディネイトし、運営したのが今回話を聞く、IMPACT FOUNDATION JAPAN(以下インパクトジャパン)のトッド・ポーター氏と西田治子氏だ。

TEDxTokyo
TEDxTokyoを運営するインパクトジャパンの西田治子氏(左)とトッド・ポーター氏(右)

 日本が潜在的に持つポテンシャルを発掘し、アントレプレナーシップの育成を目指すインパクトジャパンにとって、ここまで齋藤氏が話してくれたようなMOVの特色はうってつけだったと言える。

 「普通のオフィス空間では(TEDxTokyoのような)イノベーティブな事業はできなかった」と西田氏。レジデンスを共同で利用している氏は、ここMOVが仕事をする場でありながら、人が集い、交流と対話の中から新しいプロジェクトが生まれてきたと振り返る。DeNAをはじめとするIT企業が入居するヒカリエ内にあることはもちろん、世界一通行者数が多いことで海外旅行客の観光スポットにもなっている渋谷交差点からほど近いことも日本と海外との“知恵の交流”を促進するはずだという。

 「喫茶店で集まることもできますが、いつでもOKという訳ではありません」と話すのはトッド氏。TEDxTokyoを準備した約4年間、米国で数多く存在するコワーキングやインキュベーションのためのスペースを日本で求めていたという。MOVを拠点にすることで、1カ所に居ながらにして、さまざまな人々とミーティングを行えるようになり、セレンディピティ(偶然から幸福をつかむ能力)も生じたという。

 「起業や独立の文化が長いアメリカと比べると、日本人はやはり引っ込み思案な部分はありますが、ここMOVや、そこから生まれたTEDxTokyoのような取り組みを通じて隠れた才能や可能性を見いだすことができれば」と期待をにじませる。「国籍や属性が異なる人たちが一所に集い、プロジェクトが生まれている――オープンイノベーションがここにはある」と両氏は口をそろえる。

コクヨが開発したコミュニケーションを促すタブレット端末用ホワイトボードアプリ「te.to.te(てとて)」。MOVで実際に利用することが可能だ

 いかがだっただろうか。筆者にはMOVの取り組みは、喫茶店でのノマドワーキングでの孤独な作業(もちろん、次の約束までの空き時間の活用という意味では有効だが)や、来店者に基本的には交流を委ねているコワーキング空間に比べ、ここから知見を得たいという狙いもあるコクヨやコラボレーションに目的を据えた組織が、かなり積極的にコミュニティ作りを意識した取り組みを行っていると感じた。単に仕事をこなす、というだけでなく何らかの課題解決を図りたい、といった場合にMOVの扉を叩いてみるというのもいい選択かもしれない。気になる人は一度行ってみるといいだろう。

著者紹介:まつもとあつし

 ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』(アスキー新書)、『できるポケット+ Gmail 改訂版』(インプレスジャパン)など。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。2011年9月28日にスマートフォンやタブレット、Evernoteなどのクラウドサービスを使った読書法についての書籍『スマート読書入門』も発売。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ