話は変わるが、先輩と後輩とで同じ本を読み、それについて対話をする企業があった。先輩が読み、いいと思う本を後輩に勧め、後輩もそれを読む。その後、週1回ペースで30分ほどの面談を行い、読んだ本について先輩と後輩とで対話する。
先輩Aさんは本の感想を語り合う日に、たまたま他の人から「傾聴は大事。先輩がしゃべり過ぎないように」という話を聞いて、さっそく試してみたそうだ。
「○○さんがこの章で気になったところは?」「印象深かったところは?」など先に後輩Bさんに語らせるようにした。
いつもであれば「この部分は自分の職場に置き換えると、こういう風に言えると思うんだ」とAさんが先に伝え、Bさんが「私も同じ箇所が印象に残りました。ウチの仕事でも同じことが言えますよね」と応じるスタイルだったが、この日は先にBさんの考えを聞いてみたのだ。
「ココからココのページにかけて、今のプロジェクトで置き換えて考えてみたんですが」などとBさんはいつも以上によく話してくれた。Aさんもそれを受けて自分の考えを伝え、30分の面談を終えようとした時、「今日の感想は?」と尋ねた。
「なんだか、いつも以上にたくさんしゃべれました!」とBさんは笑顔で答えたという。
最後にAさんはこのように話してくれた。「これまでは自分が先に感想を述べていました。それを聞いていた後輩は言うことがなくなって、反応が薄かったのかもしれません。先に後輩の感想を聞くと、僕も気づいていなかった箇所についてたくさん話すんです。これには驚きました。話す順番って大事なんだなあ、と知りました」
冒頭の面談しかり、上司や先輩はつい先しゃべってしまう。上司や先輩があれこれ話してしまうと、部下や後輩は自分の意見や考えを言いづらくなる。
先に部下や後輩の考えを聞くことで本音を引き出しやすくなるはずだ。部下や後輩に対して「どうも本音を話していないようだ」「もっと自分で考え、自分の言葉でしゃべってほしい」と思っているのであれば、相手に先に話させるようにしてみてはいかがだろうか。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
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