なかなかできない「本音トーク」は移動時間に田中淳子の人間関係に効く“サプリ”(2/2 ページ)

» 2013年06月13日 10時00分 公開
[田中淳子,Business Media 誠]
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 漫画といえば、20代のエンジニアから、こんな話を聴いたことがある。

 彼は上司と岡山から東京まで出張することになった。隣り合った席で約4時間。これはリラックスから程遠い状況に思える。上司は、新幹線が走り始めるやいなや、鞄から取り出した「仕事に関係する」本を読み始めた。それを見て、20代エンジニアも、「だったらボクも」と、本を取り出した。その日が発売日だった漫画雑誌だ。漫画を読み始めた彼を目の端で捉えた上司は、突然こう話しかけてきたという。

「君は出張の際、いつも漫画を読んでいるのか?」

「はい、特にすることもないので、たいてい漫画読みます」

「岡山から東京まで往復何時間だ?」

「8時間くらい……ですね」

「月に平均して何度出張している?」

「2回くらいです」

「なんてもったいないことをしているんだ。その時間、仕事につながる情報収集に充てたらどうなる? 漫画なんか読んでないで、もっと有意義な時間の使い方を考えたらどうか?」

 上司はかなりこんこんと説教をしたらしい。彼はさすがにへきえきし、途中で「分かりました。ご指導ありがとうございました」と話を打ち切ろうとしたが、結局、名古屋も過ぎ、新横浜に近づくまで何度もなく繰り返されたらしい。

 この彼がその後どうなったかといえば、岡山と東京往復の新幹線内で、ビジネス書など仕事に関係する書籍を読むようになったのだという。

 「上司に説教されたからって、よくすぐ行動を変えましたね」と尋ねると、「だって、何時間も、“本を読むなら、仕事に関係ある本にしろ”ですよー。延々と言われれば“分かりました”という気になりますよ。それに、上司の言うことには納得できたし。今では本を持ち歩いていないと気持ち悪いくらいです」と、笑いながらそう語っていた。

 多少は脚色して話しているのだろうが、上司が移動の車内での過ごし方について説教し、それによって部下も反省し、行動を改めたという例だ。

 リーダーという立場の人のこんな例もある。その人はメンバーと電車で移動する際、その時間を会話のチャンスと思い、話しかけているという。

 「仕事上で何か悩みはない?」

 こう尋ねてもたいていは「いえ、別に」「うーん、特にないですねぇ」と言われてしまう。それはそうだ。後輩にしてみれば、どの程度まで「ぶっちゃけ」ていいのか分からないため、うかつなことは言えまい。

 一計を案じたリーダーは、自分から語ることにしてみた。自分の「悩み」を先に話すことにしたのだ。といっても、現在のリアルな悩みをメンバーに話すわけにはいかない。だから、メンバーと同じ歳のころ感じていたことを話したそうだ。

 「○○さんの年齢の頃、ボクは、こういう悩みがあって、かなり悶々とした時期があったんだ。」

 すると、後輩は目を見開き、リーダーをまじまじと見つめて「リーダーにもそんな時期があったんですか。意外です」と言い、それをきっかけに、ぼそぼそと「実は……」と自分の悩みも話し始めたという。

 自分について語ることを「自己開示」という。相手の自己開示を誘うには、自分が先に自己開示をするとよい。「ああ、この程度までは話して大丈夫だな」と相手が安心し、自分のことも語ってくれるようになるからだ。

 共に外出する時間は「本音トーク」のチャンスとして活用しやすいものだ。普段できない会話をしてみてはどうだろう?

著者プロフィール:田中淳子

田中淳子

 グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。

 1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。


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  • 著書:最新の著書は「ITマネジャーのための現場で実践! 若手を育てる47のテクニック」(日経BP社)。「速効!SEのためのコミュニケーション実践塾」(日経BP社)、「はじめての後輩指導」(日本経団連出版)、「コミュニケーションのびっくり箱」(日経BPストア)など。
  • ブログ:「田中淳子の“大人の学び”支援隊!
  • Facebook/Twitterともに、TanakaLaJunko

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