「家は消費税が上がってから買った方がトク」は本当か!?増税サバイブ術

消費増税の話が持ち上がり、「家は消費税が上がってから買った方がトク」という議論を展開した記事をいくつか見るようになりました。結論から言えば、数字だけを見た場合、消費税が上がってから買った方がトクなんてことはないのです。

» 2013年02月25日 16時15分 公開
[池上秀司,Business Media 誠]
誠ブログ

 消費税が話題になっています。大きな買い物であるマイホームですが、新築住宅の建物部分には消費税が掛かります。最近、「家は消費税が上がってから買った方がトク」という議論を展開した記事をいくつか見るようになりました。結論から言えば、数字だけを見た場合、消費税が上がってから買った方がトクなんてことはありません。単純に値上がりするのですから当たり前の話です。

 一方、メディアはそれでは消費者から注目されないので「消費増税後の方がトク」と言います。しかし、それらは全て稚拙な机上論です。ちょうどいいタイミングで最近、ダイヤモンド・オンラインにファイナンシャル・プランナーの花輪陽子さんが書いた記事が公開されていたので、それを見てみたいと思います。以下をご確認ください。

 頭金はないけど急いで購入するか、焦らず頭金を貯めてから購入するか、どっちがトクなのかケーススタディーで考えてみましょう。

  • 頭金なしで年内に4000万円の物件を購入する場合

 総コスト:約5365万円(住宅ローンの総返済額5565万円―住宅ローン減税200万円)

 4000万円の物件を全てローンで購入する場合、総返済額は約5565万円(金利2%、35年返済)になります。ここから住宅ローン減税が最大の200万円控除されるとしても、総コストは約5365万円になります。

  • 頭金を作ってから5年後に購入する場合

 総コスト:約5124万円(住宅ローンの総返済額4524万円+頭金600万円)

 2013年から5年かけて頭金600万円を作り、住宅ローンの借り入れを3400万円に抑えた場合、総返済額は約4524万円(金利2%、30年返済)になります。

 いかがでしょうか。下のケースの方は頭金を捻出していることから、利息が減り、総返済額をおさえることができます。

 引用部分は具体的に表にした方が分かりやすいので私が作りました。なお、ローン控除については考慮しません。

おかしなところ、その1:消費税が上がっていない

 表を見ればすぐに分かりますね。消費増税を話題にして今と5年後の比較をしているのに、5年後も消費税が5%のままで計算しています。この時点でお話になりません。ですから、キチンと消費税を10%にして考え直す必要があります。例えばこのケース、建物2000万円、土地2000万円で合計4000万円としてみると以下のようになります(マンションの場合は建物部分が多くなるので、消費税額も多くなる)。

おかしなところ、その2:家賃を考慮していない

 次ですが、この比較は購入時期に違いがあります。つまり、5年後頭金が600万円貯まるかもしれませんが、そのために家賃を負担します。しかし、この比較ではその家賃が欠落しています。ファイナンシャル・プランナーは住宅ローンだけを考えるのではなく、「家賃」「住宅ローン」を区別をせずに、「住宅費」として今と将来のキャッシュフローを考えるのが仕事です。「頭金」という情報提供側にとって都合のいい面だけを見て、家賃負担というマイナス面を排除した非常に偏った比較といえます。

 比較表にある通り、5%と10%の差額は314万円。それを60カ月で割ると5万2300円。つまり、5万2300円以上の家賃を負担していたら損得は逆転します。私は東京23区内に住んでいますが、ファミリー世帯が5万2300円で借りられる賃貸住宅を探すのは至難の業。この比較は極端に家賃負担がないという特殊な事例しか当てはまりません。

おかしなところ、3:資金繰りが公平でない

 記事ではあっさり「頭金を600万円貯めた場合」と書いてありますが、これは「家賃を払いながら頭金用に月10万円の貯蓄をする」ということです。これ、結構大変ではないでしょうか? 仮にそれができたとしても、その資金繰りに「今すぐ買った場合の資金繰り」を合わせて考えると、やはり今買う方が有利になります。

 具体的には表面的な損得をトントンにするために家賃を5万2300円としましょう。その家賃を払いながら頭金用に月10万円の貯蓄をします。つまり、5年間は15万2300円の支払いをするのです。では、今すぐ頭金なしで買った場合の月々の住宅ローンはいくらかというと約13万2500円です。15万2300円から13万2500円を引くと1万9800円。今買えばその分貯蓄ができます(以下参照)。

 月15万2300円の枠があるならば、「今すぐ買って浮いた1万9800円を貯めて5年後に繰り上げ返済をしたらどうなるか」が考えられます。5年後の貯蓄残高は金利を無視しても約118万円になります。今すぐ買って5年後に118万円を繰上返済(ここでは比較しやすくするために「返済軽減型」を選択)すると、それ以降の返済額は12万8144円。5年後に買った場合の返済額は12万9200円ですから、その後30年間は毎月1000円安くなります。

 このように、実際の資金繰りに照らし合わせて考えれば、やはり、今すぐ頭金なしで買った方がトクをします。公正、公平な評価とは購入価格だけでなく、ある程度資金繰りも同じようにする必要があるでしょう。

 なお、以下の記事は日経電子版の記事ですが、それらも「増税後に買った方がトク」を主張しています。消費税はキチンと10%で計算していますが、やはり上記の(2)と(3)が当てはまります。さらに、以下の記事は増税後に購入する場合の住宅ローンを35年返済で計算していますので「ローンの終了が先送りされる」面を考慮していません。

  「消費増税後に買った方がトク」という記事は、「増税していない」「家賃が抜けている」「資金繰りが異なる」「返済終了の先送りを無視」など議論の価値がありません。「数字」と「買う、買わない」は別の話です。「数字」は誰にでも当てはまりますが、「買う、買わない」は人それぞれ。そこを混同し「買わない(買わせない)」前提で強引に数字を構築するから、おかしなことになるのです。

 また、「消費税が上がると家が売れなくなるから値段は下がる」という意見も見ますが、それは憶測の域を超えないので、やはり取り扱うに至りません。この理屈で購入を先送りさせた場合、メディアやファイナンシャル・プランナーはそれを信じた消費者に対し、値段の下がったご希望の物件を持ってこなけれは大変無責任といえるでしょう。

 家は2つとして同じものがないので早い者勝ちです。今マイホームを検討中で消費税が気になっている人はメディアに足を引っ張られていないで、ぜひ前向きに進んでもらいたいと思います。

増税サバイブ術

※この記事は、誠ブログ「メディアが教えてくれない『本当のお金の話』:『家は消費税が上がってから買った方がトク』は本当か?!」より転載、編集しています。

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