トップビジネスパーソンはなぜ「走る」のかRe:Work !(3/4 ページ)

» 2013年01月18日 10時00分 公開
[三河賢文,Business Media 誠]

周囲の仲間に支えられ、45歳からのチャレンジ

 私の所属するトライアスロンチームIomaremartilloのメンバーは、ほとんどが初心者からのチャレンジャー。渡瀬ひろみさんも、その1人だ。テニスでは実業団の東京都大会で優勝経験を持つほどの実力者だが、マラソンは全く経験がなかった。

 そんな渡瀬さんは、新規事業コンサルティングやベンチャー支援をしているアーレアの代表。地域密着型フリーペーパーを発行するぱどの執行役員を務めるほか、若手起業家の育成活動や、大学など教育機関で教壇に立つなど、日々多忙を極めている。

渡瀬ひろみ(わたせ・ひろみ)さん(48歳)

アーレア代表取締役。ぱど執行役員。大学卒業後、リクルート入社。2010年に独立。ブライダル情報誌「ゼクシィ」の生みの親でもある。夫とともにトライアスロンやマラソンへ挑戦している。


――走り始めたきっかけは何ですか?

 トライアスロンを始めたのは、2010年のこと。当時、私は45歳でした。夫が出場するトライアスロンの大会に応援に行って、暇なので試泳会で一緒に泳いでみたんです。

 プールで泳ぐのとは違い、遠い沖まで泳げるなんてめったにない体験ですよね。でも、それがレースなら行ける。そう考えたら、レースに出てみたくなりました。

 デビューレースは、2011年のホノルルトライアスロン。その後、同年に人生初のハーフマラソンに挑戦して、完走できました。

――45歳での初チャレンジ、不安ではなかったですか?

 とにかく私は、周囲に恵まれているんだと思います。初めてホノルルトライアスロンに出ると決まったとき、Facebookで同世代の友人がたくさん応援してくれました。すごくうれしくて、それだけで勇気付けられましたね。

 走り始めて、本当にたくさんの新しい仲間に出会えたことは、素晴らしいと思います。特にIomaremartilloは、記録に関係なくみんなが初心者の気持ちを分かってくれるチームです。例えば、マラソンで初めて走るランナーと併走したり。みんなで支え合い、高め合える環境って、本当に素晴しいものです。

 私も、自分のチャレンジが今度は他の人のチャレンジのキッカケになればと思っています。周囲のみんながいるからこそ、私は不安なんてぬぐい去ってチャレンジできているので。

――これまでのレースで、思い出に残っていることはありますか?

 北海道で行われた100キロウルトラマラソンです。当時私は、ハーフマラソンの完走を機に、目標をフルマラソン完走に置いていました。それが、そのレースで私は人生初の最下位を経験しました。レース中、15キロ地点でトイレに行ったんです。ウルトラマラソンは長丁場ですからね。

 しかしコースに戻ってみると、自分の後ろを誘導車が着いてきます。ここで私は、自分が最後尾にいることを知りました。一生懸命走って前にいた2人組に追い着いたのですが、そこからはデッドヒート。しかし途中で脚を痛めてしまい、ついに最後尾を独走する形になったんです。

 ただレースコースには、折り返しのコースがあるんですよね。私は最後尾にいるので、当然他のランナーみんなとすれ違います。するとすれ違うランナーが、ビリの私に励ましの声を次々に掛けてくれる。もう、涙が止まらないほど感動しました。

 しばらく走って30キロ地点をクリアしたのですが、脚の状態を考えて、これ以上は危ないと途中棄権。でもハーフマラソンを超えて人生最長距離を走破できましたし、何より最下位になって味わった経験は、とても大事な意味があると感じています。

――どんな時間意識で、日々を過ごしていますか?

 私は、24時間仕事をしているような気分です。電車に乗っていたり、歩いていたり。いつでも自分の中に何かしらのテーマを持っていて、思い付いたことはメモを取ります。友達と会っていても、仕事の話をしていることが多いですね。仕事が好きだからでしょうか? 仕事とプライベートを分ける感覚が、あまりないんです。

 「さあ、考えよう!」なんて思っても、そういうときって意外と考えられないでしょ。むしろ走ったり泳いだりしながら考えている方が、良いんじゃないかとすら思えます。いつの間にか考えが巡りすぎて、自分がどのくらい泳いだのか分からなくなることもありますよ。

 あと、私がいくら遅く帰っても夫が怒らないのもありがたいですね。「あなたは、あなたの人生と仕事を力一杯やりなさい」と言ってくれていて、だから時間に縛られず行動できているんです。そういうパートナーに出会えたことが、幸せですよね。

 「時間がない」と言い訳をする人がいますが、これは単に意志が弱いだけ。仕事では、「いつまでに、この仕事をやり切る!」意志の強さが重要です。自分自身をコントロールできない人は、集中する力が弱くダラダラやってしまいます。そうすると疲れてしまって、意欲も減退。さらに時間を無駄に過ごしてしまって、また疲れてしまう……この悪循環に陥っているのではないでしょうか。

――いつまで走り続けていたいと思いますか?

 75歳までは続けていたいですね。サイパンで行われるロタのトライアスロンに出場していた最高齢の女性が、73歳だったんです。しかも彼女は、それが初のトライアスロン。結局、オリンピック・ディスタンス(スイム1.5キロ+バイク40キロ+ラン10キロの合計51.5キロ)を4時間半でゴールしたんですが、その姿を見て「70代で自分もこうしていたいな」って思いました。年齢関係なくチャレンジできるなんて、素晴らしいスポーツですよね。

 もちろんそのためには、鍛え続けなければいけません。しかしその意志とは裏腹に、人は確実に衰えていきます。「人生はたった一度だ」――。そう思い始めたのが、40歳を過ぎたこと。それでも高いところを目指している人と、ダラダラと過ごしている人とでは、その人生に大きな違いがあると思います。

――人生を充実させるために、アドバイスはありますか?

 何でも良いから、何かを目指したり、何かに向かっていって欲しいですね。できないことをできるようになろうと努力している人は、すごくすてきですよ。そのためには、好奇心を持つこと。「人生がたった一度だ」と意識するかどうかで、考え方は変わってくるはずです。

 「できるようになる」ことは、ただ今はやり方を知らない、もしくはやってみていないだけなんですから。これはスポーツだけじゃなく、仕事にもつながることです。

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