素晴らしいアイデアと綿密な戦略が成功の近道?トップ1%の人だけが実践している思考の法則(2/3 ページ)

» 2013年01月31日 10時00分 公開
[永田豊志,Business Media 誠]

ソニーの最初の製品は電気釜

 例えばヒューレットパッカードは、創業時期にはダイエット用電気ショック機から便器の洗浄センサーまで、なんでもやっていました。最初の大ヒットは1972年の科学計算機(いわゆる電卓)で、これを皮切りにコンピュータ事業に参入するわけですが、この時点で、起業から33年もたっています。わずか538ドルで設立した会社は、その後年間売り上げが400億ドルの企業に成長しました。

 ソニーだって、現在のオーディオビジュアルの事業ドメインが見えてきたのは設立から5年ほど経った後です。

 最初の発明は電気釜で、その後も失敗の連続でした。どうしても電気釜を成功させるこだわりがあったら、今のソニーは存在していないかもしれません。とにかく、会社を軌道に乗せようとする試行錯誤の先に、今のオーディオビジュアルでの地位があるわけです。

 世界で1日に消費される清涼飲料水は約50億杯とのことで、そのうち18億杯がなんとコカ・コーラだそうです。そのコカ・コーラは、薬局の店員がたまたま販売用のシロップをソーダで割っておいしそうに飲んでいたのがヒントになり、スタートしました。

 ジーンズの代名詞ともいえるリーバイスは、もともと帆船の布を売っていた男が、たまたま同じキャンバス地でズボンを作り、ゴールドラッシュで集まってきた金鉱掘りたちに丈夫な作業着を提供できる、と考えてスタートしました。つまり、数々の世界有数のビジネスは、「たまたま」から生まれてきたのです。

アイデア以上に存続に固執した

 つまり、優れた企業は1つのアイデアに固執するのではなく、むしろ会社を存続させることに固執した、と言い換えることもできるでしょう。これが、世紀を越えて生き残ってきた企業に共通する唯一かつシンプルなサバイバル技術なのです。そういった意味においては、会社を作った後で新しいビジネスチャンスを探しにいっても一向に問題ないのです。

 なぜなら、綿密な計画を立ててもその通りになる確率の方が低いのが現実の世界。失敗しても次々に代案(プランB)に乗り換えながら、「なんとしても会社を軌道に乗せるまであきらめない」姿勢が一番、大事なのだと思います。

海から陸にあがった魚は、長期戦略を持っていたか?

 企業の進化は、ダーウィンが『種の起源』に記した進化の法則に似ているといわれます。海から陸にあがってきた最初の魚に、長期戦略や進化のアイデアはありませんでした。ただひたすら環境に合わせて常に最適化してきた結果、陸にあがり、大空に羽ばたいたのです。

 そこでは戦略の代わりに「実験」「試行錯誤」「適応」が繰り返されます。実際に進化していく生き物たちは、気の遠くなるような時間をかけてそれらを行い、次第に体が新しい環境で生きるために「変態」していくわけです。

 ビジョナリーカンパニーを調べたジェームズ・C・コリンズらも、「未来志向の企業になりたいのなら、綿密な戦略を立てるよりもダーウィンの『種の起源』を学ぶ方がよほど役に立つ」と言っているくらいです。

 最高のアイデア、綿密な計画が必ずしも成功への近道ではありません。むしろ、実験と修正を繰り返した結果、よいものを残していく、という「生物の進化論」をベースに考えることで、あなたのビジネスを短時間でより研ぎ澄ませていくことができるでしょう。

 ポイントは計画の緻密性ではなく、どれだけ短時間に、測定可能なビジネス実験ができるかどうか、失敗であったとしても、それを許容できる範囲内でトライ&エラーを繰り返すことができるか、ということです。

 特に、この問題のように限られた軍資金でスタートする場合は、すべてを1カ所に掛けるのは危険すぎます。資産運用の金言で、「1つのカゴにすべての卵を入れてはいけない」というのがあります。

 これは「ポートフォリオ理論」といわれる、資産を分散することによってリスクを低減することができるというものです。ビジネスも同じ。1回目でスマッシュヒットを飛ばすことは難しいので、必ず軌道修正可能な余力を残してトライすべきです。

 また会社が軌道に乗ったからといって、実験や試行錯誤を止めてはいけません。軌道に乗った事業から収益が得られるうちに、次なる実験に着手すべきです。国税庁(2005年調べ)によれば日本の全法人数約255万社のうち、設立5年で約85%の企業が消え、10年以上存続できる企業はほんの6.3%です。

 安定収益が確保できている間に、未来に向けて新しいビジネスチャンスをつかむために試行錯誤できる企業こそが、この激しい生存競争の中で生き残ることができるわけです。

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