次に、専門商社に勤める男性社員Aさん(34歳)のケースを紹介しよう。
Aさんに、最近仕事の調子を聞いた。すると「とにかく忙しいです」との一言が返ってくる。目に輝きがなく、死んだ魚のような暗い目をしている。話している表情に笑顔がない。
働いていてどのような問題意識を感じているのだろうか。この質問に対しては、とにかく多くの問題点を挙げてくる。「会社のビジョンが見えない」「部門内での情報共有ができていない」「職場内が暗い」「残業が多すぎる」「業務の分担ができていない」「人材育成がなされていない」などの意見が出てくる。
組織に不満があるのなら、転職して別の会社に行きませんかと聞くと、そのようなことは考えていないという。「いまさら、キャリアチェンジをしても、また、新しいことを覚えるのは億劫だ。もっと偉くなって、上司として自分が組織を動かしていく立場を目指しているかというとそのようなこともない。決して、上司にはなりたくありません」という。
また仕事を通じてやりたいことはありますかと聞いても、「やりたいことなんて考えたことがありません」という回答が返ってくるだけ。もはや、Aさんは何の意志も持たず、目標もなく、なんとなく日々を流されるがままに過ごしている。変革しようという意志も、成長しようとする意欲も完全に失っているのだ。
いつから、このような状態になったのだろうか。入社してから数年、Aさんは意欲的に働いていたが、6年前に起きたあることがきっかけで、会社をあきらめたという。そのきっかけとは、自分の好きだった先輩の昇進が、別の先輩より遅れたということだった。好きだった先輩は、上司に対してハッキリと意見を言う先輩で、その人事を見ていて、この会社では、自分の意見を言ってはいけないと悟ったという。出る杭は打たれるのだから、何も言わずに指示に従っていることが正しいことだと気付いたそうだ。
結果、「現状維持」を臨み、成長も変化もしない人になってしまった。
きっかけは、その6年前のひとつの出来事に過ぎない。でも、それがきかっけで、Aさんはブレーキを踏み、組織にあきらめを感じ、自分の成長を止めてしまっている。
きっかけは人それぞれで違う。上司に進言して叱られた経験がもとにあきらめる人もいるし、仕事で失敗して恥ずかしい思いをしたことがブレーキを踏むきっかけになる人もいる。いずれにせよ、明確なのは、Aさんの成長が止まってしまっているとうことだ。このような状況に陥っている人が増えている。
自分に当てはめて、Aさんと重なる部分があると感じた人は、今からでも遅くない。自分を変える一歩を踏み出してほしい。
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