「不機嫌な上司」にならないために――自分で自分を上機嫌にできる?田中淳子のあっぱれ上司!(2/2 ページ)

» 2012年11月06日 09時00分 公開
[田中淳子,Business Media 誠]
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不機嫌、不愉快、怒りは捉え方次第

 人は、出来事そのものによって感情を動かされているのではなく、その出来事の捉え方によって感情を動かされている。不機嫌になっているのは、ある出来事に対する自分の捉え方によって引き起こされた感情が原因である。だから、同じ出来事に遭遇しても、人によって捉え方が異なり、引き起こされる感情も変わってくる。

 車両故障などで電車が止まった時のことを考えてみるとよく分かる。たいていの場合、ホームにいる駅員さんだって状況を即座には把握できない。しかし、しらばくすると駅員に「どうなっているんだ?」と食って掛かる人が出てくる。

 一方で、穏やかにただ待つか別ルートを涼やか顔をして選ぶ人もいる。この違いは、その時の感情を支える「捉え方」の違いである。「電車はいつも時間通りに運行するべきで、駅員はトラブルの状況を常に把握し、即座に詳細に説明できる体制を整えるべきである」と考えれば、5分でも止まった電車にイラつき腹立つこともある。「電車は時間通りに運行するに越したことはないが、トラブルがあれば止まることもあるし、駅員と言えども即座には把握できないこともある」と捉えれば、怒りの感情はわいてこないだろう。

 不機嫌とか怒りというのは、自分の「物事の捉え方」次第なのである。その「捉え方」は自分で選べる。不機嫌になってしまうのは、不機嫌になるような捉え方をしているのである。ほかの捉え方をすれば、不機嫌、不愉快といった感情がわき起こらないかもしれない。不機嫌は必然なのではなく、自分の捉え方をうまく調整することで避けられる事態なのではないだろうか。上司は部下を上手に動かして目標達成する役割を追っている。自分の機嫌は上手にコントロールできるようになっていたい。

不機嫌な上司にAさんはどう接したか

 ところで「あっぱれ上司!」といいつつ、上司たちに対してちと厳しいことを書いてしまったので、部下の側にもヒントを。

 ある中堅社員Aさんに聴いた話である。彼の上司(課長)は、週1回の「課長会議」に出席し、10時くらいに自席に戻ってくる。課長会議で何があったのは不明だが、会議資料をばさーっと机の上に投げ置き、「はあ〜」と大きなため息をつきながら席につくそうだ。毎週のことで、見ている部下たちも気分が萎えるだけでなく、そのまま黙り込んだ課長の放つ空気から職場のムードもピリピリする。その上、課長は、課長会議で出た内容を自分たちに一切話してくれない。他部署では課長が部下たちに会議内容を共有してくれているとも聴く。これでは、自分たちが必要な情報を得られていないのではないかと心配になってきた。

 Aさんは考えた。「課長会議の内容を全員に共有してください」と直接依頼するのではなく、課長に歩み寄る作戦を取ってみたのだ。会議から戻り、いつも通り小利を机に叩き付けるように置きつつ深いため息をつく上司に、あえて笑顔で近づいて行き、「今日の会議、どんな話が出たんですか?」と尋ねてみた。すると、課長が椅子に座り直して「興味あるの?」と聴いた。「はい、教えてください」と頼むと、椅子をすすめられ、「これとこれが話し合われた」と資料見せながら簡単に説明してくれたそうだ。

 翌週。ため息と書類をばさっと置く課長に近づいて行き、「今日の会議はどんな話が出たのですか?」と同じように尋ねた。課長は、説明してくれるとともに「こういう話、皆、聴きたいのかなあ」とつぶやいたそうだ。すかさず「もちろん! 課長会議で何がどう話し合われているのか、僕たちだって知りたいですよ」と言うと、課長は「そうか。皆も知りたいのか」と意外そうな表情をした。

 3週目。課長会議から戻った課長は、部下たちにこう言った。「みんなー、ちょっと集まって。課長会議で話された内容をシェアするから」。これ以降、課長のため息も書類をばさっと置く音もなくなったのだそうだ。

 課長の不機嫌な様子を改善してほしいと思った時、そのことを直接指摘するのではなく、こうやって異なるアプローチで部下が上司に働きかけることもできる。心に残るエピソードである。上司が自分を上機嫌に保つ術を持つことは大事だが、部下もその上司に興味関心を持ち、上司が不機嫌にならない、あるいは、不機嫌から抜け出るようサポートすることもできるのだ。

著者プロフィール:田中淳子

田中淳子

 グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。

 1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。


  • 著書「速効!SEのためのコミュニケーション実践塾」(日経BP社)、「はじめての後輩指導」(日本経団連出版)、「コミュニケーションのびっくり箱」(日経BPストア)など
  • ブログ:「田中淳子の“大人の学び”支援隊!
  • Facebook/Twitterともに、TanakaLaJunko

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