25万円のクルマ、粗悪だけど低価格なら商売になる?トップ1%の人だけが実践している思考の法則(2/3 ページ)

» 2013年04月02日 10時00分 公開
[永田豊志,Business Media 誠]

新興国で作り、先進国で売る逆の発想

 しかし、世界戦略がうまくいっている企業は逆です。「製品が人々に追い付くべき」思想です。これまでと逆なのです。既に開発した製品の二次利用ではなく、現地のニーズに合わせて製品を開発します。

 つまり、100万円の製品を機能を落として50万円で売るのではなく、最初から市場が求める価格である10万円で売れる製品を開発します。しかし、その際に機能も10%程度だと売れません。簡素でも、十分な機能を果たす必要はあります。だから、機能も50%、70%といったレベルが必要です。そうすると、これまでの製品開発とは別の新しいイノベーションが必要になってくるのです。

 先進国で求められる機能の70%を先進国の販売価格の10%程度で提供することで、新興国では爆発的に普及するでしょう。今や自動車分野でも4割近くが新興国市場です。インドだけでなく、中国、ロシア、ブラジル、インドネシアなど新興国のマーケットは巨大で、未来の成長性は先進国とは桁違いです。

 さらに先進国の伝統的な企業にとって脅威なのは、新興国向けに開発された製品の機能がやがて先進国の最新製品並みに上がっていくことです。

 すると、最初は「粗悪だ」と見向きもしなかった先進国の人々でさえ、「コストパフォーマンスが高い」と評価するようになります。先進国も含めた世界市場が、新興国向けに開発された極めてコストパフォーマンスの高い製品に塗り替えられていくのです。

 つまり、先進国の高コストベースで開発したものを2次利用で世界に販売するのではなく、世界一低コストで作らなければ採算の取れない新興国で、新しいイノベーションを興して製品を作る。そしてそれをブラッシュアップして、世界を席巻していく。この新興国発のイノベーションが先進国へと逆流する現象を、ダートマス大学のゴビンダラジャン教授らは「リバースイノベーション」と名付けました。新興国を制したものが世界市場を支配する衝撃的な戦略コンセプトは、世界の経営者に衝撃を与えたのです。

 ところで前述のナノですが、残念ながら販売は低調です。当初の販売価格を大きく下回った理由は、発火事故、工場の生産不調などいろいろあるようですが、結局のところ、価格は10分の1にできたが、提供すべき機能は顧客の考えるレベルを大きく下回ったということなのでしょう。それでも機能は次第に向上するでしょうし、バイクを利用する5000万人がやがて自動車に乗り換えるのは時間の問題です。

 そしてインドの低価格大衆車で成功すれば、ほかの新興国をおさえられるでしょう。何度もいいますが、100万円を持つ1人を狙うのではなく、1万円を持つ100人を狙うのが新興国の攻め方の鉄則です。

 その鉄則を理解している企業は、ナノの販売不振にもかかわらず、続々と低価格車を発表しています。インド国内のオートバイ大手のバジャジも同価格帯の自動車を発表しました。自動二輪から四輪に展開するあたりはかつてのホンダを想起させますね。また、韓国の現代自動車や日産・ルノーなども超低価格車について意欲を示しています。

 さらに新興国で成功するためには、その国の顧客の悩みを十分理解するマインドセットが不可欠ですね。これまでの先進国の買い替え需要ではなく、買ったことのない顧客に商品を買ってもらう必要があるからです。

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