サービス業が抱えるマニュアル主義の盲点とは?トップ1%の人だけが実践している思考の法則(3/3 ページ)

» 2013年02月13日 16時00分 公開
[永田豊志,Business Media 誠]
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感動を生むために、現場に権限移譲する

 どうでしょう? 「なあんだ、当たり前のことばかりじゃないか」と感じた人もいるのではないでしょうか? 「お客様への心のこもったおもてなし」は人それぞれで考え方は違うでしょうし、詳細はクレドにあえて定義していません。

 では一体、どのようにこのクレドを活用しているのでしょうか? クレドをベースにした具体的な行動のエピソードとして、元ザ・リッツ・カールトン大阪の営業責任者だった林田正光さんは、著書の中で次のようなエピソードを披露しています。

 フロリダのリッツ・カールトンで、スタッフの1人が浜辺のビーチチェアを片付けていると、1人の男性が「恋人にプロポーズをするから、1つ残しておいてくれないか」と頼まれました。スタッフは、「申し訳ありません、時間ですので」とは答えず、「もちろん」と答えました。

 リッツ・カールトンでは、顧客に対してNOは言いません。それどころか、そのスタッフは、自らタキシードに着替えてテーブルに花とシャンパンを用意し、プロポーズのときに男性の膝が汚れないように、砂浜にタオルを敷いて、プロポーズを待ちました。そのカップルが、どれほど感動したかは想像に難くないでしょう。

 リッツ・カールトンでは、このような粋な計らいをするため、あるいは顧客とのトラブルを収拾するために、最高2000ドルの特別決裁権が設けられているといいます。

 つまり、クレドで規定するのは、行動理念だけで、それを実現するのはスタッフであるということです。クレドの実行に際しては、スタッフに権限委譲しているわけです。素晴らしい理念も、具体化し、実現するのは、常に顧客と直接触れ合う現場のスタッフであるという考えがベースにあります。

 顧客にサービスを提供するスタッフ自身が考える「最高のおもてなし」を行うことが重要です。だから行動や手続きを規定するよりも、従業員の才能やホスピタリティスキルを高める教育が優先されるのです。

顧客サービスは短期的にはコストだが、長期的には投資

 米国で顧客満足度ナンバーワンのオンラインショップといえば、ザッポス・ドットコムです。ザッポスは靴のオンラインショップですが、オンライン特有の機械的で、冷たい顧客対応とは裏腹の、フレンドリーで採算度外視の顧客志向が高く評価されています。

 通常のオンラインショップにとってコンタクトセンターとはコストであり、アウトソーシング対象となる部門ですが、ザッポスでは、この部門こそが花形でサービスの心臓部と考えています。

 そんなザッポスでは、問い合わせに関するマニュアルは存在しません。オペレータがリクエストするルールは、「サービスを通してWOW(ワオ)を届けよ」だけです。「WOW」は感動したり、驚いたりするときに発する言葉です。

 つまり自分たちのサービスを通してどれだけ感動や驚きを与えられるか、を唯一のルールにしているということです。

 ザッポスに効率化のためのマニュアルはありません。よって何時間顧客と電話で相談しようが、自社サービス以外の情報提供しようが、構わないスタイルです。

 「短期に見ればコストでも、長期に見れば投資になる」――。CEOのトニー・シェイは、けた違いに高い顧客サービス品質は自社のコア・バリューだと自負しています。

 マニュアルはオペレーションの効率化には効果がありますが、マニュアルでガチガチに固めた組織は、必ずしも強くありません。

 長期的に考えれば、常に顧客満足度の向上が最終的な利益につながる考え方を全員が共有し、「マニュアルに従い、自分では考えない」のではなく、「自分のやり方で最高のサービス」を提供することが、ほかではまねのできない上質なサービスを実現するのではないでしょうか。

ビジネスプロデュース力のヒント

  • 例外を出さないマニュアル運用から高いサービス提供は望めない。まずは、サービス品質、顧客満足を高めるための行動規範を定めるべき。
  • スタッフの採用や教育に力を注ぎ、優れた企業文化を作ることができれば、それは真似できない、その会社のコア・コンピタンスとなる。

 なお本連載の基となった『トップ1%の人だけが実践している思考の法則』(永田豊志著、かんき出版刊)では、5Aサイクルの具体例として、グーグルのほか、ダイソン、アマゾンなど今をときめくイノベーティブな企業群のエピソードを18のケースストーリーで紹介しています。

集中連載『トップ1%の人だけが実践している思考の法則』について

 本連載は2012年12月19日に発売した『トップ1%の人だけが実践している思考の法則』(永田豊志著、かんき出版刊)から一部抜粋しています。

  • なぜ、Amazonは「大量の小口注文」をさばけるのか?
  • なぜ、Googleは「独自の検索システム」を編み出せたのか?
  • なぜ、ディズニーランドは「夢」を売ることができるのか?
  • なぜ、ダイソンは「羽根のない扇風機」を開発できたのか?

 本書は、イノベーションを起こして、ビジネスで勝ち残るための「思考法則」についての解説書です。これからの働き方は、大きく変わります。今まで通りに目の前にある仕事を頑張って働くのではなく、新しいイノベーションを起こしてソリュ―ション(問題解決)することが不可欠になります。本書はあなたの仕事にイノベーションを起こすために、トップ1%のできるビジネスマンだけが実践している「思考の法則」を著者、永田豊志氏が見つけ、分かりやすくまとめたものです。

 「営業」「企画」「経理」「総務」「財務」「マーケティング」――など、あなたが何を専門に従事しているかはまったく関係ありません。すべてのビジネスパーソンに必要な「思考」だからです。ぜひ、本書を読んで、変化の激しい時代に、あなたがたくましく生き残れるよう役立ててください。

著者紹介:永田豊志(ながた・とよし)

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 知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。

 リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。

 ビジネスマンの「知的生産性の向上」をテーマに精力的に執筆・講演活動も行っている。近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』『ノート・手帳・メモが変わる絵文字の技術』(中経出版刊)、『すべての勉強は、「図」でうまくいく』(三笠書房刊)がある。

連絡先: nagata@showcase-tv.com

Webサイト: www.showcase-tv.com

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