分からないことを聞かれたら――学びのチャンスを逃してませんか田中淳子のあっぱれ上司!(1/2 ページ)

後輩からの質問。知らないことなのに「それ、知らなくても大丈夫だから」「その技術、うちの部署で必要ないから知らなくてもいいよ」と答えたことはありませんか?

» 2012年10月29日 09時00分 公開
[田中淳子,Business Media 誠]

編集部からお知らせ

 ITmedia エグゼクティブでの人気連載「田中淳子のあっぱれ上司!」が誠 Biz.IDにて再開します。悩める上司と部下の付き合い方を、企業の人材育成に携わって27年(!)の田中淳子さんが優しくにこやかに指南するこの連載、部下とのコミュニケーションに悩んでいる上司はもちろん、そうでない上司も必見です!


 ある若手ITエンジニアが「新人のころの苦い思い出」を話してくれた。

「これは気にしなくていいです」「その説明は何だ!」

 自社で担当しているシステムについて、顧客先のマネージャーが「このメッセージ、よく画面に出てくるんだけど、どういう意味か教えてくれる?」と聞いてきた。少し前に、このエンジニアも同じことが気になり、先輩に教わっていたので、先輩と同じように「あ、これは気にしなくていいメッセージです」と答えたところ、顧客が激怒した。

 エンジニアが「これはどういうメッセージですか?」と質問したとき、先輩は「それは気にしなくていいメッセージだからいいんだよ」と答えた。そのまま顧客に伝えたら、相手は烈火のごとく怒り出した。「君はエンジニアだろう。気にしなくていいかどうかじゃなくて、どういうメッセージなのかを尋ねているのだ。こちらは素人だ。どういうメッセージかを説明した上で、こういう理由で気にしなくて大丈夫というのなら分かる。なのに、その説明の仕方はなんだ!」

 平身低頭でお詫びし、帰社してから先輩にもう一度教えてもらった。後日、顧客にもきちんと丁寧に説明した。以来「何かを学ぶ時は、きちんと自分が理解できるところまで教えてもらわなくてはダメだ」と肝に銘じたという。

部下の学びは自分の学び

 このケースはまだいい。というのも、先輩は画面に表示されるメッセージの意味をよく理解した上で「内容として気にすべきレベルではない」と判断し、新人に「気にしなくていいメッセージだ」と答えているからだ。

 まずいのは、先輩自身も理解できていない、知らないことなのに「それ、知らなくても大丈夫だから」「その技術、うちの部署で必要ないから知らなくてもいいよ」と答えてしまうケース。実際、若手のOJT指導にあたっている先輩たちに聞いてみると「知らなくて大丈夫」「俺も知らないけど困ったことないし」といってごまかすことがある、と苦笑いする人が何人もいる。

 この答え方は非常にもったいない。後輩は業務上必要かどうかを意識せず、疑問に思ったから質問したわけだ。知りたい、学びたいという好奇心や意欲に基づいた質問であろう。ところが聞かれた上司や先輩は、受けた質問に対する答えを持ち合わせなかった。先輩には悪気もなければ誤魔化すつもりもないだろうが「知らなくても大丈夫」と後輩に言ってしまう。こうなると後輩の折角の知的好奇心、学習意欲までをも削ぐことになりかねない。

 そういう場合は「いい質問だねー。でもザンネンながら、私には経験がなくて、それについて知らないんだ」と正直に言ってしまえばよいのだ。その上で「このマニュアルを見れば分かるはず」と調べ方を教えたり「○○さんなら詳しいと思う」と有識者を紹介したりする。有識者と面識があるなら、先に電話1本かけておき「うちの部下が行きますので、よろしく」と人間関係をつないでやることくらいはできるであろう。常に正しい答えを提供することだけが上司や先輩の役目ではない。答えそのものよりも「学び方」を教えることのほうが、部下や後輩のためになる場合は多い。

 「自分で調べてごらん」とマニュアルや人を紹介したら「理解できたら、私にも教えてくれる?」と後輩に依頼しておくのも手である。こう言われれば、後輩も張り切って学んでくるであろう。教わることばかりだと思っていた自分が先輩に教えることもできるのだと思えば、うれしくもなり、頑張って勉強するはずだ。

 部下や後輩を1人で有識者のところに行かせるのではなく、自分も一緒に出掛けて行き、ついでに学んでしまうと言う人もいる。部下や後輩の学びの場面を自分の学びの場面としても活用するのだ。

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