よろしくない例を先に挙げたが、新人はよい例というのもよく見ていて、真似しようとする。
私の若手時代の思い出だが、初めて先輩とともに客先に出向くこととなった。一応のビジネスマナーは復習していたものの、本物の企業訪問は初めてだった。先輩は入社3年目くらいだったと思う。非常に洗練された立ち居振る舞いをする彼の行動を一つひとつつぶさに観察した。
寒い冬に雨が降っていたので、私は傘を持ち、コートを着ていた。先輩は客先のビルの玄関先で鞄を足元に置き、傘をくるくるっと丸めてタオルで水滴を軽く拭った。私も真似して、折り畳み傘を小さく畳んだ。次にコートを脱ぎ、裏返しにして、小さく畳み、腕にかけた。すぐ同じように私もコートを脱ぎ、畳んだ。
「行くよ。大丈夫?」と声をかけられ、「はい」と言うと、姿勢よくビルの中に入り、受付カウンターに向かった。私は数歩あとに続いた。
受付でも先輩はものすごく丁寧な言葉遣いなので、私は懸命に観察した。打ち合わせが終わり、帰り道も同様に先輩の動きを一つずつ真似した。
実はこの先輩、行きの電車の中でもこんな話をしてくれた。
「田中さんは、今日初めてお客様先で説明するんだよね。基本的には、ボクを見ていてくれればいいけど、説明を任せるところもあるので、頑張ってね。で、何か困った事態に陥ったら、助けるから、何か合図を決めておこうか……。そうだ! 右のほっぺたを触って。そしたら、すぐ助け舟出すから」
説明の最中、呪文のように「困ったら右のほっぺた、右のほっぺた」と唱えていたが、最後まで右のほっぺを触ることなく、なんとか自分の説明パートを終えることができた。
この日の私は、先輩の立ち居振る舞いを真似しながら客先訪問のマナーを実地で体験しただけでなく、初めて説明してみるという挑戦も無事終えた。
もう25年以上前のこの出来事は今でも鮮明に覚えている。それほど、新人にとっての先輩の一挙手一投足は大きな影響力があるということなのだろう。
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