「社長を殺せ」と説得できる?一撃「超」説得法(2/2 ページ)

» 2013年06月07日 10時00分 公開
[野口悠紀雄,Business Media 誠]
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『マクベス』に似た状況は現代の日本にもいくらでもある

 彼の作品は「読む価値があるか?」というテストに、400年以上もの間、合格し続けているのだ。「シェークスピアを読めば人生の意義を見いだせるか?」という問いは、本書は扱わない。しかし今日出版され、翌週には消えてしまうビジネス書を読むより有用なノウハウを得られることは、間違いないと保証したい。

 実際、『マクベス』に似た状況は現代の日本にもいくらでもある。

 例えば社長が副社長を後任にしたいと思っているが、実力派常務を中心に結束したグループが社内クーデタを企てる、といったことだ。常務としては、社長から受けた恩義もあり、なかなかたくらみに乗れない。

 しかし常務がグズグズしていると社運は傾き、社員の生活は危うくなる。こんな場合にどうしたら常務を説得できるか?

 黒澤明は『マクベス』を翻案して「蛛巣城」を作ったとき、時代を原作とあまり変わらぬ戦国時代に設定した。それもいいのだが、現代の社内抗争ものに翻案したら(スケールは小さくなるが)サラリーマンにとっては、ずっと実用的になったろう。

 実際、マクベスを翻案して社内抗争ストーリーにすれば、小説の1つや2つは簡単に書ける。

 このように、マクベスは社内抗争を操縦してフィクサーになるための貴重な参考書である。もちろん社内抗争だけでなく、もっとポジティブで前向きの説得をする場合にも役に立つ。

 権謀術策(けんぼうじゅっさく)が渦巻く政治の世界なら、似た話は山ほどある。現実の出来事として最も知られているのは、竹下登の反乱劇だ。1985年、竹下は創政会を作って田中角栄に反旗をひるがえした。しかし田中の強大な権力は、簡単にはつき崩せなかった。このため、竹下は次のステップになかなか進めずいつになっても煮え切らない態度を続けた。87年に「経世会」という派閥を正式に結成するまで、周囲は竹下の決意を促すために、さまざまな工夫をしたといわれる。この経緯は『マクベス』そのものだ。

 次回は、マクベスに出てくる魔女の言葉を例に一撃説得法の極意を解説する。

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